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モテすぎる悪友が鬱陶しいので、彼女を作らせて黙らせたい  作者: 梨本 和広
6章上 学園祭と決断

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28話 衣装合わせ

「はい、これ廣瀬君の分」


落書きタイムが終わり、排出されたプリクラ用紙を備え付けのハサミでカットすると、朱里が半分を僕に渡してくれた。


そういえば朱里はどんな落書きをしたのだろう、さっきは文字とスタンプの密度に注目していて中身を見ていなかったな。


「ちょっ! 今見るのはなし!」


しかしながら、写真を見ようとしたところで朱里に取り上げられてしまう。


「なんでだよ?」

「その、思った以上に勢いでやっちゃったというか、だから隣で見られるのは恥ずかしいというわけで」


成る程、確かに僕もUFOのやつを見られるのは少し抵抗があるな。今からでも『空から女の子が!』に書き換えたい。人生で1度は言ってみたいセリフだ。


「分かった。家に帰ってから見ることにする」

「約束だよ? 今から渡すからすぐ財布に閉まってね?」

「はいはい分かったから」


朱里からプリクラを裏面で受け取り、言われた通り財布へしまう。そこでホッとしたように息を吐く朱里。一体何を書いてしまったというのか、『左手の甲が疼く』とかかな。疼けばいいじゃない、人間だもの。


「これからどうするの?」

「昼食のつもりだったんだが少し早いな。せっかくだし上の階見てくか?」

「うん!」


というわけでエスカレーターで上の階に上がり、女性服売場を見回ることにした。勿論手は繋ぎながら。


店ごとに特色のようなものはあるみたいだが、正直違いはよく分かっていない。そもそもファッションに疎いというのもあるのに、パンツ系とスカート系をさらに細分化されてはついていけなくなってしまう。


とはいえ朱里が楽しそうに衣服を見ているため、僕も退屈はしなかった。時折手に取っては自分に合わせて感想を求めてくるのも通過儀礼の1つだろう。


「やっぱり廣瀬君、今着てる服みたいのが好きなんだね」


何度か朱里へ感想を伝えていると、彼女は興味深げに呟いた。


意識していたわけではないが、感想が少しばかり偏っていたらしい。


でもそれは、僕の好みというわけではなく。


「朱里に合ってると思うからな、僕の主観でしかないが」


僕が知っている朱里に合うのはこういうものだと肌で感じた結果だ。人によっては違う意見が出るのかもしれないが、僕はこうだと自信を持って言える。


うむ、つまるところそれを好みというのだろうか、定義が分からないが。


「えへへ。廣瀬君の主観でいいんだよ、私にとってはね」

「……そうか」


1度は面食らったような表情を浮かべた朱里だったが、次には照れくさそうにはにかむものだから今度はこっちが面食らってしまった。


こうも分かりやすく好意を向けられるのはやはりむずがゆい。あの瞬間の時間が止まったような感覚は何度経験しても慣れない。というか慣れることなんてないのかもしれない、恋愛というものに振り回されている僕からすれば。


「じゃ、じゃあ、次も感想もらっていいですか?」

「今更前置きなんていらないだろ、都度言ってくれればいい」

「わ、分かりました! 覚悟ばっちりです!」

「覚悟?」


気まずい雰囲気を立て直すかのように言葉をくれた朱里。ありがたい会話だったのにやけに詰まっていたのと不思議な語彙が気になった。


こういう時の彼女は何かをやらかすと相場は決まっているが、そんな決めつけは良くないと心の中で首を左右に振る。


僕が一歩一歩成長しているように朱里だって成長しているんだ。語彙が怪しいからと彼女が奇行に走るなんて思ってはいけない、僕はどこか自己暗示のごとく自分に訴えかけていた。


だが、それはただの現実逃避に過ぎなかったのである。


朱里が挙動不審気味に入っていったのは、ランジェリーショップだった。


「……朱里さん?」


今や視界から消えてしまった重要参考人の名前を呼んでみるが返答はない。


先程までの店もそれなりに入りづらかったが、目の前の店はその比ではない。目の前に立っているのも憚れるほどである。


これから何が行われるかは想像に難くない。今までの流れを考えるならば、先程とは比べられないレベルの高難度感想が求められることになる。


どうしてこうなってしまったか非常に頭を抱えたくなるが、今この場所にいるのは危険である。ここで待機していれば人の往来で感想を求められるハメになる。それだけは絶対に避けなければならない。


「南無三!」


断腸の思いで店内に入り、朱里を探した。店内はそこまで広くないようで、あっさり朱里の背中を捉えることができた。不審者として通報されないようすぐさま朱里へと駆け寄っていく。


「朱里さん、あなた一体どういうつもりなんですかい?」


僕に声を掛けられビクつく朱里だが、逃げ出したい程ビクついているのはこちらである。ただの布切れの集合体なのに、目にするのすら犯罪のような気がしてしまう。


「……」


顔を真っ赤に染めながら、目をぐるぐる回す朱里。


質問をしておいてなんだが、この場で問答なんてしたくない。さっさと終わらせて僕を共用通路という安息地に誘ってほしい。


「……知ってますかい?」

「はい?」


僕の江戸っ子魂が伝播したのか、語尾の怪しい朱里が顔の赤みが取れないまま軽く口角を上げた。


「女子っていうのはね、下着も含めて戦闘服なの」

「……はい?」

「目に見えるだけが全てじゃないの、緻密なファッションは下着から始まるの。そこを理解してやっと上に進めるの」

「……理解しなくても良いのでは?」

「理解したいからここにいるの!」

「ちょっと!? お声が大きくあそばすぞ!?」


テンションが上がった朱里の声のせいで視線を集めてしまうが、暴走機関車と化した彼女には目に入っていないことだろう。


朱里は純白の下着を片手に、黒の下着をもう片方の手に持って僕を見た。


「どちらが私にお似合いでしょうか!?」


案の定、男の僕に聞くには高すぎるハードルをモノともせずに問うてきた。これが彼女の覚悟、絶対に使いどころを間違えている。


しかしどうしたものか。こんなの、衣服以上に判断の仕方が分からない。保健体育はずっと満点を取っていたのに全く活きてこないじゃないか、布切れのことは家庭科だったということか。


偏見だが、下着の入門とは白だと勝手に思っている。お色気の多い漫画では白い描写が多い、つまり白が入門であり頂点なのである。


だがしかし、ここに見えないトラップがある。白が王道で頂点ならば、こんなにもカラフルな空間が広がっているだろうか。


とある女生徒は言っていた、『情熱のレッド』と。つまるところ、情熱を発揮したい時は赤色なのだ。


ふん、冷静に判断すれば簡単じゃないか。下着の色なんて炎色反応と一緒、各々特有の個性と色がマッチしているだけ。そこを紐解けば何がお似合いかなど自ずと分かってしまう。


朱里が選んだもう1つの色は黒。黒か、黒ね。待て、黒ってなんだ? 炎色反応に黒なんてないぞ?


もしかして僕、詰んだ?



「あの、できればこの黄色とピンクも合わせて判断してもらえると」



勝手に選択肢を増やすんじゃないわバカちん!!

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