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モテすぎる悪友が鬱陶しいので、彼女を作らせて黙らせたい  作者: 梨本 和広
2章 球技大会と青八木家

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45話 閉会式の後

表彰式兼閉会式を無事終了すると、僕はどっと身体に疲れが残るのを感じた。


それもこれも決勝が終わって閉会式が始まるまで、BクラスとCクラスの男子の相手をさせられたからである。


同じクラスの奴らからは「なんで今まで試合出てなかったんだ」とか「股下シュートもう一回やってくれ」とか「お前のおかげで決勝勝てた」とか。

Cクラスの奴らからは「バスケ初心者ってマジ?」とか「ゾーン崩しって狙ってやったの?」とか「今からでもバスケ入らない?」とか。


僕への声掛けがまったく止まず、とにかく鬱陶しかった。質問に答えたら答えたで反応が過剰で面倒くさいし、試合に出なければ良かったと心の底から思わされた。僕がやったことなんて誰でもできるし特別なことでもないっていうのに騒ぎすぎなんだよ、雨竜の方がよほどすごいプレイをしていただろうに。


まあ雨竜は女子に囲まれていたから仕方なく僕にたかったのかもしれないが。


とりあえずこれで今日は終了、さっさと帰って明日明後日の休日の計画を立てたいところだったが、



「廣瀬君!」



パラパラと生徒が更衣室へ向かっていく中、僕は桐田朱里に声を掛けられた。その隣には月影美晴もいた。


「その、鼻は大丈夫?」


2人して心配そうな表情を浮かべているかと思いきや、ティッシュの詰まった鼻のことを気にしてくれていたようだ。そういえば御園出雲もこの2人は心配していたと言っていたような気がした。


「血はもう止まった。問題ない」

「そっか、けっこう勢いよく当たったように見えたから心配で」

「接近してればああいうアクシデントもある。僕は運がなかったな」

「……」


僕がそう言うと、桐田朱里も月影美晴も不意を突かれたように驚いていた。


「何だ、変なこと言ったか?」

「ううん。雪矢君あんまり怒ってなさそうだなと思って」

「そうそう、あんなパンチするくらいだから廣瀬君、すごい怒ってたんじゃないかって」

「……溜飲ならとっくに下がってる。いつまでも怒ってても仕方ないだろ」

「それもそうだね」


咄嗟に絞り出した言葉で、2人はあっさり納得してくれたようだ。いかんいかん、まさかそこを気にされるとは思ってもいなかった。


「それはそれとして雪矢君、優勝おめでとう」


アクシデントの話を終わらせた月影美晴は、いつものような穏やかな笑みを浮かべて僕を賞賛した。


「99%雨竜のおかげだからな。僕は関係ない」

「関係ないってことはないんじゃないかな? 決勝であんなに活躍したんだし。ねえ桐田さん?」

「そうだよ! 廣瀬君が入ってから点差が縮まって、すごいプレイもいっぱい見られたし!」

「すごいプレイって、そりゃ雨竜の成果だろ?」

「違うよ! 確かに青八木君も格好良かったけど、その、私的には、えっと」


興奮気味に早口で喋っていた桐田朱里の勢いが止まる。髪を指で弄りながら、僕に視線を合わせようとしない。急にどうした、いつもの病気か?


「私的には、廣瀬君の方がカッコ」

「ユッキーのバカヤロウ!!」

「のわっ!!」


僕と向き合って何かを言おうとした桐田朱里を遮るように、後ろから大きく揺さぶられる僕。両肩に置かれた小さな手を弾いて後ろを振り向くと、悔しさを隠せていない神代晴華と呆気に取られている名取真宵の姿があった。


「このアホ! いきなり何しやがる!」

「いたっ!!」


後方から危ないことをする神代晴華に最大火力のチョップを食らわす。揺れた拍子に誰かと頭をぶつけたらどうするんだ。


「だってえ悔しいんだもん!! せっかく男女ともに優勝できそうだったのに!!」


頭を押さえながら神代晴華は愚痴を漏らす。どうやらCクラスであるこのお嬢さんは決勝の結果が気に入らなかったようだ。前半気持ちよくリードしていただけに、後半はどんでん返しを食らったような気分だろう。


「試合出ないって言ったくせに! その上活躍までしてえ、ユッキーの馬鹿!」

「知るか、僕は抹茶のために動いただけだ。だいたい活躍なんてした記憶はない」

「良く言うよ、1ゴール2アシストした上にダブルチームまで崩させたくせに」

「僕がやったことは誰でもできるんだよ、僕が代表してやっただけで」

「本気で言ってる? あそこまでウルルンと息合わせるなんてユッキーじゃなきゃ無理だと思うけど」

「あいつが僕に合わせたんだ、過大評価されても困る」

「むう、ユッキーの頭でっかち!」

「神代じゃないけど、あんた随分自分を卑下するじゃない」


ぷんすかお怒りモードの神代晴華に割って入ってきたのは名取真宵だった。


「確かにプレイ内容だけ見たら誰でもできるのかもしれないけど、『誰でも』に当てはまるような人間は経験者相手にあんな堂々とプレイできないわよ?」

「そうだそうだ、マヨねえいいこと言った!」

「あんたはマヨねえやめなさい!」

「いたっ! ユッキー叩いたところ叩いた!」

「あんたがそのダサいニックネーム止めないからでしょ!?」

「ダサくないよ!? 渾身のニックネームって言ったじゃん!」


いつの間にか矛先が僕から別のところにいってしまった馬鹿2人。チャンスだ、今の内にそそくさと帰らせてもらおう。


「いたいた、最近のお前はいつも女子に囲まれてるな」


こっそり抜け出そうと思ったタイミングで、今度は雨竜が輪に加わってきた。この野郎、なんでこのタイミングなんだ。僕が1人になったときでいいだろ、帰る機を逃したらお前のせいだぞ。


「どうしたのウルルン?」

「……ウルルンじゃないが、Bクラスの有志で打上げをしようってなってね。優勝チームメンバーは全員参加だそうだ」

「はあ!? 聞いてないぞ僕は!?」

「そりゃそうだ、今言ったんだし」


冗談じゃない、打上げだと。そんなの参加してたら帰るのが遅くなって父さんが心配するじゃないか。恐らく夕食だってもう準備してるし、そこまで付き合ってやる義理はないぞ?


「お前、ホント表情を隠そうとしないな」

「行きたくないオーラを全身から出しているつもりだ」

「えーなんで? 行ったらいいじゃんせっかくなんだし」


雨竜を援護するように神代晴華が同調する。せっかくって何だ、優勝に僕はほとんど関わってないぞ。


「たまにはいいだろ1日くらい。お前が何もしてないなら無理に誘わないけど、今回はちゃんと参加したんだから」


皆の視線が僕に集中する。僕がイエスと答えるまでずっとこんな雰囲気が続きそうだ。


くそう厄日だ、なんでこんなことになるのやら。


「抹茶奢り、全部帳消しだ」

「了解。それで手を打とう」

「後どこで打上げするか知らんが奢れ、金がない」

「まあそれくらいなら、1000円までだぞ?」


こいつめ、坊ちゃんの癖して所帯じみた金額を提示しやがる。きっかり千円使うから覚悟しろ。


「後スマホ貸せ」

「はっ? 何に使うんだ?」

「父さんに連絡するんだよ」

「律儀だなお前」


優勝の賞状をしまうためにカバンを持ってきていた雨竜は、ロックを解除して僕にスマホを渡す。


雨竜たちから少し距離を取り家の電話番号を入れると、3コールほどして向こうに繋がった。


『もしもし廣瀬ですが』

「父さん、僕だけど」

『ゆーくん? お友達の携帯?』

「クラスメイトの携帯。それで、話があるんだけど」

『どうしたの?』

「えっと、その、今日球技大会があってさ」

『成る程、帰り遅くなるから夕ご飯はいらないって連絡かな?』


さすが父さん。僕の考え程度などお見通しのようだ。


「ゴメン、もう準備してるよね?」

『気にしないでいいよ。お父さんはゆーくんがお友達と遊んで帰ってきてくれる方が何倍も嬉しいから』

「僕の分のご飯は残しといて、明日の朝か昼に食べるから」

『うーん、それだと朝か昼が2食分になっちゃうんだけど』

「いいから残しといて! 全部食べるから!」

『はいはい分かったよ。じゃ、雨も強いから気を付けてね』

「うん、いつもありがとう」

『こちらこそありがとう』


そう言って父さんとの電話を切る。とりあえずこれで父さんに心配はかけずに済んだわけだが。


打上げか、全く以て気乗りしないんだが。


「ちょっと廣瀬」

「なんだ?」

「さっきの話聞いてたけど、お金ないなら早く言いなさいよ。これ、ボイスレコーダーのお金」

「…………」

「どうしたのよ、面食らったような顔して」

「……このこと、雨竜には内緒だぞ?」

「どんだけがめついのよあんた……」

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