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モテすぎる悪友が鬱陶しいので、彼女を作らせて黙らせたい  作者: 梨本 和広
6章上 学園祭と決断

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21話 大天使

生徒会の引継ぎが終わった翌日、学園祭の準備が活発になっていった。


我が2年Bクラスは展示をやることは決めていたが、具体的な内容が固まっていなかったため、朝礼で話し合いが設けられた。


僕にも意見が求められたので、『この学校にあるマイナーな部活紹介』と返したら、面白みもなくやる気が出ないと一蹴されたのでカッチーンきてしまった。


他の愚民共の意見を聞いてる間に再度考え抜いた案が、『陽嶺虚構クイズ』である。陽嶺高校で実際にあったり行われたりする内容と嘘の内容を織り交ぜた新聞を作り、何が本当の内容かを当ててもらうというものだ。


その場で適当に応えてもらってもいいし、学校を巡回して答えを絞ってからもう一度来てもらってもいい。正解した人にちょっとしたお菓子でもプレゼントすればエンタメ寄りの出し物には昇華できるだろう。


説明し終えると、思ったより食いついた生徒が多く、あっさり出し物が決まってしまった。どうやら虚構内容を考えるのが楽しみらしいが、あからさまにふざけるとクイズにならないからバランスは考慮に入れてほしいものだ。


「ありがとう雪矢、やっぱり頼りになるわね」


素直な出雲の賞賛だったのに、僕は溜息しか出なかった。だからこのクラス、僕を働かせ過ぎなんだって。これ以上は絶対手伝わない、僕は暇人ではないのだ。


そう思っていても結局何かしら手を貸すことになるのだろうと、今のうちからナーバスになってしまうのであった。



ー※ー



「あっ、廣瀬先輩!」


放課後、クラスの手伝いをしないよう茶道部にでも逃走しようかと思っていたら、茶室の前であいちゃんと遭遇した。


「生徒会選挙の演説、お疲れ様でした。その、すごくカッコよかったです!」

「お、おお……!」


照れ臭そうに労いの言葉をかけてくれるあいちゃん。雨竜の奴隷として強制的に受けていた推薦人業務だが、大天使の祝福を受けようやく報われたような気がした。あいちゃんマジ天使。


「今日はお茶呑みに来たんですか?」

「そんなところだ」

「あれ、でも空ちゃんのお手伝いはいいんですか?」

「蘭童殿は藤宮先輩と生徒会企画の打合せなんだ、僕は参加できないから今日はお休みだな」

「どうして廣瀬先輩は参加できないんでしょうか?」


首を傾げるあいちゃんに生徒会企画で雨竜と闘う旨を伝えると、少し驚いた様子を見せてから両手を軽く握った。


「私は廣瀬先輩を応援してますから! 頑張ってください!」


あいちゃんから温かいエールをもらい、僕の思考がゆっくりと丁寧に構築されていく。


あれ、もしかしてあいちゃんって本当に天使なのではないだろうか。今まで比喩表現として用いてきたが、実は背中に羽根が生えていてもおかしくないぞ。例え人間だとして、いずれにせよ絶滅危惧種、国を上げて保護すべき対象である。


「あいちゃんは学園祭準備に参加しなくていいのか?」


茶室に入って茶を点てるあいちゃんを見ながら質問する。


出雲は委員長として動き回っていて部活に来ている余裕はなさそうだったし、今なお茶道部に来ているのはあいちゃんだけである。今後もこういうことはあるだろうし、参加が1人だけなら休むルールでも作れば良いと思うのだが。


「はい、今日は出し物を決めたんですが、現時点でできそうなことがなかったので解散になりました」

「へえ、あいちゃん達は何をするんだ?」

「フリーマーケットですね。クラスの皆の家で使わなくなったものを売るんです。集まったものを見てプラスアルファで何を売るか決める感じですかね」

「成る程」


確かに、それだと今日やれることはあまりなさそうだ。予算の使い方を考えるにせよ、集まるものが分からなきゃ整理もできないからな。


「しかしアレだな。出し物が喫茶的なものではないとなると、あいちゃんの可愛いウェイトレス姿は拝めないということか」

「っ!?」

「うぉ、溢れてるぞあいちゃん」

「わ、わわ!」


茶器を持つあいちゃんの手が震え、僅かにお茶が溢れてしまう。先程まで丁寧に点てていたというのに、一体何があったというんだ。


「ひ、廣瀬先輩! この際なのではっきり言わせてもらうんですが!」


床の拭き掃除を終えて僕の前に点てたお茶を置いたあいちゃんが、顔を赤くして主張する。


「私は全然可愛くないです! 可愛いというのは空ちゃんとか梅雨ちゃんとかそういう人のことを言うんです!」

「……………………………………???」


目の前の女の子の口からよく分からない発言が飛んできたが、勿論よく分からなかったので右から左へ飛んでった。


そもそもの話、こう主張するあいちゃんそのものが可愛いし、否定している時の仕草も可愛い。僕が清少納言なら『あいちゃん草子』を執筆し後世に語り継がれているはずだ。春はあいちゃん、あけぼのなんて知るか。


そうか、最近生徒会選挙で忙しかったせいで、蘭童殿と会の活動ができていなかったから、自分の可愛さに不安を抱いているのかもしれない。


まさかこの考えに至ったのがたった今とは、会員のくせして情けなさ過ぎる。多忙などただの言い訳、推し活を怠っていたなら今からするんだ。


「落ち着けあいちゃん、君の気持ちは充分に伝わった」

「ほ、ホントですか!?」


よっぽど不安に打ちのめされていたのだろう、あいちゃんの表情がぱあっと明るくなった。


だが、まだ足りないに違いない。悪いな蘭童殿、あいちゃんの可愛らしさを表現するのはこの僕だ。


「あいちゃんが学園祭でウエイトレスをするなら、接客を全てあいちゃんへ依頼するために長蛇の列を並び、1000円以上の会計でもらえるあいちゃんコースターをゲットする。勿論全種類コンプリートするまで続ける所存だ」

「へっ?」

「できればチェキまでお願いしたいところだが、あいちゃんには接客という大事な仕事があるからな。できる応援は全力でしつつも他の客の邪魔はしない。どうだろう、僕なりにあいちゃんがいかに可愛いかを表現してみたんだが」


陳腐に可愛いなんて単語を使ってもあいちゃんは喜ばないだろう。だからあいちゃんがウエイトレスとして働いた場合、僕がどんな振る舞いをするか表現してみたのだ。


会員である僕なら一切躊躇うことなく行動に移すことができるだろう。それくらいあいちゃんが可愛いということなのだが、しっかり伝わっただろうか。



「全然伝わってないじゃないですか!?」



しかしながら、あいちゃんの城壁は思った以上に強固だった。顔は噴火したように赤く、目には涙を浮かべている。


嘘だろ、僕なりに分かりやすく表現したというのに、まだ足りていないというのだろうか。


「私は!可愛く!ないんです! リピートアフターミー!」

「勿論僕は可愛くないぞ! 可愛いのはあいちゃんだからな!」

「うわああん! 廣瀬先輩が意地悪するうう!」


とても茶道部には似つかわしくない声が響き渡り、少なからず僕は狼狽えた。



あれ? あいちゃん可愛いよね? 僕の言い分間違ってないよね? なんでこうなってるの、教えて蘭童殿!

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