表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モテすぎる悪友が鬱陶しいので、彼女を作らせて黙らせたい  作者: 梨本 和広
6章上 学園祭と決断

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

368/378

22話 けじめ

あいちゃんとトラブルが発生した翌日の朝、僕は早めに学校へ向かっていた。最近早出が恒例になりつつあるため、普段通りの時間がむしろ非日常になってきている。


ちなみに昨日の茶室事件については、あいちゃんを宥めるために蘭童殿と3人で学園祭を回ろうと提案したら割とあっさり元気を取り戻してくれた。チョロ可愛くて少々心配になるが、それを保護していくのが僕と蘭童殿の仕事ということだろう。会員としての務めはしっかりと果たしていこうと思う。


一旦気持ちを切り替える。今日早く来たのは気まぐれではなく、ある人物に時間をもらいたかったからだ。


陽嶺高校最寄り駅の改札を抜けると、目的の人物が大きく手を振って近付いてきた。



「おはようユッキー!」



太陽の照らない地下さえも明るく照らしてしまいそうな笑みを浮かべているのは、陽嶺高校二大美女の片翼を飾る神代さん家の晴華だった。今日も今日とてトレードマークのポニーテールが跳ねている。


「おはようさん、わざわざこっちまで来てくれたのか」

「校門からだと短すぎたからね、もうちょっと一緒に登校気分を味わいたくて!」


そこら辺の男子高校生なら石に変えられそうなウインクをすると、晴華は僕の隣に並んで一緒に歩き始めた。


「学園祭、ユッキーたちのクラスって何するの?」

「展示だな、クイズ要素の入った」

「そうなの!? カフェ的なことしないんだ」

「雨竜が生徒会であまり参加できないからな、部活側に参加したい連中も多かったし無難に収まった感じだ」

「ユッキーもズーちんもいるんだしいろいろできそうなのに……」

「晴華たちは何するんだ?」

「アニマル喫茶だよ! いろんな動物の着ぐるみを着て接客するんだ!」

「……去年に比べると随分マスコットっぽくしたんだな」

「そりゃそうだよ、去年はホントに恥ずかしかったんだから!」


昨年の1年Bクラスの出し物である『コスプレ喫茶』では、晴華にはチャイナドレスを着て接客してもらっていた。身体のラインがくっきり出た服装で2日間過ごすのは、スタイルの良い晴華にはなかなか厳しかったのだろう。


とはいえ着ぐるみで接客というのはどうなんだ。晴華をホールに立たせるなら、チャイナドレスほど露骨じゃなくてもカフェの店員みたいな服装の方がいいと思うが。着ぐるみは晴華の良さを消しすぎじゃないだろうか。


「それでユッキー、話したいことってなーに?」


前談が終わると、晴華が僕の顔を覗き込むように声をかけてきた。


そうだ。僕は昨日、晴華に時間をもらいたくて連絡をした。恋愛というジャンルにおいて、今僕がどんな気持ちで動いているかを知ってもらう必要があると思ったからだ。


そしてそれは、晴華にとって良い話ではない。だから、少なくとも朱里や梅雨とデートをする前に伝えておくべきだと思ったのである。


晴華の気持ちを知っていながら、なあなあなまま終わらせるのだけは良くない。僕なりにけじめをつけなければいけない。


「今、恋人を作ろうと絶賛動き出してる最中なんだが」

「うん」


僕の前置きにも、晴華は表情を変えない。少し口角を上げたまま、僕の続きを待っていた。


「それで、女子たちとは交流を重ねて、僕が付き合いたいと思った相手と交際したいと思ってる」

「うん」

「ただ、その中にお前を入れてない。友達として交流したいと思っても、恋人としての交流は考えてないんだ」

「……」


そこで晴華の相槌がなくなった。心なしか、表情が少し暗くなっているように感じる。


仕方がない。一度正式に晴華の申し出を断っているわけだが、改めて同じことを伝えているんだ。


晴華が僕の気を引こうと行動してくれてるのは分かっている。彼女の行動が嬉しくないと言ったらそれは間違いなく嘘になる。


ただ、今の段階で僕の心が変わることはなかった。


「だから、仮に僕が誰かと付き合うことになっても、わざわざお前に伝えることはしない。友達として報告する形になると思う」


これが今日、僕が晴華に伝えたかったこと。


他に好きな人がいるから君とは付き合えない、そんなことを言う土俵にも立ててないと言わなければいけなかった。


残酷なことをしてる自覚はある。こんなことを言わずに、形式的に朱里や梅雨と同列に扱うことだってできた。


でもそれは、2人にも晴華にも失礼だと思った。だから僕は、今見えているものくらいはしっかり示すべきだと感じだのだ。


「……もう、こういう話を朝からする?」

「うっ」


晴華の表情に沈んだ様子はなかった。多少僕をからかう口調からも、無理はしてるようには感じない。


しかしながら、晴華に言われてハッとする。鉄は熱い内に打つべきだが、彼女のことを全く考えていなかった。僕の都合で2度フラれるのが朝、晴華はどういう気持ちで1日を過ごせばいいんだ。



「でも、ユッキーはやっぱり優しいね」



自分の情けなさに打ちひしがれそうになっていたが、美晴のような穏やかな笑みを向けられて言葉に詰まる。今の僕に優しい要素なんてあっただろうか。


「いきなり失恋する可能性があるから覚悟しておけってことでしょ? わざわざ言わなくたって分かってるのに、あたしが悲しむ心配をしてくれたんだよね?」

「いや、僕が勝手にけじめをつけるべきだと思っただけで」

「だとしたら、ユッキーは体育祭の日にちゃんとけじめをつけてくれてるよ? 今日までずっと、ユッキーの優しさにあたしが甘えてただけなんだから」


そう言われればそうかもしれないが、好意を向けることを良しとしたのは僕なのだ。好きなだけアピールさせといて、他の相手と付き合うから意味ないなんて虚しいにも程がある。体育祭の日にちゃんと断ったからといって、そのままで良いとは到底思えなかった。


「難しい顔してるねユッキー」

「……僕に都合が良すぎるだろ」

「当たり前じゃん、惚れた弱みなんだから」


歯を見せて笑う晴華の表情があまりに尊くて、僕はあっさり二の句を潰されていた。


なんだろう、恋愛をする女子たちはどんどん成長しているように感じる。僕はいろんなことに悩んでぶつかって失敗ばかりなのに、対照的なまでに彼女たちは逞しい。


恋する乙女は最強、そんなフレーズが頭を過ぎった。


「でも、ユッキーが納得いかないならもうちょっとだけ甘えちゃおっかなー」


そう言って、晴華は提案するように人差し指を立てた。



「今日の放課後、あたしとデートしてほしいな。あたしの通学路の間で良いから」



気づけば、既に校舎の前まで来ていたのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ユッキーの恋人候補って梅雨ちゃんと朱里ちゃんの2人?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ