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モテすぎる悪友が鬱陶しいので、彼女を作らせて黙らせたい  作者: 梨本 和広
2章 球技大会と青八木家

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14話 キャットファイト

声を掛けてきたのは、体操服に身を包み、ホイッスルを首から提げている蘭童殿だった。

柔軟を終え一区切り着いたタイミングで声をかけにきたのかもしれない。


「珍しいというか、初めて見ました。先輩が体育館にいるところ」

「球技大会の件で用事があってな、もう済んだから帰ろうと思ってたところだ」

「むふふー、タメ語ですね」

「うん、それがいいって聞いたからそうしてるけど」

「はい! そのままずっと続けてください!」


太陽燦々とした眩しい笑顔で答える蘭童殿。名取真宵の件から立ち直った彼女は、今まで以上に明るく元気に過ごしているようだ。さすがは僕の尊敬すべき後輩である。



「珍しいと言えば、名取先輩もそうですよね、昨日からバド部でお見かけしてますけど」



百点満点の笑顔のまま、蘭童殿はどこか棘のある口調で名取真宵に話を振る。もう一度言うが、表情は可愛らしいくらい笑顔である。



「そりゃバド部なんだからいるに決まってるでしょ、頭大丈夫?」



対する名取真宵も、今まで見たことのない極上スマイルで蘭童殿に対抗している。会話の内容と表情が合ってない気がするんですが大丈夫ですかね。


「へえ、そうなんですか~。2年生の部活って6月から始まるんですね、知らなかったです!」

「そうそう、あたしは優秀だから2ヶ月遅れても問題ないの、今日知られて良かったわね~?」

「はい! 私はてっきり、青八木先輩にいいところ見せたくて張り切ってるのかと思いましたよ~!」

「何言ってるのかしら、バド部の様子を青八木がわざわざ確認するわけないじゃない。後輩ちゃんは随分と恋愛脳なのね~?」

「そうですか~? だって2ヶ月もご無沙汰な先輩が急に現われたらいろいろ勘ぐるじゃないですかぁ、それも誰かさんにライバル宣言した後となれば尚更ですよね~?」

「あらら~、今度は自意識過剰ちゃんかな? あたしは自分磨きのためにバド再開しただけで、そんなことまったく関係ないんだけど~?」



……あかん、あきまへん。恐ろしいまでの腹の探り合いが目の前で行われている。

えっ、何なのこれ? 和解したんだよねこの2人、どうして笑顔で弱パンチを撃ち合ってるの?

というかライバル宣言って何? 僕の知らないことが多すぎるんだが。

このまま僕は黙って見ていていいんだろうか、というか僕を挟んでやり合わないでもらえないだろうか。


お互いが顔を合わせやすいように少し後方へ移動しようとしたら、名取真宵に左手首を、蘭童殿に右手首を掴まれ戦慄する。

おかしいだろ、2人笑顔で向かい合ってるのにどうしてそんな正確に僕の腕を取れたんだ。


すると、ロボットの挙動のように2人の首がこちらへ向けられる。何も変わらず笑顔なのに、僕は汗がダラダラ止まらない。体育館が暑いせいだと思いたい。


「先輩今、逃げようとしました?」

「してないです、ホントに。気のせいですから」

「そう、だったらここで見守っててちょうだい」


そう言った2人は僕から手を放し、再度顔を向き合わせる。

傍から見れば笑顔で先輩と後輩が会話をする青春の1ページらしい絵になるが、会話を聞けば横綱も髷を切って逃げ出すような圧迫感で満ち溢れていることに気付くだろう。


一体僕は、この場で何を見守ればいいんだろうか。

蘭童殿は普段より怖いし、名取真宵は逆にフランクだし。本気で関わりたくないのだが。


「自分磨きってきっかけがないと行わないと思うんですけど、何かあったんですか~?」

「それをあんたに言う必要ってある~? 何でもずけずけ訊くのってマナー違反じゃな~い?」

「いいじゃないですか~、懐の広い先輩なら教えてくれると思ったんですよ?」

「ざーんねん、懐が狭いから教えられないわ~」

「あらそうですか~、でも自分磨いてアピールする相手間違ってないですか~?」

「はーい? 何のことかしら~?」

「一人になった廣瀬先輩に真っ先に声かけてたじゃないですか~」

「あらやだ、随分としっかりこっちの様子を見てたのね~、部活中なのに不真面目な子ね~?」

「部活時間終わった後ですよ~? なーんにも問題ないですよね~?」

「こっちを見てたの否定しないのね~? あなたこそベクトル間違えてない~?」

「そりゃそうですよ~、大切な先輩が名取先輩に苛められる前に守ってあげないと~」

「そんなことするわけないじゃな~い、それが分かったらさっさと戻って大丈夫よ~?」

「え~、私がここにいたらダメな理由でもあるんですか~?」

「あたしたちの会話の邪魔をするならいない方がいいわよね~?」

「分かりました~、待ってますので先に会話を終わらせてもらっていいですか~?」

「後2時間は掛かるから、今日はお帰りになってはど~う?」

「――――いい加減やめんか」

「「いたっ!!」」


もはや聞いていられなくなった僕は、2人の頭に同時にチョップを進呈した。

よくもまあ笑顔のままここまで煽り合うことができるものだ、いろんな意味で感心するわ。


「お前な、先輩のくせにいちいち言い返してんじゃねえよ、僕みたいに寛容な心を持ちなさい。蘭童殿も落ち着け、こんなに嫌味な言い方はらしくないぞ」


手で頭を押さえる2人にすかさず説教を開始する。

はあ、なんでこんなことになってるやら。予想外にも程があるぞ。

ここまで言い合えるのは仲が良いからこそとも言えなくもないが、周りの空気を張り詰めさせるのはいかがなものかと思う。近くに来た人が異様な光景に怯えてUターンしちゃうぞこれ。

てか2人はなんで言い合いを始めたんだよ、途中から雨竜が関係なくなってたじゃないか。



「「ちょっとあんた(先輩)!!」」



僕のチョップから復帰した2人が、涙目で同時に僕を睨んでくる。声までしっかり合う辺り、案外2人の相性はいいのかもしれない。



「「あんた(先輩)はどっちの味方なのよ(なんですか)!?」」



今のあなたたちは応援できません。ごめんなさい。

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