46話 打上げ
「何だこの人数……」
優勝チームと有志で行われるBクラスの打上げは、サイなんとかではないそこそこ値の張るファミレスで行われることとなった。
なんとかゼリアで行われなかった理由、総勢27名を許容できるキャパシティがなかったためである。
そもそもの話、金曜日の夕方にこの人数が入れる店を探す方がどう考えても困難である。もはやカラオケしか選択肢がないと思われたところでこの店に入れたのは奇跡だと言ってもいい。
「みんな座った? なら各テーブル好きにオーダー頼んで!」
打上げの主催者なのか、雨竜が座っているBクラス連中に声を掛けながら歩き回る。なんで優勝の立役者が幹事みたいなことをしているのか分からないが、他に適役がいないので仕方ない。御園出雲は用事があるとかで参加していないし。
僕は角の4人席の壁際に腰を落ち着けていた。祝勝会も兼ねているんだから真ん中に行けと雨竜に言われたがそれは拒否、来ただけでもありがたいと思ってもらおう。
僕の隣には誰も座っていないが、正面には少しだけ見慣れた女子2人が座っていた。いつか僕と雨竜が付き合っているとふざけたことを言った女子AとBである。
気味が悪いほどニコニコしているくせに、一切話しかけてはこない。料理を頼み終わった今でも特に何か言ってくるでもない。何だか少しずつ怖くなってきた、今からでも席を代えてもらえないだろうか。
「よし、みんなドリンク持ったか?」
全員がドリンクバーを頼んで各々好きなジュースを手に持つ中、店員に持ってきてもらったお冷やで対抗する僕。飲み物にお金を使うくらいなら全てご飯につぎ込む、それが僕流だ。
「では早速、球技大会お疲れ様! 乾杯!」
「「かんぱーい!!」」
雨竜のかけ声に倣い、声を合わせてグラスを大きく掲げるクラスメイト。カンカンとグラスの音が鳴り響く中、僕はちょびちょびとお冷やを飲んでいた。普通に旨い。
僕は肘を突きながらBクラス連中の様子を見渡す。普段あまり話さない男女がここぞとばかりに会話を弾ませ、交流を深めていく。男子の方が多いため男子席もあるが、そこはそこで楽しそうに盛り上がっている。球技大会にかこつけてこういう場をセッティングしたかっただけなんだと察してしまった。
「廣瀬君、試合良かったよ」
僕が頼んだほうれん草のソテーとハンバーグライスが届いたタイミングで、ついに女子Aが僕に接触してきた。何を言われるかと構えてしまっていたが、案外普通の内容で安心する。
「至高のグータッチ、堪能させていただきました!」
「いやいや、どう考えてもその後のハイタッチでしょ!」
気のせいだった。何一つ試合の講評をしていなくてガッカリした。いったい何をここまで熱く語れるのだろうか。
「でもでも、青八木君のタップシュート良くなかった?」
「ああ、お互い信頼し合ってますオーラ出てた」
「わかりみ~」
会話に参加すると頭が悪くなりそうだったので、僕は無視してご飯にありつくことにした。味は所詮ファミレスといったところか、父さんの技量には遠く及ばないな。まあ雨竜の奢りだから全部お腹には入れさせてもらうが。
「ここ、座ってもいい?」
目の前の2人の会話がいつの間にか口論になりデッドヒートしかけた頃、順番に顔を出しているらしい雨竜がグラスを片手にそう言ってきた。
「あ、青八木君!!」
「どうぞこちらをお使いください! 我々若輩者は存在を消し去りますので!」
「えっ、ちょ」
雨竜が来て興奮度が上がったのか、女子Aと女子Bは顔を真っ赤にして別の席を探しに飛びだってしまった。ホントあいつらの勢いすごいな、お笑い芸人でも目指したらどうだろうか。
僕の隣に座ろうとしていた雨竜だったが、2人がいなくなったのを見て僕の正面へと場所を移る。
「よっ、楽しんでるか?」
「そう見えるなら病院に行った方がいいと思うが」
打上げなんて言葉を使っているが、こうして雨竜と話すだけなら日常とほとんど変わらない。これなら参加しなくても良かったんじゃないだろうか、割と真面目に。
「とりあえずお疲れ」
そう言って雨竜がグラスをこちらに寄せてくるため、仕方なく僕はお冷やをぶつけてやる。
「ちゃんと美味しいもの食べてるか、優勝の立役者なんだから遠慮するなよ」
「そうだ、そのことでお前に話があったんだ」
「話?」
わざとらしく首を傾げる雨竜にイラッとしながらも僕は質問することにした。
「雨竜お前、本当は僕が出なくても勝てたんじゃないのか?」
僕が退いた後の雨竜のプレイは、例えマークが2人居ようとも関係ないと言わんばかりに猛威を振るっていた。御園出雲と話していたせいでラストは見られていないが、さらに追加で点を取っているところを見ても僕が必要だったと思えない。
だから会話の種として訊いてやったが、雨竜は口元を緩めて右手の人差し指を立てた。
「それに答えるなら、俺の質問にも答えて欲しいんだが」
そう前置きをしてから、雨竜は真面目な顔つきで僕に問いかける。
「お前が鼻血を出したとき、どうして渡辺を殴ったんだ?」
渡辺とは、おそらく僕にヒジテツを入れた生徒のことだろう。
「なんだ、報復行為が気に入らないって言うのか?」
「違う。あそこでやり返さないお前はお前じゃないよ」
はっ? 同じバスケ部の仲間に攻撃したことを怒っているのかと思いきや、雨竜の疑問はそこになかった。
「じゃあ何が言いたいんだよお前は?」
「俺が聞きたいのは、なんで顔面パンチだったのかってことだよ」
桐田朱里に聞かれたときのように一瞬固まってしまう僕だったが、すぐに立て直して言い返す。
「あのな、こちとら鼻血を出してるんだぞ、イラッとして殴ってもおかしくないだろ?」
「おかしい。お前なら絶対頭にチョップをしていたはずだ。あんなに見ていて分かりやすい攻撃をするはずがないんだよお前が」
「……」
僕は何も言えずに沈黙する。確かに僕は、イラッとしたときは男女平等に頭部へチョップで攻撃してきた。その光景は当然雨竜も見てきて理解しているだろう。じゃなきゃこんなことは言ってこないはずだ。
「お前が理由を話す気ないなら、俺の憶測で話すぞ?」
「勝手にしろよ」
「それなら勝手にさせてもらうが」
雨竜は1度喉を鳴らしてから、僕に自分の見解を話し始めた。
「本当はお前、渡辺のこと助けたかったんじゃないのか?」




