18話 新生生徒会発足
休日明け、学園祭の準備が始まる陽嶺高校の放課後、僕は生徒会室に来ていた。
生徒会役員を決定したこともあり、前生徒会から引継ぎを行うらしい。そういうわけで、僕含めた8人の男女が生徒会室に集まっている。
「まさか名取ちゃんが役員になるとはねえ」
手を後頭部で組みながら楽しげに話す木田元副会長。これまでの学校生活や髪のことで言っているのだろうが、少し不躾ではなかろうか。
「何か文句でもあるんですか?」
案の定、それを挑発と受け取ったのか、真宵は鋭く木田さんを睨んだ。発足早々ただならぬ空気である。
「ちょっと木田君、その言い方はどうなの?」
しかしながら、木田さんの言い方をよく思わなかったのは藤宮先輩も同じようで、すかさずフォローに入る。
「こう見えて最近は部活熱心で頑張り屋さんなんだから! ねえマヨマヨ!?」
「マヨマヨって言うな!」
「タメ口!? あたしフォローしたのに!?」
藤宮先輩なりに真宵の長所をアピールしたようだが、呼び方で全てが霧散していた。そういえばこの2人、同じ部活に属していたのか。交流があったか知らないが。
「木田さんも姫子さんも分かっていませんね」
ここで割って入ったのが、元生徒会会計で藤宮先輩と幼馴染らしい堂島先輩。
「生徒会役員として最も重要なのはやる気があるかどうかです」
「ええ、それ堂島ちゃんが言う?」
「私は姫子さんのお目付役として業務を遂行してました。確かにやる気があったかと言われれば自分でも懐疑的ですが、技量でカバーしています」
「さすが茉莉ちゃん! クールでカッコいい!」
「元凶は黙っていてください」
「みんな扱いが酷い……!」
堂島先輩は、話題の中心となっていた真宵の顔を見る。
「人を見た目で判断するなと言いますが、人は見た目が9割という言葉もあります。貴女もここに立って周りからどういう目で見られるか想定できたはず。それを跳ね返すようなやる気を見せてくれる、そう判断して良いのですね?」
「……はい、勿論です」
「結構、であれば私から言うことはありません。淡々と引継ぎを終えるだけです」
堂島先輩は役割を終えたと言わんばかりに一歩引いて目を伏せる。前生徒会、この人がいないと成り立ってなかっただろうと素直に思わされた。
「皆さん、お忙しいところお集まりいただきありがとうございます」
タイミングを見計らったかのように雨竜が全体に声を掛けた。
「今日は新生生徒会の自己紹介と簡単な引継ぎを実施したく集まっていただきました。まずは目下迫っている学園祭を成功させるべく、結束していきたいと思います」
そう前置きしてから、雨竜は自己紹介をスタートする。
「この度生徒会長に就任した青八木雨竜です。前任が優秀だったので少々荷が重いですが、精一杯取り組ませていただきます」
「優秀だなんて、褒めたって何にも出ないんだから!」
「すみません、前任というのは生徒会を指してて別に藤宮先輩を指したわけじゃ」
「そ、そうなの?」
「ぷぷ、姫ちゃんダッサ」
「今のは青八木君の言い方が悪いでしょ!?」
「姫子さん、先に進まないので黙っててください」
「茉莉ちゃん? あたし達友達だよね……?」
藤宮先輩イジりで場の空気を和らげる雨竜。真面目な顔してこういう立ち回りもできるのだから恐ろしい、コイツにできないことってあるんだろうか。
「それじゃあ楠木さん」
「は、はい。この度生徒会副会長に任命いただきました楠木伊緒です! 1年間生徒会にはいたので、その経験を活かして頑張ります!」
生徒会副会長になったのは、前まで書記を務めていた楠木伊緒。本人は生徒会をやりたくなさそうだったが、雨竜に誘われて断れなかったのだろう。相変わらず罪な男である。
「えっと、生徒会書記の蘭童空です! やる気は漲っているので精一杯頑張ります!」
次いでは少々緊張した面持ちの蘭童殿。周りが先輩ばかりとなればしょうがないかもしれない。
そのために僕がいるのだが、現在レベルダウン事件により僕は蘭童殿に変態のレッテルを貼られている。早く解消しなければいけないのだが、今日会った時の蘭童殿の目がとても憐憫に満ちていて状況は停滞している。これ、なんとかなるんですかね。
「生徒会会計の名取真宵。あたしが頑張ってるところを見せて、同じ馬鹿たちを発奮させるきっかけになればと思います」
最後は真宵が自分らしさを見せて自己紹介が終了した。
新生生徒会、僕のワガママも入った人選だが、悪くないんじゃないかと思う。大枠は雨竜と楠木伊緒が居れば何とかなるだろうし、蘭童殿と真宵にはミスを恐れず伸び伸びやってもらいたいものだ。
「ん?」
ふと、3年生達の視線が僕に向かっていることに気付いた。
「どうかしました?」
「どうかって、廣瀬君は自己紹介しないの?」
藤宮先輩に尋ねられ、僕の頭に疑問符が浮かぶ。
「なんで僕がするんですか?」
「えっ、廣瀬君も役員じゃないの?」
「違いますけど?」
「へ? じゃあなんでここに居るの?」
成る程、確かに関係者ではない僕が居るのは不自然だ。雨竜から蘭童殿と真宵のフォローをするよう言われてるから来てみたが、今日来る必要はなかったかもしれない。
「ああ先輩、雪矢はいいんです」
3年生達へ説明するように割って入る雨竜。そうだそうだ、お前が決めたんだからお前が説明しやがれ。
「雪矢は自分から雑用として汗水流したいと言ってきたのでありがたくこき使う予定です」
コラコラ青八木君? 笑顔で君は何を言っているのかな? 最初に言っていた依頼と甚だしく異なっていないかい?
「……そうですね。廣瀬先輩は雑用がお似合いだと思います」
反論しようと口を開きかけた瞬間、闇堕ち蘭童殿の痛烈な言葉に石化する。ちょっと待って、あの元気いっぱい蘭童殿はどこへ行ったというんだ。何、その原因が僕だって? 心当たりしかなくて胸がいと痛し。
「雑用というかパシリでしょ、忙しい時はお昼買ってきてもらうから」
金髪会計さまは通常運転だった。ねえ雨竜君、君が言ってたフォローってこういうこと? このミス唯我独尊を手助けする必要ある? せっかくの昼休み、生徒会にパンを届けて足腰鍛えてアメフト部にスカウトされてランニングバックする予定はないんだが。
「……廣瀬君ってそんな殊勝な人だったんだ」
対照的に、楠木伊緒は僕に感心しているようだった。今のお三方の言葉尻でよくそんな前向きな感想が出るものだ、地味に失礼な物言いなのも天然ポイントが高い証である。
「なあ廣瀬」
新生生徒会役員からの温かい言葉を受け、文字通り固まっていた僕に近寄って肩に手を置いてくる木田さん。
「お前、姫ちゃんのこと笑えないぞ?」
「ちょっと木田君? 聞こえてるからなー?」
笑ってないよ。泣いてるよ。




