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モテすぎる悪友が鬱陶しいので、彼女を作らせて黙らせたい  作者: 梨本 和広
1章 桐田朱里と蘭童殿

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43話 成敗

まわりくどい話し方になったが、名取真宵の恐怖心を煽るには丁度いい。

僕は話を続ける。


「蘭童空の関係者である僕は、彼女が傷つけられてひどく不満だ。彼女の恋路を平然と邪魔するお前に、心の底から腹を立てている。報復の1つでもしてやらないと気が済まないほどにな」

「ほ、報復って……」

「別に大したことじゃないさ、お前がやっていることを僕が個人的に悪質に広めるだけさ」


そう告げてから、僕はボイスレコーダーと一緒に持ってきていたノートパソコンを取り出した。

すぐさま起動して、予め開いていたあるSNSのサイトを名取真宵に見せつける。


僕が見せたのは、そのSNSの名取真宵のユーザーページだった。


「良くないんじゃないか、こんなに個人情報載っけたものを鍵も付けずに公開するなんて。探すのも簡単だったし、お前の行動範囲が丸わかりだぞ」

「……それが……何よ」

「ただの注意だ。僕はお前のSNSから自撮りの写真を何枚かコピーさせてもらえれば充分だからな、家が京王線沿いってのも助かる情報だったけどよ」

「だから! それが何だって言うのよ!?」


名取真宵は恐怖を打ち消すが如く声を張り上げた。その声が震えていることに容易に気付くことができた。


それが何って、ここまで言って分からないことはないだろう。まあしかし、そこまで知りたいと言うなら先に結論から述べてやるとするか。

僕は表示を切り替えると、とある出会い系サイトの入会ページを見せて言った。



「お前の個人情報、ここで一気にばらまいてやろうと思ってな」

「っ!?」



名取真宵は、隠す様子もなく青ざめた表情を見せた。


「名前、住所、顔写真、学校、これだけばらまいたらすぐにお前はネット界隈で時の人だ」

「ちょっと待ってよ、なんで住所まで! SNSには書いてないでしょ!?」

「当たり前だ、そこまで書いてたらさすがに引くわ」

「じゃあなんでウチの住所知ってんのよ!?」

「そんなもん担任に聞いたに決まってんだろ」

「はっ!?」

「って言っても素直に教えてくれるわけないから、ちょっと工夫はしたけどな」


僕は名取真宵の家庭訪問をしたことのある去年の担任ーーーーつまり長谷川先生に、彼女の住所を聞き出していた。

ただし、馬鹿正直に聞いてはいない。個人情報の保護に厳しい時代だ、例え名取真宵の友人だとしても、例えズボラな長谷川先生が相手だとしても、教師という立場から住所を割らせるのはなかなか厳しいと言える。


だから僕は、先生に名取真宵の住所を()()()()()

『住所はどこ?』だと答えないなら、『住所は新宿』など具体的な場所を言ってしまう。僕が名取真宵の住所を知っている前提で間違えただけなら、先生は善意で訂正してくれる。僕は最寄り駅が京王線沿いという情報だけ拾っていたから、そこから1つずつ長谷川先生に訂正させた。最寄り駅→どちら側の出口か→駅から遠いか近いか→近くのコンビニは何か、といった感じで。後は僕自身の足で名取家の表札を探して終了、そこまで大変な作業ではなかった。


「さてと、ここでお前の情報をばらまいたらどうなるかな?」


表情が凍り付く名取真宵をさらに煽るように僕は声に抑揚をつける。


「お前の最寄り駅を張る男が増えるかもな。その上お前は金髪で目立つ、あっと言う間に注目の的になるだろうよ。そうなったらお前、無事に家に帰れないかもなぁ?」


名取真宵が、身体を震わせているのが見て取れた。決して僕とは目を合わせず、ずっと床を一直線で見つめている。情報をばらまかれた後の生活を想像して、絶望しているのかもしれない。



「……すれば?」



しかし名取真宵は、それでも折れなかった。



「すればいいじゃん! したところで何も変わらないわよ! 周りだって暇じゃないんだから、嘘だと思ってスルーするに決まってる! こ、こんなんであたしをビビらそうなんて、100年早いっての!」



世間知らずのお嬢様は、現実逃避をしたいのか、声を荒げて僕に行動へ移せと訴えかけてきた。

ネットはそんなに甘いものではないが、強がってでも僕に弱みを見せたくないのだろう。

その毅然を取り繕う態度に、僕は少しばかり感心する。相手に隙を見せないように、弱みを見せないように恐怖を押し殺す。簡単にできることではない、悔しいが僕の第一案はあと少しのところで名取真宵を参らせることができなかった。


ここで情報を暴露したところで名取真宵に実害が起きるのはまだ先、この場で彼女を屈服させることはできない。蘭童殿のように直接攻撃を受けるわけではないのだ、緊張の糸を張り詰めてなんとか耐えることができているのだろう。名取真宵を侮りすぎていた僕の失態だ。



ならば仕方ない――――直接攻撃の怖さを知ってもらうしかないか。



「お前の言い分は理解した。お前の情報を拡散しても何も変わらない。その後のことが想定できないんだな、だから馬鹿みたいに強がれる。何が起きるか理解できないんじゃ、そりゃ怖くもなんともないわな」



僕はノートパソコンを机の上に置き、名取真宵をなめ回すように見てから言った。




「――――だったら僕が、何が起きるかたっぷり教えてやろうじゃないか」




そう言って、一歩一歩ゆっくりと、僕は名取真宵に近付いた。



「な、何よ! 何する気!?」

「何って、いつまで現実逃避してるんだお前。何のためにこの場所を選んだと思ってるんだ、誰も来ない教室で男女がやることなんて1つしかないだろ?」

「っ!?」



名取真宵の表情が、先ほど以上に絶望に歪んだ。僕がこれからしようとしていることを察してくれたらしいが、今更遅い。



「だって分からないんだろ、何が怖いか。今後のために教えておかないと可哀想だしな」

「ば、馬鹿じゃないの……冗談でしょこんなの!?」

「冗談でここまで準備する奴がどこにいるんだよ、いい加減現実を見ろや馬鹿女」



名取真宵は後ずさりしようとするが既に柱の前、逃げることはできない。

僕は涙目になっている彼女に近付き、できるだけ低い声で宣言した。




「お前をこの場で、犯してやるって言ったんだ」

「ひぃ……!」




僕の圧に耐えられなくなったのか、名取真宵は僕から目を逸らせないまま柱を背にその場でへたり込んだ。

その彼女をさらに追い込むべく、柱に手を突き威嚇する。



「当然僕は悪くない、お前にやり返される覚悟があるからな」

「……や」

「そうなれば僕はお縄につくが満足は満足だ。お前に決定的なダメージを与えられるわけだからな?」

「も……」

「どうしたんだよさっきまでの威勢は? ボソボソ言ってねえで早く選べよ!! 僕にこの場で犯されるか! 後でおっさんどもに遊ばれるか! さあ! 早く選べ!!」



何度も柱を叩きながら僕はスパートをかけた。普段張り上げない怒声で名取真宵を徹底的に追い込んだ。


逃げ場のない恐ろしい選択肢。どちらを選ぼうがコイツにとっては地獄。それを当人に選ばせようとする鬼畜の所業。だが、そこまで追い込まなければコイツには響かない。


恐怖しろ、絶望しろ。人へ危害を加えることがどれだけ恐ろしいか身を以て知れ。

そして気付け。やってはいけないことやったらどうしなきゃいけないか。人を傷つけておしまいなんてあり得ない、お前にはやらなくてはいけないことがある。


名取真宵を見下ろしながら僕は待った。僕に追い込まれて、身の危険を感じて、そうして何を答えるか僕は待ち続けた。


数秒後、ボロボロに泣き崩れた名取真宵は、一切取り繕わず、自身の本音を曝け出した。




「……ごめん、なさい……もうしません……! もうしないから、もう絶対しないから……許してください……!」




そしてようやく、名取真宵の心の底からの謝罪を引き出すことができた。


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