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モテすぎる悪友が鬱陶しいので、彼女を作らせて黙らせたい  作者: 梨本 和広
6章上 学園祭と決断

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15話 電気地獄

「それじゃあ出発するぞ」

「「おー」」


アホ雨竜を正気に戻し、出雲が冷静になって帰還したタイミングで街の探索を始めた。テンポの悪い滑り出しとなったが、ここから巻き返せば良いだけだ。


「道玄坂の方に行くのか?」

「そんなありきたりな手順を踏んで楽しいか、これだから素人は」

「お前渋谷初めてだろが」

「雪矢ってレシピ通り作らず馬鹿見るタイプね」


散々な言われようである。渋谷なんて360度何かしらあるんだからどう進んだって別にいいだろうに。


「ほら、早速良さそうな喫茶店があるじゃないか」


ワンコロから離れて少し進むと、高架下に原色の外装をした喫茶店を見つけた。壁面に埋まったサイネージがなかなかオシャレである。


「ここ、カフェ&バーだろ? 昼間はカフェだとしても、客層年齢上がるんじゃないのか?」

「駅に近すぎるし少し騒がしいわね、朱里はもう少し静かなところが好きよ」

「あっ、外国のお客さんが多いみたいだな。ここじゃ落ち着かないんじゃないか?」

「席の間隔も近そうね、話しづらそうな環境だわ」

「…………」


成る程成る程。どうやら僕は君たちを侮っていたらしい。僕の提案をボロクソ言うだけのポテンシャルはあるようだ。それならそうとスタートから頼もしげな姿を見せてもらえないですかね?


「ふ、ふん。今のはお前らの実力を測っただけだ。適当にイエスマンになられても困るしな」

「お前は一体何と戦ってるんだ?」


雨竜の疑問を無視して僕は先へ進む。いい気になるなよ優等生ども、探索はまだ始まったばかりだ。


「ねえ雪矢、こっちの細道に商業施設が」

「残念だが出雲、僕のインスピレーションがこっちだと言っている」


高架下を超えて左手側に大きな商業施設が見えたのだが、自分の直感を信じ道路沿いに進んでいく。敢えて人のいなさそうなところに進むとどうなるのか、こんな都会だからこそ面白い結果になるに違いない。


「お兄さんたち寄ってかない!?」


すると歩いて数秒後、家電量販店の前で実演販売をしているだろう女性に声を掛けられた。早速イベントが発生したが、学生に話しかけてメリットがあるのだろうか。


「今ね、電気マッサージの体験会をやってるの。良かったらどう?」


店員の手の先には椅子が2つ、その前に体重計のような機械が置かれていた。あれが電気マッサージの機械だろうか。


「僕らみたいな学生より社会人を捕まえた方がいいんじゃないか?」


身体的にも金銭的にもターゲットじゃない僕らに声を掛けるなんて、よっぽど人が来ていないのだろう。だからといって買いもしない若者に時間を取ったって良いとは思えないが。


「いえいえ、学生さんだって部活に受験で苦労されてますから、疲労はしっかり溜まるんですよ?」

「それはそうかもしれないが、気に入ったところで購入できないぞ?」

「そうですね。ですので良いと思ったら是非ご両親へアピールしてください」


馬鹿正直に親へ繋ぐよう言ってくる店員に好感を覚えた。変に学生に媚びを売るより、どストレートに欲望を伝えてくれた方が幾分も接しやすい。


「しょうがない。大変忙しいところではあるが、付き合ってやろうじゃないか」


踏むだけっぽい電気マッサージには興味があるし、景気付けに体験していってもいいだろう。


「私はパス、電気ってなんか怖そうだし」

「じゃあ僕と雨竜で体験するか」

「なんで俺は確定なんだよ。別にいいけど」


僕と雨竜は椅子に腰掛け、靴と靴下を脱いでから機械の上に足を載せる。


「この機械はパワーが25段階ありまして、高く設定すると座りながら筋トレにもなるんですよ!」

「若い内からテクノロジーに頼る筋トレなんて呆れるな、日々の鍛錬で得られるものこそが真の筋肉だというのに」

「現代的で俺はアリだと思うけどな」

「私も運動苦手だし嬉しいかも」


どうやら僕は少数派だった。嘘でしょ、日本人たるもの四股踏んで筋肉をつけるんじゃないの? お金で筋肉を買う時代なんて僕は信じないぞ。


「それじゃあ電気流しますねー」


店員の合図でふくらはぎ辺りにほぐされるような感覚が走る。機械に足を置いているだけなのに、これが電気マッサージか。


「今のパワーが7ですね、ちょうどリラックスできるくらいの数値です」


店員の言うようにピリッとはするが痛いという感じではなく、読書でもしながら寛げそうな感覚だ。


「マッサージだけであればこの前後で調整すれば良いんですが、筋トレとして扱うならもう少しパワーを上げる必要があります」


そう言って店員がパネルを操作すると、足への負担がいきなり変化した。圧迫感が強くなり、周期的に足の指が上に向いてしまう。さっきまでと違いけっこうキツい。


「今ので13、ちょうど半分くらいですね」


嘘だろ。もって数分くらいの電気は走ってるのにこれで半分だって。これより上を使う奴ら、どんな筋トレマニアたちなんだよ。


「雪矢、キツそうだな」


パワーを変えても涼しげな表情を浮かべる雨竜。僕をからかいたいのだろう、ニヤリと口角を下げていた。


「バカが、まだマッサージが終わらなくて退屈してるところだぜ」


舐められるわけにはいかないのでホラを吹いて対抗する。自分だって痛いくせに、余裕のフリなんて見苦しくないかい?


そんな風に雨竜へ煽り返そうとした時だった。



「そうか。ならパワー上げてやるよ」

「へっ?」



あろうことかこのヤンチャ男、店員の許可なく僕のパネルを操作し始めた。おい、とっても数値が上がっている気がするけど気のせいか!?


「おおおおええいいい!!?」


気のせいじゃなかった。力の限りパワーを放出する電気たちによって、ふくらはぎより下が痙攣しているような挙動になった。あかん、これはあきませんって。身体が勝手に踊り出してますって!


「20ですとボディビルダーを目指す方なんかが愛用される数値ですねー」

「解説してる場合か!? 僕の挙動がおかしいだろ!?」

「あはは! ちょっと雪矢、ふざけないでってば……!」

「勝手に動いてるんだよ! このヤロ雨竜、テメエも喰らえ!」

「おっ、おお、おおお!?」

「真顔で面白い挙動すんな!」

「待ってホント、お腹痛い……!」


優雅にマッサージを受けにきたつもりが、死ぬほど筋トレさせられた。なんでやねん。

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