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モテすぎる悪友が鬱陶しいので、彼女を作らせて黙らせたい  作者: 梨本 和広
1章 桐田朱里と蘭童殿

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39話 不吉な訪問

蘭童殿と和解を済ませた3日後。それまでに特にお声が掛かることもなく、僕は少しばかり退屈していた。


「……暇だ」


5限終了後の休み時間、僕は机に顎を乗せながら突っ伏していた。蘭童殿からの相談がないのはいいことのはずなのだが、近況が分からないというのは少々もどかしくもある。


「そんなに暇なら神代さんの愚痴に付き合ってやれよ」


左隣から、この学校の女子を魅了するだけしてまったく受け入れる気がなさそうな声が聞こえてきた。


「そこに割く労力はない。だいたいなんで神代晴華に協力的なんだよ」

「俺がお前のことで愚痴ばっかり言われるからだよ」

「くく、同じ体育館で部活をしていることを呪うと良いさ」

「そんなに話したきゃ教室に来たらって言っといたけどな」


おい、このリビドーゼロ運動の指導者はいったい何をしてくれてるんだ。自分が愚痴の相手をしたくないからって僕を巻き込むなんて、僕はお前をそんな子に育てた覚えはないぞ。


「だいたいお前、アリはどうしたんだよ。あんなに夢中だったじゃねえか」

「ふん、あいつらから学べるものは全て吸収した。もはや不要な存在さ」

「随分ドライなこと言うな、千利休も一緒か?」

「馬鹿が、歴史上の偉人たる千利休とアリごときを一緒にするな。格が違うんだよ格が」

「現代に生きるアリの方が注力すべきだと思うんだが」

「歴史ってのは繰り返すものなんだよ。だから僕はいつ何時(なんどき)だって思案するんだ、秀吉に切腹を命じられない方法をな」

「警察に行け」


うわっ、人に散々ドライとか言っておいて、自分も随分淡白な返しじゃないか。秀吉はどこに潜んでいるか分からないというのに。


これ以上雨竜と話していても溜息が出るだけで身体に悪いと思う僕だが、よく考えれば近況など雨竜に聞いてしまえばいいのだ。蘭童殿には悪い気もするが仕方あるまい。


「おい雨竜、蘭童殿とはその後どうなんだ?」


という訳で早速話を切り出す。蘭童殿はこの3日間教室には来ていなかったため、何かあるなら部活の前後だと僕は考えるが。


「また急に話が飛んだな」

「いいから答えろ、それがお前の義務だ」

「そんな義務あってたまるかと言いたいが、別に大した進捗はないぞ」

「そうなのか?」

「ああ、部活が始まる前と終わった後で話すけど普通にバスケの話だしな。最近少しずつバスケのことが分かってきたみたいだから、そっちの話をしてる方が楽しいのかも」

「そうか」


雨竜の話を聞きながら、なんとなく蘭童殿らしくないと思う僕。あれほど堂々と負けない宣言をしていたのだからアプローチが強くなるかと思いきや、いつもと変わらないと雨竜は言う。


確かに押し過ぎても雨竜が引いてしまうだけで良くないのかもしれないが、それは蘭童殿の戦い方ではない。


うーむ、僕に何も言わないだけで何か困ってるんじゃなかろうか。挨拶がてら、ちょっと話を聞いてみることにするか。


「廣瀬雪矢」


蘭童殿にご挨拶をする計画を立てていると、御園出雲が僕を威圧するように見下ろしていた。


「何だ、さっきの授業ならちゃんと聞いてたぞ?」

「私を何だと思ってるのよ、お客さんよお客さん」

「お客さん?」

「いいからついてきて、廊下で待たせてるから」


そう言うと、御園出雲は踵を返して廊下の方へ向かっていく。あいつの言うことを馬鹿正直に聞くのは癪だが、どうせ暇だし素直についていくことにした。


「あなた、変なことしたんじゃないでしょうね」

「はあ、いったい何のことだよ」

「知らないわよ、ただちょっと泣きそうな顔してたから」


御園出雲と言葉を交わしながら廊下に出ると、そこには最近知り合ったばかりの後輩の姿があった。


「出雲先輩、ありがとうございます!」

「いいわよ別に。可愛い後輩のためだもの」


僕のお客さんというのは、蘭童殿のお友達であるあいちゃんだった。部活の先輩である御園出雲には元気な声で対応しているが、確かに表情が暗く見える。


「それじゃあ私は、外した方がいいのよね?」

「はい……すみません」

「いいのよ、込み入った話なんでしょ? じゃあ放課後部活でね、あいちゃん」

「は、はい!」

「あなた、あいちゃんに変な真似しないでよ」

「うるさい、さっさと戻れ」

「はいはい」


どこか呆れた様子で教室に戻っていく御園出雲。先輩がいなくなったその直後、あいちゃんは焦ったように僕に詰め寄った。


「あの、廣瀬先輩、今から少し来られないですか?」

「今から?」


5限が終わって残りの休み時間は約5分、どこかで用を済ませようと思えば6限に間に合わなくなるだろう。最近遅刻したばかりだし正直それは避けたいところだが、


「はい! その、私、どうしたらいいか分からなくて! 友達なのに全然気の利いた言葉かけられなくて!」


あいちゃんが涙目のまま訴えかけてくる姿を見て、ただ事ではないことを察した。


「落ち着けあいちゃん、いったいどうした、何があった?」


身体を震わせるあいちゃんの両肩を掴み、彼女に問いかける。わざわざ先輩の教室まで来て、10分間しかない休み時間を狙ってまで、同伴してほしい理由は何だ。


するとあいちゃんは、堪えていた涙を決壊させて、同じ言葉を繰り返した。




「空ちゃんが……空ちゃんが……!」



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