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モテすぎる悪友が鬱陶しいので、彼女を作らせて黙らせたい  作者: 梨本 和広
2章 球技大会と青八木家

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44話 球技大会17

顎を上げて右手で鼻を押さえるが、ゆっくりと溢れ出てきて止まる気配がない。ティッシュもタオルもすぐには準備できなかったので、体操服に血がついてしまった。最悪だ、絶対に父さんが心配するじゃないか。


「す、すまん! 大丈夫か!?」


隣にしゃがみ込むヒジテツ君が心配そうに僕を見る。先程まで賑やかだった体育館内が静まりだして妙に居心地が悪い。痛み自体は割と収まってきているが、血が止まらないのはどうしようもない。


この光景を見て大丈夫か訊いてくるのだからヒジテツ君もなかなかなものだ。どう見ても大丈夫じゃないだろ。イラッときたので左手の正拳を顔面にぶち込んでおいた。


「いだっ!」

「おい廣瀬! 何やってんだ!?」


こちらの方に寄ってきていた体育教師が急いで駆け寄ってくる。僕が肘を入れられた報復をすると思ったのかもしれない、会場も少しだけざわついていた。


「お前、何も殴ることないだろ!? こっちだって悪気があったわけじゃ」

「うるさい、それで許されるなら警察なんているか。大事なのは僕が納得するかどうかだ。この程度で許す僕に感謝しろ」


僕はヒジテツ君に吐き捨てると、ガミガミうるさい体育教師を無視してベンチの方に向かう。


「雪矢、大丈夫なのか!?」


すると今度は雨竜が声を掛けてきた。どいつこいつも、心配する前に僕をベンチで休ませてくれ。


「大丈夫じゃない、僕の最高にイケてる鼻が曲がったかもしれん」

「そうか、大丈夫そうだな」


おい、ちゃんと僕の話を聞け。お前にも1発正拳噛ましてやろうか。


「痛みはそれほどでもないが鼻血が止まらん。僕はベンチに引っ込むぞ」

「分かった。5分出てくれたから、抹茶奢りは2日分で勘弁してやる」


嘘でしょ、この様子見てそこ許容してくれないの? 普通1週間分全部取り消してくれる流れじゃない?


まあいい、そこは今後の交渉として、僕は雨竜に言ってやらなくちゃいけないことがある。



「雨竜――――負けんじゃねえぞ」



残り約2分、試合は1点ビハインド。再開はおそらくヘルドボールからのジャンプボールになるから、ほぼ試合開始と同じ状況だ。


ここまで追いついて負けるなんて僕は許さん。前半と同じスタンスで守られようとも、雨竜にはたった2分程度限界突破してもらわなくちゃ困る。



「当然だ、お前はベンチでおねんねしてていいぞ」



一瞬時が止まったかのように呆然としていた雨竜だが、腹立たしいほど爽やかな笑みと共に軽口を叩いた。まったく以て鬱陶しいが、こう言ったからには有言実行するのがこの男である。ならば任せておいて問題ないだろう。



「はいこれ! すぐ当てて!」



ベンチに戻ると、何故かそこには御園出雲が立っていた。僕が来た瞬間に持っていたタオルを鼻に押しつけられる。


「氷嚢は野村君が今取りに行ってるから、とりあえず今はそれで我慢して。手は洗いに行かなくていいの?」

「試合終わってからでいい、というか野村って誰だ?」

「……あなたね、同じチームの、というか同じクラスの生徒の名前くらい覚えなさいよ」


どうやら野村とは、前半に試合に出ていたBクラスのチームメイトらしい。後半はベンチで応援に回っていたそうだが、僕の状況を見て保健室に駆けだしたようだ。野村、いい奴だな。


僕の代わりにもう1人のベンチがコートへ入り、試合が再開する。ジャンプボールで雨竜が飛んだため、ボールはBクラスからとなった。


「お前、なんでここにいるんだ?」


試合から目を切らないまま、僕は隣に座る御園出雲に声を掛ける。


「何よ、私じゃご不満?」

「そういう意味じゃない。誰が来ても同じこと言ってる」

「そりゃクラスメートが血を出して座り込んだら心配するでしょ、ただでさえあなたは無茶しそうだし」

「ほっとけ」

「本当は朱里や美晴も心配してたんだけど他クラスだからね、悪いけど私で勘弁してもらうわよ」

「応急処置に誰がいいなんてない、やってくれた奴に感謝するだけだ」

「……そう」


フロントコートに入る前にボールを受け取った雨竜が、2人のマーカーと対峙する。先ほどは浜岡へパスして勝負を避けていた場面だが、雨竜は1度右へスピード上げてから切り返し、2人の間をぶち抜こうとした。


しかしその先にはトライアングルのトップもいる。いくら雨竜といえど無茶過ぎる突破に息を呑んだが、雨竜はそこからスピードを緩めて後方へ下がり、大きくジャンプした。ほぼ3ポイントラインを跨いだ長距離シュート。鬼のドリブル突破ばかりを警戒していたCクラスはブロックに入れなかった。


リバウンダーのフォローもない、雨竜といえど成功率が高くない遠くからのシュート。

それにも関わらず、ボールはあっさりリングの中へと呑み込まれていった。残り1分半で遂に逆転、恐ろしいまでに雨竜は陽嶺高校のエースっぷりを発揮していた。そりゃあれだけモテるのも無理ないわな。



「あなたさ、どうして試合に出たの?」



ゴールで試合が途切れたタイミング。御園出雲はそんなことを口にした。


「誰に言われても出ないの一点張りだったじゃない、どうして出たのよ?」

「別に、雨竜と交渉が成立しただけだ。他意はない」

「ホントに? ホントにそれだけ?」

「何が言いたいんだお前は」

「……チームメイトと勝利を分かち合いたいとか、思わなかったわけ?」

「はは、何を言い出すかと思えば冗談だろ?」


僕は御園出雲の言葉を笑って一蹴した。


「チームの勝利なんてどうでもいい。僕が関わったから勝ちたいと思っただけだ、それと一緒にされるなんてまっぴらゴメンだ」

「成る程ね、あなたらしい考え方だと思うわ。合理的というかなんというか」


僕の言葉を否定することなくかみ砕く御園出雲。これで話が終わったのかと思ったが、



「……でもあなた、試合中とても楽しそうだったじゃない」



不意に紡がれた言葉に、僕の心臓は大きく跳ねる。鼻の痛みなどもはや頭から消えていた。


「ただストイックに勝利を目指すだけなら、笑顔は生まれないんじゃないの? チームで取る点が嬉しくて、チームで守り切る瞬間が気持ちよくて、だから楽しかったんじゃないの?」


一瞬、中学時代の記憶が呼び起こされた。その忌まわしき過去が、御園出雲の言葉を否定する。


違う。そういうわけじゃない。僕の作戦が奇麗にハマったから嬉しかっただけだ。雨竜が凄すぎるから思わず笑ってしまっただけだ。チームがどうとか、そんなのは関係ない。そんなの、僕にとってただの舞台装置同然なんだよ。


「まっ、あなたが素直に認めるとは思えないけどね。こちとらあなたの奇天烈っぷりを1年近く見せられているんだから」

「認めるも何も違うものは違う」

「はいはい、ホント強情なんだから。私が言うのもなんだけどさ」

「まったくだ、人に茶々入れする余裕があるなら雨竜にアプローチの1つでもしろ」

「さてと、血が止まったなら私は退散しようかしら」

「おい」


都合の悪いことから逃げようとする御園出雲に溜息をつきたくなる僕。応急処置の件といい普段はしっかりした奴なのに、恋愛に関しては臆病者丸出しだ。神代晴華、月影美晴に並ぶポンコツっぷりである。


「ちょっと待った、このタオルってお前のか?」


どうやら本当に退散しようとしていたので、最後に気になっていたことだけ質問した。


「そうよ、保健室から持ってくる間も惜しかったし。勿論未使用のやつね」

「そんな心配はしてないが、それなら弁償させてくれ。思い切り血で汚してしまった」

「別にいいわよ、タオルなんていくらでもあるし」

「そうはいくか、お前に借りなんて作りたくない。ちゃんと清算させろ」

「そう? そういうことなら1つ、その……頼まれてほしいんだけど」

「何だ?」


御園出雲は一瞬言うのを躊躇っていたが、少し恥ずかしそうに内容を口にした。


「再来週から期末テストでしょ? 勉強会をしたいと思うんだけど、人集めを手伝ってもらいたくて」

「成る程、雨竜を誘えばいいんだな?」

「そういうわけじゃないけど!」

「じゃあ誘わなくていいのか?」

「……そういうわけじゃないけど」


しつこく質問すると、顔を赤らめて声のボリュームが下がっていく御園出雲。勉強会にかこつけて雨竜と一緒に居たいというわけか、とてもいい心がけじゃないか。タオルには釣り合ってないがそこはおまけしてやろう、僕の寛大な心を以て。


ピッピッピー!!


「あっ……」


御園出雲と語り合っていたら、試合終了のホイッスルが鳴り響いていた。


スコアを確認すると15-12、試合が終わる前にもう1本決めて3点差になっていた。


さすが有言実行男、僕はホッと胸をなで下ろす。



こうして球技大会男子の部は、Bクラスの優勝で幕を閉じたのだった。


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― 新着の感想 ―
それぞれのキャラクターの個性も考慮せずに自分の中の常識だけでこれはダメでしょ、、とか言っちゃうやつ小説読むな
いや殴るのはあかんでしょ… 警察はいらんってその程度のことではないし…
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