30話 球技大会5
ボールを持っているのは神代晴華。それに向き合っているのが名取真宵。スリーポイントラインから少し離れた位置で睨み合う2人はとてもじゃないが普通じゃなかった。
やがてボールを素早くついた神代晴華が1度ボールをクロスで左側に流すと、すぐさま切り返し名取真宵の左側を抜けていく。ボールを持った人間のスピードとは思えない敏捷性だ。
だが、名取真宵も負けていない。反則を取られないよう神代晴華と適度に距離を取りながらバックステップでついていく。
刹那、神代晴華はスピードを殺すように股の下を通すドリブルをし、上がってきたボールを流れるように両手で持ってシュートした。
身体が流されかけた名取真宵だが、踏ん張って神代晴華のシュートの軌道に向けて跳躍する。間に合ったか間に合わなかったか分からなかったが、神代晴華のシュートはリングにぶつかり外に跳ねてしまった。勝敗をつけるなら、名取真宵に軍配が上がった。
「よし!!」
インプレイ中にも関わらず、大きくガッツポーズを決める名取真宵。これだけで彼女がどれだけ熱を込めて参加しているか理解できる。おそらくさっきのシュートも触れていたのだろう。
「やるなぁ」
悔しそうに笑う神代晴華の口がそう動いたように見えた。途中からしか見ていないが、2人はずっとギリギリの攻防を繰り広げているのかもしれない。
そう思ったが、スコアを見ると『10-4』でCクラスがリードしていた。7分ハーフで後半1分というまだまだ結果が分からない時間帯だが、僕はそのスコアになんとなく違和感を覚えていた。
「真宵ったら、全然仲間にパスしようとしないからね。晴華がうまくボールを散らしてる分スコアが離れてる感じかしら」
「……そういうことか」
御園出雲の補足を聞いて、ようやく僕も腹に落ちた。
この試合、神代晴華を倒さないと負けると思ってる名取真宵に対し、自分以外のところで点を取れればそれでいいと思っている神代晴華の差が出てしまっている。
2人に比べれば周りの8人の選手など取るに足らない存在だろうが、ゴールの近くでシュートを撃てれば彼女たちでも点を取ることはできる。名取真宵はそれを理解できていないように思う。
もしくは、神代晴華のディフェンスレベルが高く、そこまで頭が回っていないのかもしれない。そもそもの話、バスケ部ではない名取真宵がここまで食らいついてること自体が不思議な程である。
そこからも一進一退の攻防が続いていく。点差が縮まらないことである程度自由にやることを決めたのか、神代晴華もわざと名取真宵と1対1できるようプレイする。大きく揺れる栗色のポニーテールと金髪のポニーテールは、当たるとすごく痛そうに思えた。それくらい2人のポニーテールは左右に唸っていた。
僕ら4人は口を噤んで試合に没頭する。無駄な会話は一切せず、ホイッスルが鳴るまで男子の試合に出ても活躍できそうな2人をずっと目で追っていたのだった。
―*―
試合終了のホイッスルが鳴ると、選手はコートの中央に集まって互いに礼をする。『16-10』でCクラスの勝利だったが、どちらが勝ってもおかしくないほどに盛り上がっていたと思う。
バスケ部の神代晴華が凄いのは知っていたが、まさか名取真宵があそこまで動けるとは思いも寄らなかった。いつぞや蘭童殿と口論になってたときの言い分もあながち間違っていないと思ってしまった。6月から部活を開始しようとも充分に活躍できる素質だ。バスケ以外に適用されるか分からないが。
「ね? ちゃんと見てよかったでしょ?」
何故か自分事のように胸を張る御園出雲。しかし言い返す言葉もない、今の試合が面白かったのは事実だ。
「うん、すごく面白かったね」
「あんな風に動けたら楽しいんだろうなぁ」
一緒に見ていた月影美晴と桐田朱里にも好評だったようだ。プロの選手のプレイが人の心を打つように、彼女たちのプレイにも胸を熱くする何かがあった。
「おっ! みんなお揃いだねえ!!」
そしてぼんやり先程まで試合の行われていたコートを見続けていると、先程までの試合の立役者が笑顔でこちらに駆け寄ってきた。首にかけているタオルで頬を拭きながら堂々とVサインをする。
「記念すべき第1勝、もぎ取りました!」
――――神代晴華が嬉しそうに頬を緩めるその最中、
「もう少し遠慮しろ、このおっぱいオバケ」
「いたっ! マヨねえ思い切り殴った!?」
イライラをまったく隠そうとせず、名取真宵も合流した。




