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モテすぎる悪友が鬱陶しいので、彼女を作らせて黙らせたい  作者: 梨本 和広
6章上 学園祭と決断

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24話 乙女たちの語らい12

「あれ? 出雲ちゃんだけ?」


茶道室にやってきた朱里は、中で片付けをしている茶道部部長の出雲に声を掛けた。


「ううん、今日は早めに終わらせたの。皆学園祭の準備もあるからさ」


そう言って、部活で用いた茶道の道具を洗う出雲。最近部活に立ち寄れなかったこともあり、後片付けを全て自分ですることにしたようだ。


「朱里も随分と忙しそうじゃない、ここ来たの久しぶりでしょ?」

「うん、連日休むのはどうかと思って抜け出してきたんだけど」

「残念、今日はもう店仕舞いよ」

「そうみたいだね、片付け手伝う?」

「大丈夫よ、もうすぐ終わるから」

「了解、それなら座って待ってるね」


そして、お互いに学園祭の準備内容について話し始めた。


朱里は和装喫茶の準備状況を語る。去年1年Bクラスで実施したコスプレ喫茶を参考にメニューを決め、服装についてはある程度種類を絞って統一感を出すようだ。


「和装喫茶なら落ち着いた雰囲気を重視した方がいいだろうし、去年のウチみたいにしないのは正解でしょうね」

「出雲ちゃんたち、いろんな服装があって華やかだったもんね」

「雪矢が譲らなかったからね、売上でウチのクラスが勝つための手段として」


今思えば、あれだけ個性的なメンバーをまとめられたのは雪矢が序盤に出し物の方向性を決めたからだと思う。そのおかげで準備に時間をかけられたし、結果として2位と倍以上の売上を叩き出すことができた。


そこまでの功績を出しておきながら、学園祭後は何事もなかったかのように誰とも絡まなくなったのは本当に不思議な話だ。


「でも、出雲ちゃんたちの今年の出し物は展示なんだね」

「クラスより部活を優先したい人たちが多かったからね。時間かけずに取り組める出し物にシフトしたの」

「廣瀬君は何も言わなかったの?」

「勘違いしてるようだけど、雪矢は基本積極的に関わらないわよ。去年も長谷川先生が焼肉を奢る話があったから動いてただけだし」

「そっか、廣瀬君目立つの嫌いだもんね」

「好き勝手やって変に目立ってるくせにと言ってあげたいけどね」


そう言って、朱里と出雲は顔を見合わせて笑った。


2人の会話に雪矢が出てくることは多いが、ほぼ確実に笑いどころになってくれているのは彼のあべこべな立ち回り故だろう。


「青八木君も生徒会で忙しそうだし、今回私たちは展示で正解だと思う。それなりに面白い試みはできそうだし」

「そういうことなら見に行くの楽しみにしてるね」


出雲の片付けが終わったところで、学園祭の話がキリよく終わる。このまま一緒に帰宅をしても良かったが、出雲はこのまま少しだけ踏み込むことにした。


「朱里さ、近いうちに雪矢と出掛けるでしょ?」

「えっ!?」


切り出すと、朱里の頭が勢いよく出雲に向かった。顔には図星と書かれていた。


「なんで知ってるの?」

「雪矢に相談されたからね、あなたがどういうところを好きかどうか」

「廣瀬君が?」

「そう、実際に街を回りながら、いろんな施設に入ってはあなたの好みを教えてた感じ。私の主観が入った部分はあったけど、それなりに伝えられたと思う」

「……」

「雪矢、すごく真剣だった。恋人を作るために、朱里とのデートを良くするために一生懸命考えながら回ってた」


出雲が朱里にこの事を伝えたのは、雪矢の真剣度を彼女に分かって欲しかったからだった。


本来選ぶ側であるはずの雪矢が、相手に楽しんでもらえるよう試行錯誤する。この事実を、彼から朱里に伝えることはない。そんな恩着せがましいことを彼はしない。


だから出雲は、朱里に伝えたかった。あなたが想っている相手は、想像以上にあなたを大切に思ってくれているということ。


そして何より。


「だからね、次のデートが本当に大事になってくると思う。そのデートで全部が決まる、それくらいの心持ちで臨むべきだと思う」


真剣な気持ちに向き合うためにも、朱里にもスイッチを入れてほしいと思った。


数ある一つのデートじゃない。高校受験のような、たった一度しかないデートとして、朱里に向き合ってほしいと思った。



「……ありがとう、出雲ちゃん」



出雲が赤裸々に語った後、朱里の口から出たのは感謝の言葉だった。


「今の話を聞いてなかったら、変にあたふたして時間を無駄にしてたかもしれない。そんなの廣瀬君に失礼だもんね」

「朱里……」

「私、頑張るよ。廣瀬君が頑張ってくれてるのに、私が受け身だなんておかしいし。廣瀬君にも楽しんでもらえるよう、私も頑張るから」


朱里の覚悟の決まった表情を見て、出雲は安堵した。雪矢としては隠したかったことかもしれないが、朱里のスイッチが入ったことを踏まえると、話したのは正解だった。


「とはいえ頑張りすぎないようにね、空回って失敗するんじゃ意味ないんだから」

「確かに、私の悪いところ出ないようにしないと」


朱里が無理をしすぎないように、出雲は自分なりに助言する。親友の想いが成就するよう心の底から願っていたところだったが。



「それはそれとして出雲ちゃん、訊きたいことがあるんだけど」



圧のある笑みを浮かべながら話を変えてくる朱里。


何事かと思って続きを待っていると、



「出雲ちゃんはいつ、廣瀬君と街に繰り出したのかな?」



そこでようやく、朱里が圧を放ってくる理由が理解できた。原因はどうあれ、自分の知らないところで自分の想い人と出かけているなんて面白くはないだろう。


「し、心配無用よ朱里! 私と雪矢の2人で出かけたわけじゃないから! 青八木君もその場にいたんだから!」


まずは真っ先に誤解を解く。雪矢と2人で出かけたわけではなく、雪矢と雨竜の3人で出かけたことを伝えた。これで朱里の圧が消えれば良かったのだが。


「えっ! 出雲ちゃん青八木君と一緒に居たの!?」


確かに朱里の圧は消えたのだが、別の色めいた空気が辺りに充満し始めた。


「出雲ちゃんがプライベートで青八木君と会うのって初めてじゃない!?」

「失礼ね、勉強合宿はプライベートでしょ!」

「それを除いたら?」

「……は、初めてかもだけど」

「おお! すごい進展だね!」

「あのね朱里、言っとくけど雪矢も一緒に居たんだから2人きりというわけじゃ」

「そっかそっか。じゃあその日の流れを帰りながら教えてもらおうかなぁ」

「ぐっ」


出雲のお出掛けの話になり、意気揚々と進行を始める朱里。対照的に、プライベートを晒さざるを得なくなって気落ちする出雲。


雪矢の秘めておきたい頑張りを朱里へ横流しした報いなのかと、反省する出雲なのであった。

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