20話 青春の香り
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結局、僕も真宵と肩を並べて会計業務を教わることになった。
正直意味が分からなかったので、雨竜にお前が覚えるべきだと抗議したのだが、『9割程度は把握してるから不要』と反論された。君、生徒会長になったの先週の金曜日だよね? なんでこの細かい会計業務の概要を把握できているのかな?
もはや人間と呼んでいいのか怪しい存在であるが、その化け物に『減るものじゃないしお前も学んでおけ』と言われ今に到っている。
そりゃ減るものじゃないがな、何の苦労もなく得られるものじゃないんだよ! 僕はそれを声に出して言いたい、じゃなきゃ今の時間がこんなに大変なわけがない。
とはいえ軽々しく真宵を会計に推薦した僕にも責任があるわけで、責任感に定評のある僕は甘んじて受け入れることにした。後から楠木伊緒も合流し、3人で堂島大先生の教えを教授していた。
ー※ー
「いやあ、今日は大変だったねえ」
「姫ちゃんは何もしてないでしょ」
「木田さんも何もされていない認識ですが」
堂島先輩からの引継ぎを終え、自分たちの中で整理がついた頃にはすっかり外が暗くなっていた。学園祭準備もまだ始まったばかりということもあり、この時間まで残っていたのは僕らだけだった。
せっかくなので荷物を教室に取りに行った後、皆で駅に向かうことになった。合流して歩き始めると、3年生たちが楽しそうに会話を始める。
「なんかさ、こういうのっていいよね」
「こういうのとは?」
「普段とは違うメンバーでちょっと遅くに下校するの。すっごく青春の香りしない!?」
薄暗い中でも、藤宮先輩が笑顔で言っているのが想像できた。
確かに、生徒会やら学園祭やらイベントが絡まなきゃ、他学年と帰宅する機会はなかなか訪れない。
これを非日常と切り取るなら、藤宮先輩が高揚するのも分かる気がする。なんだかんだ人間は、慣れない状況に戸惑いながらも価値を見出すものだからな。
「分かりますよ、少し表現はクサいですが」
「いいんだよ、若いうちは多少クサくても」
藤宮先輩に最初に同調したのはまさかの人外代表青八木雨竜。唐突な人間アピールは止めろと言いたいが、友人の多いコイツからすれば生徒会メンバーでの帰宅は新鮮で面白いのかもしれない。
「伊緒ちゃんなんて最初はカチカチだったもんねー」
「当たり前じゃないですか! 知ってる方姫子先輩以外いなかったんですから!」
「いかにも頼りなさそうだものね」
「マヨマヨ? あたしをナメすぎじゃない?」
各々が会話に入り込む中、最後尾でうまく馴染めていない蘭童殿の姿を発見した。
引継ぎ時に楠木伊緒とやり取りしたとはいえ、先輩しかいない空間に入り込むのは難しいだろう。
だがしかし、怪我の功名というやつだ。この機会を活かして、蘭童殿の誤解を解かせてもらう。
「蘭童殿、ちょっといいか?」
歩行速度を緩め、彼女の隣を陣取る僕。一瞬驚いたように口を開いたが、すぐに目を細めて警戒する。
「……なんでしょうか?」
絶対零度の視線と声のボリュームに引き返したくなるが、ここは堪えて突き進む。
「先週の体育館での件、蘭童殿の誤解なんだ! 不快にさせたなら謝るから、許してもらえないだろうか?」
両手を合わせて蘭童殿に様子を窺う。
これ以上、彼女との間に気まずい空気が流れるのは避けたい。彼女とは一緒に雨竜攻略法を考えたり、あいちゃんを愛でたりしていきたいのだ。
「……これで許さなきゃ私、ヤな人間になっちゃいますね」
蘭童殿は1度溜息をついたかと思うと、少し罰が悪そうに笑みを見せた。
「こちらこそ、いつまでも引きずっていてごめんなさい。廣瀬先輩が理由なく変態行動を取るとは思ってなかったんですが、神代先輩のたわわなボディに屈しているようにしか見えず……」
途中から身を割くような悲痛な面持ちになる蘭童殿。晴華の拘束から脱出するためだったとはいえ、行動が軽率だったと反省しております。蘭童殿にとってはいろんな意味でトラウマ光景に映っただろうしな。
「前の件はこれで手打ちってことでいいですか?」
「それだと非常に助かります」
「ふふ、ならそういうことで。私も廣瀬先輩と気まずいのは嫌だったので」
そう言われてようやく僕は安堵した。皆、レベルダウンするときは周りの目に注意しような? 可愛い後輩とやり取りしづらくなって大変だからね?
「生徒会初日はどうだった?」
せっかくの流れなので、蘭童殿へ今日の感想を聞いてみる。
「緊張しましたけど、なんとかなりそうです! 楠木先輩も優しく引継ぎしてくださいましたし」
どうやら書記業務の引継ぎは和気藹々と進めることができたらしい。魑魅魍魎とした会計業務の引継ぎとは大違いである。
「名取先輩と協力して取り組んでいくという事実にはまだ慣れないんですが、そこは廣瀬先輩にも協力を仰ぎながら頑張っていきたいです」
「僕は蘭童殿の雑用だからな」
「うっ、あれは荒みモード時の言葉のあやと言いますか」
「その割にはノリは良かったように感じたけどな」
「仕返しですか? ずっと意地悪してた私に意地悪返ししてますか!?」
「いやいや」
僕を雑用扱いしたことを急に悔い改める蘭童殿。
良かったよ、どこかの金髪ガールと違っていて。反省できるって素晴らしい美德だね。




