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12話 悪役令嬢の警戒を解こう会議の会場はここであってますか?

 そう言えば、最近直にサーニャと戯れてないなぁと思う。


 いや、厳密に言えば、接触も会話もしているのだ。リーナ陣営によるちょっかいもリーナの制止を受けて沈静化し、俺は大手を振ってサーニャと昼食が取れるようになってきた。


 だが、昼食そのものでは戯れられたとは俺は思っていない。


「サーニャ。お前は今日も美しいな」


「食事中です」


「サーニャ、お前はいつ見ても愛らしい」


「食事中です」


「サーニャ」


「食事中です」


 そう。サーニャは対俺最強魔法「食事中です」を覚えてしまったので、取り付く島がなくなってしまったのだ。多分何が悪いって警戒され過ぎてるのが悪いと思うのだが、警戒をすり抜ける方法は知っていても、解きほぐす方法を知らない俺である。口ばっかりだ俺は。


 なので、食事中はツンとしてモグモグしているサーニャを見つめる以外にやることがないのである。いやでもこれはこれでいいな……。顔がいいので見ていて飽きない。お、少し大口で行ったな。好きなのだろうかカルパッチョ。サーニャはさっぱり系がお好き。


「食事中です。人の顔をジロジロ見るよりも前に、ご自身の食事を終えた方がいいのでは?」


 この魔法派生するのか……。思ったより汎用性が高いぞ。











「そんなわけなので、サーニャの警戒を解きほぐす会議をやっていきたいと思う。ハイ拍手!」


「わー!」


「えぇ……? 私が呼ばれるのは良いとして、なんでリーナが平然と混ざって拍手してるんですか……」


 今回呼び出しましたるゲストは、最強にしてサーニャの可愛さを共有できる同志リーナさんと、我が腹黒そうに見えてそんなに腹が黒くない弟ルーデルくんに来てもらいました。


 俺は伊達メガネをかけて、司会を始める。


「ということでですね。本日の主題は今掲げた通り『俺がサーニャの警戒を解きほぐすにはどうすればいいのか?』という事を会議したいと思うのですが、ひとまず流れをこのようにしたいと思います」


「うわ、兄上が敬語使ってる……。違和感がすごい」


 ずっと花壇で土いじりしているルーデルに合わせて野外に持ってきたホワイトボードを、俺は裏返す。そこにはすでに、今回の会議の流れが書かれている。


「第一に、ブレインストーミング。案を出しまくって出しまくった奴が勝ちという奴ですね。原則否定はなしです。第二に、精査。ブレストを元にわちゃわちゃ議論するフェーズです。第三で結論及び、その理由を述べる形で〆させていただきたいと思います」


「思った以上に本格的ですねロレンシウス様!」


「しれっと始まったとは思えないくらいガチなんですが兄上」


 そりゃガチでやってるからな。


「ちなみに肝心のサーニャはというと、俺とリーナが一堂に会する、という事でやはり警戒して、少し遠巻きで見守る形での参戦となります。要所要所でからかっていきましょう」


「そういうことをするから警戒されるのでは?」


 ルーデルの鋭い指摘に、俺とリーナは愕然とする。


「……やはりそうだろうか」


「私もうすうす思っていましたが……」


「え、もしかしてこの場のツッコミ役って私だけですか? もう一人誰か呼んできません?」


 他の奴呼んで来ても成立しねーだろダメです。


「ではブレスト開始。はいリーナさん早かった!」


「笑て……ごほん。では私の案ですが、遠乗りでデートに連れていく、です! 昼食で形式的に毎日顔合わせをしていても、『どうせ形式だしなぁ』という事を思い出して、すこし気分がなえてしまう面倒くさ可愛いところが、アレクサンドラ様にはあると思います」


「続けて」


「ですので、私は殿下から『お前と二人きりで丸一日過ごしたいんだ』という提案を受けただけで、きっとアレクサンドラ様はときめいて仕方がないことになってしまうのではないか、と考えました」


「なるほど……。十理くらいありそうだな。はい次! ルーデル」


「そもそも警戒される、というのは、兄上にいじられまくるのが嫌だ、という前提のもとに成立していると思います。ですので、いじるのを止める、というだけで普通に警戒は解けるのではないですかね」


「ペッ」


「ッ!?」


「では最後の案は俺から。俺の案は贈り物大作戦だ。サーニャが欲しいものを送る。というありきたりなものだが、これはサーニャの誕生日が近いというところからの提案だ」


「あ、そうなんですね。そこをちゃんと把握しているのも、兄上の癖にマメというかなんというか……」


「ロレンシウス様ってそういうところ外しませんよね。私も初夏の誕生日のことを思い出します」


「元カノをこの場に呼んだことを後悔し始めているがそれはさておき。まぁ昼休みの少ない時間での会議だ。一人一案くらいでいいだろう」


 ブレストタイム終了。次は、精査タイムだ。


「ルーデル。先に言っておくが、いじるのを止めるのはなしだ」


「なしですね」とリーナさんも追従する。


「いや、まぁ、反応でそれは分かってましたけどね」


 ルーデルは否定を受けて苦笑顔。だが、俺の言葉は続く。


「だが、分析は面白いと思った。俺がサーニャをからかうことを、サーニャが嫌がっている、という推察だ。その前提は興味深い」


「そうですね。アレクサンドラ様が嫌がっている。だからやめた方がいい、というのは、ある意味あっていてある意味外れている、という感じがします」


「何か君たち高度なこと言ってない? 私には全然分からないんですが」


「まず、ここで俺が抱えている情報を開示しよう」


 俺は一度仕切り直す。


「まずもって、サーニャが嫌がっている、というのは間違いだ。本当に嫌がっているなら、俺は蛇蝎のごとく嫌われているはず。だが、先日俺は、サーニャの口から『前のロレンシウス様より今の方がいいです』と言われている」


「キャー! キャー!」


「え、マジですか。普通に嫌がっているものだと思ってましたが」


「ああ、そうだ。問題はそこにある。つまり、傍から見ていると『嫌がっている風に見える』ということに、問題の本質がある訳だ」


 遠巻きに見ているサーニャが、不可解そうな目でこちらを見ているのが分かる。恐らくここまでは何も聞こえないでいたが、リーナの黄色い声を受けて、何があったのかと疑っているのだろう。


 俺はサーニャに聞こえるよう、声の大きさを少し上げて話し始める。


「実質的には嬉しく思っているが、傍から見ると嫌がっている風に見える。この差がどこから生まれているのかと言えば、サーニャが取っている『私は嫌がっています』というポーズだ。このポーズを取ることによって、サーニャは周囲から『からかわれて喜ぶはしたない女である』というレッテルを回避し、プライドを守っている」


 遠くで、驚愕に震えるサーニャの姿があった。顔は赤面ではなく青ざめる形に近い。


「となると、必要なのは認識改革と言ったところですか?」


「リーナはよくこの話について行けますね……。流石は兄上に続く成績学年二位」


「アレクサンドラ様は可愛いので」


 そうなのだ。リーナさんはすごいのだ。俺が声を張り始めた理由を瞬時に理解し、自分も声を大きめに話すようにし始めているところとかマジで尊敬する。逆の立場でそこまで察し良く動ける自信が俺には無い。そしてサーニャいじりに対するモチベが俺に続いて高い。


 そういえばサーニャの絵をお持ちだとか。俺にも分けていただけませんかね。


「っていっても、認識改革って何をするつもりですか兄上」


「方法そのものはいくらでもある。強引な方法で言えば、それこそ催眠、クスリ、魔法……よりどりみどりだ」


 遠くでサーニャがぶるぶる震えている。怯える様子も可愛いなぁ。でも冗談を本気にされてしまっても困るので、ちゃんと続く言葉も大きい声で言う。


「だがサーニャの身体の安全が第一だからな。こういった強引な方法は、今回は却下とする」


「となると、懐柔策ってところでしょうか?」


「ああ、そうだな。リーナさんの案を俺も考えていた」


 いぇーい。と俺たちはハイタッチ。「以前とは全く別の仲の良さになりましたねお二人」とルーデルは頬杖を突く。サーニャは不安そうにチラチラと俺たちの方を伺っている。


「そんなわけで、今までの原義ツンデレこと『人前ではツンツン、二人っきりではデレデレ』も楽しかったのだが、第二フェーズに移行すべきだと判断した。つまり、『人前で恥ずかしいことは二人っきりでも出来ない』というメンタリティの粉砕だ」


 俺の説明に、ルーデルはよく分からない、という顔をして、リーナさんは目をパチパチさせた。ありゃ、日本特有語が多かったかしら。まぁいいや。リーナさんに意味が伝わっていれば、ルーデルは賑やかしで呼んだだけなので。


「よく分かんないんですが、具体的にはどうするつもりなんですか、兄上は」


「よくぞ聞いてくれた弟よ。どうすればいいと思う?」


「何も案はないんですね……」


「はい!」


「そしてリーナのこのやる気の高さは何なんですかね」


 俺は無言でリーナさんを指し示す。リーナさんは立ち上がっていった。


「要は、『あれ? からかわれてちょっと喜んでいるところを見られても、別に馬鹿にされたりしない?』ということが分かることで、アレクサンドラ様の態度の軟化が進むのでは、と思います」


「ふむ。詳しく」


「はい! まず現状の共有ですが、今のアレクサンドラ様は学年女子全体の腫物に近いです。お茶会にも誘われず、いじめに対して殿下が手を打ったのもあって陰口すらありません。触れてはならないタブーに近い存在になっています」


「ほう。それは俺も把握していなかった」


 リーナさん情報取集能力も高いのか。強いな。と思っていたら、「ああ、その件に関してなら私からもいくつか追加で」とルーデルが手を挙げる。


「その辺りはすでに調査も完了していて、要するに『落ち目だと馬鹿にしていたが、馬鹿にするのも結局ダメだったので、どう扱っていいか分からない』という状態に落ち着いている、というのが雰囲気の言語化したものになります」


「ほう……? つまり」


「はい。つまり、上げるべきか落とすべきかが分からないので、触れない、という感じですね。兄上が公言するだけでガラッと変わりますよ」


 ふむふむ。なるほど……。非常に参考になった。一つだけ言うのであれば。


「ルーデル……。お前、笑うだけ笑って特に役に立たずいなくなる、ウザイ弟ってだけじゃなかったのか」


「ええ、名誉挽回できて光栄ですよ兄上」


 ルーデルはピキりながら笑顔でそう言った。そうかこいつ情報収集に長けてるのか。今後はそういう風に都合よく使ってやろう。


「となれば、方向性は見えてきたな」


「サーニャは以前通り正妃予定の女性である、みたいな話の宣言ですか?」


「いいや、サーニャの可愛さを学園全体に知らしめる」


 遠くでサーニャが、目を剥いて飛びあがったのが分かった。俺とリーナさんはほっこりとする。


「ロレンシウス様。それで行きましょう」


「ああ、決定だな」


「……私もいろいろ裏で立ちまわってきましたけど、兄上とリーナだけは敵に回さないようにしなきゃなって今思いました」


 悪ノリで社会的に殺される、とルーデルはぼそりと言った。失礼な。サーニャは生まれ変わるのだ。氷の悪役令嬢から、何か可愛い小動物に。


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