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モテすぎる悪友が鬱陶しいので、彼女を作らせて黙らせたい  作者: 梨本 和広
6章上 学園祭と決断

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29話 微熱

更新遅れて申し訳ありません。

朱里デート編ラストです。

「この度は大変ご迷惑をおかけしまして申し訳ございません!」


ランジェリーショップでのご乱心後、場所を変えて公園にあるショッピング施設のフードコートで昼食を摂っていると、あらためて朱里から謝罪が入った。


ちなみに通算3回目の謝罪である、どうやら記憶を思い返すだけで謝りたくなるらしい。気持ちは分かる、なかなかにデリケートなところを攻めたからね。相手が僕でなければ選んだ下着で実践編に行っていてもおかしくない。


「何度も謝るな、謝罪が軽くなる」

「軽く見える!? この、心のこもった謝罪が!?」

「お、おお」


鬼気迫る謝罪魂を見せられ、僕は二の句を継げなくなった。この子はいったい何と戦っているんだろうか。


「じゃあ言い直す、飯が不味くなるからやめろ」

「うっ、それについては返す言葉もないけど……」

「だいだい僕からしたら『桐田朱里の暴走〜渋谷編〜』って感じでいつもとあんまり変わらないぞ?」

「何その映画のタイトルみたいなやつ!? 勝手に主演に抜擢しないでよ!」

「本人の立候補だしな、今日も良い演技してたぞ?」

「そんなつもりはございません!」


勢いよく喋り過ぎたのか、息も絶え絶えになっている朱里。どうやら暴走列車で走り回るのがお気に召さないらしい。


「こういう暴走って私より廣瀬君の担当な気がするんだけど」

「人聞きの悪いことを言うな、こんなクラスの片隅ひっそり少年を捕まえて」

「廣瀬君が片隅ひっそり? 放送室DJしておいて?生徒会の選挙活動しておいて?」


おい、急に真顔で痛いところを突くのは止めろ。男には目立ちたくないと思ってもやらなければいけない時があるんだ。後一応言っておくが、選挙活動は僕の意思ではない。奴隷に拒否権などございません。


「話を戻すが、午後も楽しくデートするんだろ? だったら謝るのはこれでラストだ、楽しい話をしながら街を回ろうぜ」


今日はまだ午前中が終わったばかり。それなのに謝罪ばかりの辛気臭い空間はごめんである。気持ちを切り替えて楽しく過ごした方がよっぽど建設的だ。


「……うん、そうだね!」


先程から謝ったり叫んだりと表情にいろんな色が見えていた朱里だったが、ようやく笑顔が戻ってきたらしい。


人と人とがやり取りをする以上、性別や好みなどの観点から、どこかに歪みが生じてしまうものである。それをポジティブに捉えるかネガティブに捉えるかは各々次第なのだ。


歪みを楽しむ、それこそが人間関係を良くする第一歩なのかもしれない。対人関係に消極的だった僕が言っても説得力はないとは思うが。


まあ、今を楽しめているんだからあながち間違ってないいないだろう。朱里も同じ気持ちだったら良いのだが。


「ところで下着の色、廣瀬君は何が好きなの?」

「なんで蒸し返すねん」


前言撤回、楽しければ何でも良いというわけではございません。


空気を読むこと、楽しむのと同じくらい大事なことだと思います。


ー※ー


その後、あらためて渋谷の街を歩き回った。少し離れた商業施設に入ってサブカルチャーで溢れたフロアを堪能したり、ちょっと古風なコーヒー店に入って大人の味に挑戦してみたりとさまざまである。


街を見ながらその都度建物や広告にツッコミを入れていたせいか、長い時間歩いていても会話には困らなかった。そこから派生する話もあり、建物に入っても会話が止まらないのもザラである。


とりあえず、僕が誘ったデートで朱里が楽しそうにしてるのを見られてホッとした。主催者としては、そこが何より重要なポイントとも言える。僕も楽しめたし、満足度の高い1日と言っていいだろう。


「今日はありがとう」


空が少し赤くなってきた頃、改札から少し外れた場所で朱里からお礼を言われた。


「とっても楽しかった。今日がもうちょっと続けばいいって思うくらいに」

「そうか」


立ち止まって言葉を交わす。態度から楽しんでもらっていたのは分かっていたが、こうして声に出してもらえるのは嬉しいものだ。


「エスコートしてくれる廣瀬君、すごく頼もしかった。というより、前に立って歩いてくれる時の廣瀬君ってだいだい頼もしいんだけど」

「こう見えて事前準備はしてきたからな、そう思ってくれないと困る」

「もう、褒めてるんだから素直に受け取ってよ」

「そんな素直に受け取る人間に見えるか?」

「見えないけどさ、私だって喜んで欲しいって思うんだよ」


軽快で心地良い会話が続く。人通りは確かにあるはずなのに、朱里の声が真っ直ぐ届いてくる。不思議な感じだ。



「今日はね、ちゃんと伝えようって思ったことがあるんだ」



朱里が大人びた表情で微笑む。デート中の慌てていた姿が嘘のように、彼女は優雅に佇んでいた。



「廣瀬君、好きだよ」



放たれた言葉は何度も聞いたようで、彼女の口からはあまり馴染みのないものだった。


「初めて伝えた時は青八木君のことがあって有耶無耶になっちゃったから、あらためて伝えたいと思ったんだ」


朱里が言っているのは、勉強合宿でのことだろう。彼女は自分の想いを伝えてくれたが、それを雨竜への裏切りだと思った僕には入ってこなかった。


その誤解は解けたものの、僕は朱里に酷い言葉をぶつけている。彼女にとって決して良い思い出とは言えないだろう。


だが、彼女の表情に憂いの感情はなく、ただただ清々しさが残っていた。


「ぶっきらぼうだけど優しいところが好き。今日みたいに紳士的に動いてくれるところも好き。でも、1番好きなのは、自分が好きなことを楽しそうにやってるところなんだ」


一呼吸置く朱里。しかし、彼女のターンはまだ終わらない。


「だから、楽しく過ごしてる廣瀬君と一緒に居たい。私きっと、廣瀬君のお願いなら何でも聞いてあげられるから。廣瀬君が楽しめるよう、一生懸命着いていくから。だから、」


そこまで言って、朱里は大きく深呼吸する。


そして、胸元に手を当てて僕に目を合わせた。



「だからーーーー私を選んでくれたら嬉しいな」



今日のデートの終わりに引き出された彼女の本音。それは決して、偽りの思いから得られるようなものではない。純粋に人を想っているからこそ、こうも直球で僕の胸まで飛んでくるのである。



渋谷デート、寒さを感じるその季節、確かに僕は自分の頬に僅かな熱を感じた。

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