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モテすぎる悪友が鬱陶しいので、彼女を作らせて黙らせたい  作者: 梨本 和広
1章 桐田朱里と蘭童殿

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38話 忠告

落ち着け、落ち着くんだ僕。月影美晴のゆったりペースに合わせていたら身が持たないのはいつものことだ。ここは保健室、お静かにする場所、他の利用者にも迷惑をかけないように…………


「そういや先生、どこ行ったんだ?」


静かにすべき保健室だが、2つあるベッドの利用者はおらず、普段待機している養護教諭も不在。この場には僕と月影美晴しか居ない、これって大丈夫なのか。勝手に居座ってていいものなのだろうか。


「先生は少し席を外すみたい。大丈夫、ここの鍵一式は預かってるから」

「全然大丈夫じゃないんですが……」


おいおい、教師が生徒に鍵を預けるっていろいろアウトな気がするんだが、どれだけ信頼されてるんだ。僕なら一瞬で教師たちに取り囲まれそうだ。さすまた持って。


「私は名誉保健委員だから、先生とも仲良いし」

「聞いたことのない役職だな」

「私が作ったしね、先生が居ない間は私がみんなの面倒をみるの」

「へえ」


この事実がどれだけ広まっているか分からないが、知られたら怪我人が続出しそうだな。月影美晴に癒やしてもらいたい一心で。うん、学生のためにも月影美晴を保健室に配置するのは止めた方が良いな。


「そういえば話戻るけど、雪矢君が雨竜君とお付き合いしてるって情報が流れてきたんだけど」


またその話か、いつの間にか他のクラスにも広まってるし。何故そのことに誰も疑問を抱かないのか、彼女を作らない雨竜のせいだろこれ。


「他の女の子の応援をするどころか応援先を奪っちゃうなんて、雪矢君鬼畜だよね」

「ガセだデマだ。僕にそんな趣味はない」

「えー、後輩の女の子にライバル宣言されたんでしょう?」

「もうなんでそんなことまで……とっくに和解済みだそれも!」

「和解? 雪矢君の本気の想いを後輩ちゃんに伝えたってこと?」

「……なんでそうなるんだ」


もうやだこの学校。僕が他の女子たちと並んで恋人候補であることを誰も疑問に思わない。「廣瀬って男だろ、冗談に決まってんじゃん」って言う人いないんですかね。なんで皆さん「あー、はいはい」みたいな反応になるんでしょうか、七不思議の一つです。


しょうがないので今日の顛末を要点を絞って月影美晴に説明する。少しでも早く皆の洗脳を解かなければ。僕の使命は過酷である。


「成る程」

「分かってくれたか」

「うん。私というものがありながら蘭童さんという後輩に手を貸す酷い同級生がいるってことが」

「そうなっちゃったか」

「そうなっちゃったね」


雨竜との誤解は解けたものの、蘭童殿を応援するという点にスマイルポイズンを忍ばせてくる月影美晴。コイツの笑顔が嬉しいのか怒ってるのかよく分からなくなってきた。毒を吐いてることだけは間違いないが。


「でも、少し気を付けた方が良いかもね」

「何が?」


微笑んでいた月影美晴の表情に陰が差す。どうやら少しばかり話しにくい内容のようだ。


「今の話を聞くと、蘭童さんってすごく目立ってるんでしょう? 雨竜君に好意を抱いている人にとっては、少なからず嫌悪されると思うんだよね」

「お前もそうなのか?」

「私はちょっとまずいなって思うけど、頑張ってる人を悪く思えないよ。でも、そうじゃない人もやっぱりいると思うし」

「それは何か、根拠のある話なのか?」


僕は、真っ先に名取真宵の顔が頭に浮かんだ。ちょっかいレベルの嫌がらせだが、間違いなく蘭童殿を嫌悪している側の人間だろう。


「あんまり広めたくないけど、去年の晴華ちゃんとかかな」

「えっ、あいつ嫌がらせとかするのか?」

「違うよ逆、そういう対象になってたことが少しだけあったの」

「……ああ」


成る程、僕は害を加える側の話をしてると思ったが、月影美晴は害を加えられる側の話をしていたのか。

それにしても神代晴華がねえ、まあ普段のあいつの行動を見てたら分からなくもないが。


「私たち同学年とは仲良くやってたけど先輩たちとちょっとね。文句言われる程度で大事にはならなかったけど、晴華ちゃん傷ついてたしな」

「そんなことがあったんだな」

「女子の中でね、大っぴらにはならないから知らないのも無理はないと思うけど」


まあ、先輩女子が愚痴の一つでも零したくなるのは分かる。後輩に神代晴華や月影美晴のような美人ができて、自分の好きな相手との関係が危ぶまれたらそりゃたまったものではない。勿論、愚痴を言うくらいなら行動を起こして勝ち取れと僕なら説教するが。


そしてこの話、神代晴香のことを謳っているように思えるが、月影美晴自身の体験談も含んでいるのではないかと思ってしまう。彼女は人前に立つタイプではないが、神代晴華と仲が良い。一緒にいるタイミングで先輩女子に難癖つけられてもおかしくない。


それ故の忠告なのだとしたら有難い言葉だと思うが、昼休みの蘭童殿の瞳を見て、その気遣いは不要だと感じてしまう。


「お気遣い助かるが、蘭童殿は負けないさ」


僕の言葉に、月影美晴は目を見開いた。蘭童殿に忠告しておくという返しがこなくて、驚いているのかもしれない。


「強い子なんだね、蘭童さん」

「強いぞ、雨竜への行動力も含めたら余計な」


月影美晴は笑わなかった。強力なライバル出現に焦っているのか、物憂げな表情を浮かべている。



「……そういう子の方が、危ういんだけどね」

「ん、何か言ったか?」

「ううん、私も負けてられないなあって思って」

「おお!」


自分のペースを崩さない月影美晴が、とても前向きなことを言っている。

なんてめでたいことだ、散々僕に毒を吐き続けてきたが、今日話した甲斐はあったということだな!


「よし、そういうことなら作戦会議だ。雨竜をデートに誘うか、久しぶりに一緒に昼食でも構わんが!」

「うーん、作戦立てるのはいいけど、ちゃんと雪矢君も来られる日にしてね? 私一人だと雨竜君と話せないし」

「…………」



少しも悪びれる様子もない月影美晴の姿を見て、今日も意味のない説教を繰り返すのだと僕は思った。

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