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モテすぎる悪友が鬱陶しいので、彼女を作らせて黙らせたい  作者: 梨本 和広
2章 球技大会と青八木家

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5話 賑やかな昼休み

朝礼の球技決めを無事終え、午前の授業をこなした僕と雨竜は一緒に食堂へ向かっていた。


「お前、友達と昼一緒にしなくていいのか?」

「お前が友達じゃないみたいな言い方だな」

「当然だ、僕とお前は隣の席ってだけだ」

「1年の2学期からずっとな」

「ホントだよ……いつまでストーカーしてくるんだ……」

「まあまあ、ただのクラスメートとして仲良くしようぜ」

「はあ、めんどくさ……」


僕は基本的に昼食は1人で摂ろうと動くが、週に2、3回こうして雨竜がついてくる。コイツがこういうことをすると女子から雨竜と仲良しだと思われ、僕に雨竜との仲を取り持つよう言ってくる奴が増えてしまう。今はそこまで苦ではないが、1年の時はひたすら鬱陶しくてしょうがなかった。お願いだから僕のことはそっとしておいてもらえないだろうか。



「あっ! ユッキー! ウルルン!」



そして僕のお願いを全方位から爆撃するかの如く、脳天気な声が2年の廊下に響いていた。


「やあやあお2人さん、今暇? 一緒にお昼でもどう?」


最近されたナンパの口調でも真似しているのか、やけに馴れ馴れしい態度で声をかけてくる女。

神代晴華、栗色ポニーテールが特徴的な学年一を誇る美少女である。


「あっ、結構です。友達待たせてるんで」


適当にあしらってそのまま歩みを続ける僕。隣を歩く雨竜が「えっ、いいのか?」と聞いてくるが勿論問題なし。ポンコツには必要以上に絡まない、長生きの秘訣である。


「ちょちょちょ待って! なんでそんな塩対応なの!?」


数秒フリーズしていた神代晴華だが、慌てて僕の隣に駆け寄ってきた。しつこいナンパだな、友達待たせてるってちゃんと言ったのに。


「通常運転だろ、お前はうるさいから一緒にご飯は食べない」

「ええ! ユッキークラス変わってから冷たくなった! 昔はもっとこう、えっと、何だろう…………あれ、あんまり今と変わんないかも?」

「何が言いたいんだお前は。アホ言ってないでさっさとクラスメートのところへ戻れ」

「もう遅いよ、約束する前にユッキーたち見つけちゃったし」

「そうか、じゃあ今日はぼっち飯だな。何人男が声かけてくるか当てっこしようぜ」

「やだよそんなの!? あたしが全然楽しくないじゃん!?」


僕ではお話にならないと思ったのか、神代晴華の視線が雨竜へ移った。


「ウルルンはご飯いいよね!? あたしのこと見捨てないよね!?」

「そのウルルンって呼び方やめてくれたらね」

「やめるやめる! もうウルルンって呼ばないよ!」

「その台詞聞いたの何度目か分からないけどね……」

「いいじゃないかウルルン、お前にピッタリなニックネームだぞ?」

「お前までウルルンって呼んでんじゃねえよ」

「いたた!! 放せ、ギブだギブ!!」


ウルルン多感症が発生し、突然僕にヘッドロックを噛ましてきた雨竜。酷すぎる、いつから若者の沸点はこんなにも低くなってしまったのか。嘆かわしい現実である。


「あはは! 2人は本当に仲がいいね!」

「目が腐ってんのかお前は。こんな非道を仲良しとは言わん」

「そう思ってるのユッキーだけだと思うけどな」

「うるさい。あとどさくさに紛れてついてくるな」

「あっ、やっぱりバレてた?」


苦笑しながら後頭部を搔く神代晴華。話に乗じて一緒に食堂までついてこようとしてたみたいだがそうはいかんぞ。


「お願い! 球技大会の話だけしたいの! 絶対愚痴は言わないから! ねっ!?」

「なんだその先っちょだけみたいなノリは」

「先っちょだけ?」

「いや、知らんならいい。いくら何でも下世話すぎた」

「??」


あまりに純真な瞳で見つめられ、さすがに僕も二の句を継げなくなってしまった。この微妙に子供っぽさが抜けきっていないところも神代晴華の魅力の1つとして数えられる。コイツ何個魅力あるんだ。


しかしながら、こんなふうに神代晴華に懇願されて、折れない人間がどれだけいるだろうか。たいていの男子であれば断ることができずに誘いに乗ってしまうことだろう。


勿論僕はノータイムで断るどころか反撃まで噛ませるが、今回ばかりはそれを実行することができない。

理由は1つ、雨竜も一緒にいるせいで現状目立ちまくっているからである。雨竜のオーラと神代晴華のオーラが発光しすぎて、真ん中にいる僕が見えなくなってるまである。


この状況で神代晴華を蔑ろにしすぎると、反感を買ってしまう人間が存在する。『あの神代さんが誘ってるのに……』と謎のいちゃもんをつけられて。神代晴華に近付きすぎても嫉妬され、蔑ろにしすぎれば反感を買う、いったいどないしろっちゅうねん。あいつ彼氏おんのやぞ、なんでこんなに人気やねん。


「はあ……もう勝手にしてくれ」

「えっ、いいの!?」

「よくない。勝手にしろって言ったんだ」

「うん! 勝手にする!」


神代晴華はそれはもう嬉しそうに頬を綻ばせながら力強く頷いた。ここで否定しても絶対引き下がらないだろうしコイツにわんわん喚かれて注目を浴びるよりはマシだ。断腸の思いの決断である。


まあいい。確かに面倒は面倒だが、余計な話は自分からしないと言ったし、今日でスッキリしてくれればしばらく絡まれることもないだろう。それならば僕とて寛大な心を持って対応してやろうじゃないか。これは妥協ではなく戦略的承認だ、間違えないように。



「よーし、男子2人に女子1人だとバランス悪いし、ミハちゃん呼んじゃお!」

「はい?」



テンション上げ上げマックスハート状態になっている神代晴華は、不穏なことを口走りながらスマホの操作をし始めた。


ちょっと待て、確かに僕は勝手にしろと言ったがそれはあくまで神代晴華の昼食参加についてだけであって、盤外にまで及んでいいとは言ったつもりはないぞ?



「あっ、ミハちゃん来られるって! 食堂で待ち合わせって返しとくね!」



だがしかし、僕が何かしら口を挟む間もなく、神代晴華は昼食メンバーを追加してしまった。1分足らずの神速行動、もはやまったく手がつけられない。返信する方もそうだが、なんでそんなにやり取りが早いんだよ。


「いやあ、面白いことになったな」

「僕はまったく面白くないんだが」


イケメンフェロモンを垂れ流しているくせして空気に成り切っていた雨竜が、他人事のように茶々を入れてきた。コイツは僕が困るとすごく楽しげにしやがるのでホント腹立つ。まあそれ自体はお互い様だが。



「ユッキーとお昼! ウリュリュンとお昼! ミハちゃんとお昼!」



そして諸悪の根源は、一緒に居るのが憚れるような歌をリズムよく口ずさんでいた。いつもの3割増しで笑顔を輝かせており、通り過ぎる男子に2度見を強要させるほどである。


「いやだから神代さん、それだとあんまり変わってないんだけど……」

「えっ、あたしウルルンって呼んでないよ!?」

「そもそもニックネーム呼びを見直して欲しいわけで……」

「えー、それだとウルルンと仲良くないみたいで嫌だよ」

「もういっそその認識で構わないというか……」

「ウルルンひどい! 今ひどいこと言った!」

「てかウルルンに戻ってるし……」


神代晴華との会話で疲労を隠せていない雨竜。もっとやれと心の中で強く思うが、これが自分にも返ってくると思うと今の内から逃げ出し気分になる。


その上昼食ではミハちゃんこと月影美晴が参加する、2人が揃うとゆったりアホアホ空間が形成されてしまうので付き合わされる身としては覚悟を決めなければいけない。


「だからさ、俺だけ名前の原型がない気がするんだよ」

「そんなことないよ、ウが入ってるし」

「一文字入ってればいいんだったら、神代さんも『はりぼー』とか『はまち』って呼ばれたりするよ?」

「おっ可愛い! ウルルンニックネームのセンスあるよ!」

「……ダメだこりゃ」


2人の会話を聞きながら、食堂が処刑台のように思えてくる僕。

神よ、何度も祈りを捧げて恐縮ではあるが、何事もなく昼食を終えられるよう見守りください。

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