25話 攻めの姿勢
更新遅れて申し訳ありません。
学園祭準備やら生徒会活動やら目まぐるしい数日を過ごしたが、今日は今日で気持ちを切り替えなければいけない。
本日から2日間、朱里と梅雨とのデート2連戦である。
普段の僕なら男女のお出掛け程度で緊張などまったく感じないのだが、恋人を決める大事な催しだと思うと正直落ち着かない。
選ぶ側の僕がこうなのだから、女性陣の緊張は一入だろう。まあこのデートで結論を出すとまでは言っていないので、そこまで緊張していない可能性もあるわけだが。
服装は白のインナーにダークウッドのカーディガン、オリーブグリーンのチノパンという構成である。緑のような茶色のような色味が分からず調べていたらオリーブグリーンという言葉に出会ってしまった、世の中分からないことだらけである。
また、チノパンが少しダボっとしていたため変更したほうがいいか父さんに相談してみたが、あまり硬すぎても相手を緊張させるだけからこれくらいカジュアルの方がいいと言われ一瞬で納得した。やはり気遣いというジャンルにおいて父さんの右に出る者はいないな、その姿勢が我が愚母に伝わっていなさそうなのが本当にお労しいが。
何はともあれ、デートの準備はバッチリ済ませた。後は現地で合流するだけ。場所は渋谷、相手は朱里だ。
朱里とデートをするのは一応2回目、最初のデートは雨竜から逃げないよう矯正するためのものだったが、こうも目的が変わるとは思わなかった。
雨竜を好きだった女の子が自分を好いてくれる、正直奇跡のようなものだと思ってる。ただ、現実に起きている以上、奇跡なんて言葉で流してはいけない。
これは自分のためのデート、朱里以上に僕がしっかりしたいと思う。とはいえデートはデート、楽しむことも忘れないでいく。段取りあれどイレギュラー上等のつもりでいこう。それくらい気楽の方がきっと盛り上がる。
予定時間の20分程前に待ち合わせ場所に着いた。今回はワンコロ像の前でなく、前回の渋谷探索で見つけた高架下の原色カフェの前で待ち合わせすることにした。
あそこは人が多いし、観光客が多くて近寄り難い雰囲気もある。それなら少し離れた方が見つけやすいし気も楽だと思って提案した。ワンコロ側の改札から出れば簡単に見つけられるしな。
「廣瀬君!」
僕が到着してからおよそ5分後、今日のお相手である桐田朱里が、少し呼吸を乱しながら合流した。
「ごめん、待たせちゃった!? 私も早く来たつもりだったけど」
「とりあえず落ち着け。後、僕は待っていないから気に病むなよ」
「そ、そっか、ならいいんだけど」
安堵と同時に息を整える朱里。そんな彼女の様子を見ながら服装に注目する。
上は縦ストライプの入った白のニット、下はライトブラウンのロングスカートを身に付けており、前髪はヘアピンで片側にまとめていた。
勉強合宿の時もニットを身に付けていたが、あの時より身体のラインが強調されているように見え、色合い的にも随分大人っぽく感じる。
「ど、どうかな?」
僕が服装を見ていることに気付いたのだろう、朱里は上目遣いで感想を求めてきた。
僕が正しく評価できる自信はないが、思ったことをそのまま言おうと思う。
「似合ってるな、それはもう。大人っぽいというか、攻めてるって感じがする」
割と抽象的な表現になったが、それでも朱里は嬉しそうにはにかんでくれた。
「うん、プロポーションは廣瀬君が褒めてくれたことだし、自分としても自信に繋げたいから」
「正直、人目を気にして避けるかと思ってたぞ」
勉強合宿の時はほとんど建物の中だったし、移動は浴衣になっていたからそこまで目立っていなかったが、街中となれば衆人環視に服装が晒されるわけで。そういうのは朱里の望むところではないと思っていたが。
「恥ずかしい気持ちより、廣瀬君に褒められたい気持ちの方が強かったから。だから全然問題ないよ」
照れ臭そうに微笑む朱里を見て、こちらまで照れ臭くなってしまった。自分の気持ちよりも僕を優先してくれるというのはさすがに嬉しいものがあるな。
「……攻めてるな」
「……うん、攻めてる」
気を紛らわすように服装と同様の感想を漏らすと、朱里も伏目がちに返してきた。僕だけでなく彼女も気合いが入っているのが伝わってくる。
「そ、そろそろ行くか」
微妙に気まずい空気が流れてきたので、解消するかのごとくデート開始を提案した。話しやすい場所ではあるが、このまま高架下で佇んでいるわけにもいかない。ささっと切り替えて楽しげな雰囲気を醸し出したいところだ。
「ちょ、ちょっと待って!」
しかしながら、朱里から『待った』がかけられた。手を前に突き出して軽く震えている。空気を変えるためとはいえ少々強引すぎただろうか。
「その、さ、私、今日は攻めていきたいと思っておりまして」
辿々しく放たれたのは、先程から何度か飛び交っている『攻める』というワードだ。
なかなか続きが出てこず顔を赤らめているところまで考えると、口にするのに勇気がいることだというのは推察できる。
だがしかし、朱里が何を言いたいか見当もつかないため、促すようフォローをすることはできない。本日気合いの入った彼女が覚悟を決めるしかないのである。
「た、大変恐縮なお願いではあるんですが」
どこか社会人めいた前口上を入れた後、朱里は大きく深呼吸してから僕と視線を合わせた。
「私と、手を繋いで歩きませんか!?」
気持ちのこもった言葉とともに、朱里の手がこちらに向けられた。




