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モテすぎる悪友が鬱陶しいので、彼女を作らせて黙らせたい  作者: 梨本 和広
2章 球技大会と青八木家

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42話 球技大会15

男子決勝後半戦。ボールは負けているBチームからということで始まった。


ボール運びは前半途中から雨竜に託された浜岡(多分)が続けて行う。せっかく雨竜に2人マークがついてくれているのだ、数的有利を逃がす手はない。


「浜岡」

「おう」


フロントコートに入った僕は、浜岡(確信)からボールをもらう。受け取ったのは3ポイントラインギリギリ、中央から左へ45度付近の場所である。


ちなみに浜岡はゴール真っ正面の3ポイントエリア付近、中央から左右にいる味方へパスを送る役割だ。雨竜は僕とほぼ対極の位置でマークを引き剥がす動きをしている。


さて、まずは僕の実力を知ろう。その場で軽くドリブルをし、ボールを手に馴染ませる。


うん、思ったよりイケるな。ワンドリブルで躱したり、がむしゃらに真っ直ぐ進んだりする程度はできそうだ。


僕は左足を軸にして右足を動かし、浜岡の方に身体を向ける。ボールを両手で持って、下から放物線を描くようにパスを出した。


「ヘイ」


そしてもう一度浜岡からボールをもらう。


成る程、ホントに僅かだが僕がボールを持つとトライアングルのトップがこちらへ移動している。だが、こちらまで寄せてくることはない、この辺りの徹底は流石だな。


僕は同じように軽くドリブルをしてから、先程のように浜岡へパスを出す。



さてCクラスよ、今の僕の行動に意味はあるかな?

突破に苦しんで前に進めない消極的なプレイに見えたか?



考えろ、考えて悩め。行動に起こさずとも疑問に思え。

スポーツは心理戦だ、ただ実力があるだけじゃ勝ち上がることはできない。試合中に何度も繰り広げられる駆け引きに打ち勝ってこそ、さらなる高みへ進むことができる。


再度僕は浜岡からボールをもらう。勿論Cクラスは寄せてこない。僕は一度だけ雨竜に視線を送ってから、ゆっくりと行動に移す。



僕の行動に意味はあったか――――――――――その答えはイエスだ。



僕は大きく足を開き両手でボールを持つと、足の下から振り子のようにボールをゴールへ向けて放り投げた。


前半戦、一番Bクラスがダメだったのは、外からのシュートは無理だと諦めたことである。自分たちのシュートが届く範囲で攻撃をしようとするからゾーンに阻まれ、結果点を取ることができなかった。


ならば簡単、外からシュートを撃ってしまえばいい。それが脅威に映ってくれれば、Cクラスは今のディフェンスを止めなければいけないのだから。


だがそれは、言うほど簡単ではない。通常のシュートフォームで外から撃ってもリングに届くはずがない。これでは相手のディフェンスを脅かすことができない。


そこで考えたのが両手打ち、しかも力を込めやすい股下から放り投げる形だ。これならば僕の力でも充分届くし、真っ直ぐボールを飛ばすことができる。ぶっつけ本番にならないよう、浜岡に対して2度練習した。丁寧にことを起こしたため時間が掛かったが、この試合に24秒ルールはないため問題はない。


このシュートの弱点は言うまでもなくタメが長いこと、実際の試合じゃ即座にブロックされ使い物にならないだろう。


しかしながら、Cクラスはゾーンディフェンスを崩さない。だからこそ、僕は堂々と遠距離シュートを撃つことができた。


そしてこのシュート、一番の目的は決めることではない。ゴールに対して真上から落ちてくるシュートなら、入らなくてもボールは真上に跳ね上がる。あらぬ方向に飛びさえしなければ、ゴール下に来た雨竜が競り勝ってリバウンドを奪うことができるはず。


そうだ。雨竜にパスできないなら、できる形を作ればいい。例え周りに4人居ようとも、空中戦なら雨竜が勝つ。これはその記念すべき第一投だ。


「いっけえ!!」


パスッ。


「……えっ?」


リングにさえ当たればいいと思って放ったボールは、リングに触れることなくその輪を通過した。

何という僥倖、外からのシュートが一発目で決まってしまった。しかも3点。


「「おおおおお!!」」


会場が沸く。負けているチームのスコアが動いたことで盛り上がりを見せた。


「よっし! 練習の成果だ、どんどん僕にボールを回せ!」


思い切り偶然入ったシュートだが、僕はCクラスに聞こえるよう大きく声を上げる。

こうすることで僕への警戒を強めざるを得なくなったはず。先ほどのようにシュートを撃たせたらまた3点取られるかもしれないのだから。


「おい雪矢、俺に点取らせてくれるんじゃなかったのか?」

「うるさい、入ったんだからいいだろ」

「まあそうだな」


リバウンドに入っていた雨竜が僕へ愚痴のような言葉をかける。

今回のシュートは入ったが、外からシュートが来ることで雨竜とのリバウンド勝負が生まれてしまうことは充分に理解したはず。例え僕のシュートが入らずとも、警戒はしてくるはずだ。


攻撃は一旦置いておく。次は守備の番。点を取る手段ができたとしても、守ることができなければ差は縮まらない。ここは確実に抑えなければならない。


しかし僕は、ディフェンスに関していつも通りでいいと改善を命じることはしなかった。

何故なら、Cクラスの攻撃はワンパターンだからである。


ペイントエリア中央で守る雨竜を右サイドが左サイドへ引きずり出し、その逆サイドからシュートを撃つというそれだけ。分かれば簡単に攻略できそうだがそこは流石バスケ部、パススピードが早くボールに目が釣られる生徒たちでは足を動かす前にやられているのである。


だから僕は、攻略法を教えなかった。僕と雨竜だけがそれを分かっていればそれでいい。Cクラスには、自分たちの攻撃が通用すると思ってもらい続ける必要があるのだから。あたふたするBクラスのメンバーをその目に焼き付けて。


僕はCクラスのボール運びをマークする。ただし厳しくすることはない、あくまで僕の存在を消すためにトップの位置に立つ。


ボール運びはすぐさま左の選手へパス、Bクラス選手がいるためさらに左へパス、ゴールに対して90度の位置でCクラス選手がフリーでボールをもらった。


シュートフォームに入る彼に雨竜は飛び込まざるを得ない。だがそれは罠、シュートを止めたCクラス選手はパスを戻し、その選手から逆サイドへと早いパスを出した。



――――ほら、ドンピシャ。



ボール運びの選手を中心にL字に攻めてきているCクラスだが、例えコートを広く使おうと来る場所が分かっているならカットするのは容易い。



「なっ!?」



僕は左サイドから飛んできたボールをカットすると、勢いよく相手ゴールに向けてドリブルした。その動きを見てCクラスは急いで自軍コートへ下がる。


その光景を見て僕はスピードを一気に落とす。カットしたボールをその場で奪われたくなかったから速攻を仕掛けるふりをしたのだが、案の定ゾーンを作るためにCクラスは引いてくれた。ホントに定石チーム、攻略するのが楽しくてしょうがない。


僕はボールを浜岡へ戻し、先ほどシュートを決めた45度付近の位置に向かう。そこへ着いた瞬間、僕は即座にボールを求めた。


ボールのリターンをもらった僕は、すぐさま先ほどのシュートフォームを取る。だが足はそれほど広げない、少し窮屈な体勢の中同じようにボールを動かした。


「させるか!!」


そして予想通り、トライアングルのトップの選手を釣ることができた。雨竜より背が高く、ゾーン内へのパスをカットしまくっていた男をようやく引きずり出した。


シュートを撃たれたくない。だから相手は急いで僕のシュートコースを防ごうとする。



――――馬鹿だなお前。僕が右に切り返したら、着いてこられるのか。



元々撃つ気のなかったシュート。僕はそれを咄嗟に中断し、右側にドリブルで切り込んだ。左に向かって駆けている相手はこれに着いてくることはできない。ゾーンが崩壊、完全にゴールまでの視界が開けた。


そのタイミングで雨竜がダブルチームと一緒にゴールに向けて走っている。ゾッとするほど完璧な雨竜の動きに口元がにやけそうになるのを抑えながら、僕はゴールに向けてボールを投げた。


スコアは10対5、まだ5点負けている。ただ点を取るだけじゃ流れは引き寄せられない。



だから雨竜、お前がやるべきことは1つだ。



雨竜は僕が投げたボールを空中でキャッチすると、身体を僅かに捻ってそのままリングの上からシュートをねじ込んだ。


信じられない跳躍力、握力、バネ。無茶な注文をしたつもりだったが、雨竜は一発目でそれに応えてしまう。


まったく、何を食べたらそんな動きができるようになるのやら。



雨竜の放ったダンクシュートは、会場を最高潮に盛り上げるには充分すぎていた。


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