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モテすぎる悪友が鬱陶しいので、彼女を作らせて黙らせたい  作者: 梨本 和広
2章 球技大会と青八木家

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47話 暴露会と

雨竜の言い分はこうだった。


今回の球技大会男子の部決勝は、僕の加入でBクラスが追い上げることができていた。事実はどうあれ、そう感じる人が会場には多く存在したと思われる。

そんな中の不慮の事故、悪質に見える顔面へのヒジテツ。あれだけ盛り上がっていた会場が沈黙するほどの衝撃を与えていた。


――――Cクラスの渡辺という男に、ヘイトが集まってもおかしくはないほどに。


実際僕の鼻血は止まらず、ベンチに引っ込まざるを得ない状況になった。もしここでCクラスが勝ったとしても、僕がベンチに下がったせいだと、正当な評価を得ることはできなくなる。ましてや『勝つために渡辺がそういう行動を取った』と思われるかもしれない。


だからこそ、渡辺が不当な評価を受けないよう、僕が彼に顔面パンチをすることで、僕に対する同情心を下げさせようとしていた、というのが雨竜の考えだった。



「どうだ? 当たらずとも遠からずってところだろ?」



言葉とは裏腹に、雨竜の表情は自分の言い分は間違っていないと自信満々だった。

上から目線のこの態度が非常にイラッとくる。


「それ、僕にメリットがあるのか?」

「ないな。頑張ってたお前の評価が下がることはあっても」

「だろ、じゃあなんで僕はそんなことするんだよ」

「なんでって、そりゃ決まってるだろ」


そう言うと、雨竜はニヤリと口角を上げた。



「だってお前、なんだかんだ人に甘いじゃん」



それが、雨竜にとっての僕が行動に起こした最大の理由。頑張ってがむしゃらに動いていただけの生徒が今後の学校生活に支障をきたさないよう、被害者になるよう動いた。僕が寛大な心を持っているから。


「さてと、そろそろ答え合わせをしたいところだが」

「……ちっ」


雨竜がニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべるものだから、僕はあからさまに舌打ちをした。

ったく、別に掘り下げる必要もないことをべらべらべらべら偉そうに。


「僕の考えなんてどうでもいいんだよ、Bクラスが優勝したんだから」


2学年の生徒が全員集まった場でああいう事故が起きたことに同情したのは認めてもいい。でも結局、僕が引っ込んだところで試合には勝てたのだ。Cクラスが悪く言われる展開がなくなったのだから僕の行動に意味なんてない、ただの反撃行為だ。


「おっ、じゃあ俺の推察したお優しい行動は認めるんだな?」

「認めない。僕は僕のまま行動を起こしたに過ぎん」

「だからその結果があのパンチだろ? まったくお前は、バレたのが照れ臭いのか?」

「うっさい! この話は終わりだ、次はお前の番だろが!」

「俺の番?」

「決勝戦、前半手を抜いてた件だよ!」

「ああそれか」


僕が聞き返すと、雨竜はあまり興味がないのか淡泊な反応だった。ナイーブな話ではあるので一応周りに気を遣いながら、雨竜は僕の方を見やる。



「まあそうだな、点を取られたら取り返すくらいはできただろうな。もっと真面目にやってれば」



個人的には問題発言だった。あの青八木雨竜が球技大会の決勝戦で本気を出さずにチームにピンチを招いた。人によっては聞き捨てられない内容だろう。


「お前な、なんでそんなことしたんだよ? 勝つこと優先したらそんな考えには至らないだろ?」


そりゃ雨竜にも事情があったのかもしれない。バスケは激しく体力を消耗するスポーツだし、体力配分を考えれば前半に無茶できなかった可能性もある。だとしても雨竜がいながら4ゴール差もついてしまえば、チームの士気が下がってさらに酷い状況になっていたかもしれない。僕の加入で持ち直したようには見えていたが。


「そりゃそうだ、決勝戦は勝つことなんて二の次だったし」

「はっ? ならハーフタイムに言ってたことは何だよ?」


コイツは自分たちの力を全て出さずに負けたくないと言っていた、だから僕を試合に出したかったと。それがここでは勝つことなんて二の次だと言ってしまっている。どれが本心なのかさっぱり分からなくなってきた。




「あれは嘘だ。正直に言えば、俺はお前とバスケしてみたかっただけだからな」




――――だからこそ、急に取り繕っていない本音をぶつけられ、僕の瞳はギョッとする。

コイツの言うことが正しいなら、球技大会の決勝を私物化したことになる。ただ、僕とバスケをするために。


「お前が経験者相手に物怖じしないと思ってたのは事実だけどな。まさかあんなに活躍してくれると思わなかったよ、おかげで最後にあいつらの不意を突けたわけだし。あそこまで爽快な試合展開ってなかなかないんだぞ?」


雨竜は楽しそうに話をする。その様子は、普段の大人びた印象を霞めさせるほどに無邪気だった。それだけ今日の試合に満足しているのかもしれない。


「まっ、そんな感じだ」

「何がそんな感じだ、自分勝手に好き放題やりやがって」

「別にいいだろ、俺がいなきゃ決勝まで来てないんだし」


この開き直り。さっきから周りには聞かせられない内容のオンパレードだな。


「お前なら何かやってくれると思ったけど、まさか鼻血まで出してくれるとは思わなかったぞ」

「そんなの僕だって思ってねえよ!」

「はは、そりゃそうだ」


この野郎、お前が試合に出ろって言わなきゃそもそもヒジテツだってされてないっていうのにまるで反省の色が見えないな。馬鹿みたいにゲラゲラ笑いやがって、まあ抹茶に釣られて試合に出た僕が言えた義理じゃないが。


「ん? 電話だ」


ちょうど話に区切りがついたところで、雨竜は胸ポケットに入れていたスマホを取り出す。誰かから電話がきたようだ。


「もしもし姉さん?」


どうやら相手は氷雨さんらしい。というかこの場で堂々と出るのかよ。いや、着信が氷雨さんだったからこの場で出たなコイツ。


「今? 球技大会の打上げ中だけど…………えっ?」


そこで雨竜の顔色が変わる。和らいでいた表情が一瞬にして引き締まった。


「いや、俺のところには何も。というかそれいつの話? ……2時間くらい前、うん、うん」


声のトーンが変わる。いつにも増して真剣な表情で雨竜は氷雨さんと会話していた。


「とりあえずすぐ帰るよ。姉さんは無理しなくていいから、俺が動くし。……うん、その方がいいよ、じゃあ一旦切るから」


そう言って雨竜は電話を切ると、すぐにポケットから財布を取り出した。そこから千円札を2枚取り出してテーブルの上に置く。


「何かあったのか?」


どう見ても帰ろうとしている雨竜に僕は質問せざるを得なかった。自分で作った打上げの場を放棄してまで、この男は何をしようというのか。


「…………すまん雪矢。トラブル発生で今、猫の手も借りたい状況だ。せっかく打上げにきてくれたところ悪いんだが、手を貸してくれないか?」


そう言って雨竜は、深刻そうな声色で何が起きているかを口にする。




「――――梅雨が両親と喧嘩して、家を飛び出したっきり戻ってないらしい。この雨の中、傘も持たずに2時間以上」


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― 新着の感想 ―
[一言] 球技大会編は何度も読んじゃいますね 雪矢と雨竜の"相棒"感が強すぎて....
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