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モテすぎる悪友が鬱陶しいので、彼女を作らせて黙らせたい  作者: 梨本 和広
6章上 学園祭と決断

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9話 真っ当な理由

「金髪に染めた理由ねえ……」


真宵は指で自身の髪をくるくると弄りながら呟く。


言い渋っているのであれば無理に聞くつもりはなかったが、真宵は決心を固めたように歩き始めた。


「改札内のベンチ座りましょ、ここ寒いし」


どうやら話してくれるらしい。僕は真宵の横に並んで歩く。


下校しながら話せたらそれが良かったが、僕と真宵は電車が逆方向。真宵の言う通り話すなら改札内のベンチが良いだろう。


定期で改札を抜けて駅のホームへ向かう。陽嶺高校の下校時間ということもあり電車を待つ生徒はそれなりに居たが、ホームの角には人が溜まっていなかったためそちらのベンチに腰を下ろした。



「……あたしさ、3つ上に姉がいるんだよね」



一息ついて間もなく、真宵が語り始めた。


「お姉ちゃん、何でもできる人でさ。勉強も運動も習い事も完璧にこなして、そのくせ性格も良いもんだから誰からも好かれてた。見た目も綺麗だったし、あたしもすごく憧れてた。両親に姉を見習えと何度も言われたし、あたしだってそれに応えたいって思ってた」


そこで、真宵の表情に影が差す。


「でも、お姉ちゃんの真似ができるのは運動だけで、勉強はさっぱりだった。時が経てば経つほどその差が顕著になって、ダメなところをひたすら比較された。あたしを奮起させたかったのか知らないけど、こちとらただただ苦痛だった。追いつけないって言ってんじゃん、なんで性懲りも無く比較するんだか。そのせいで、お姉ちゃんにまで嫌な態度を取るようになった。そんな自分が、もっと嫌いになった」


今の真宵を見ていると想像できないことだ。彼女はいつでも自信があって強気なのに、こんな風に繊細な一面もあったのだ。


「ただ、このまま逃げるのも癪だったから、苦手な勉強を頑張った。両親に認められたい一心で取り組んだ。それで、陽嶺高校に受かることができたわけ、あたし的には快挙だったのよ」


陽嶺高校の偏差値は決して低くないため、それなりに努力を積まないと受かることはできない。勉強が苦手な真宵からすれば尚更、受かった時はさぞ嬉しかったことだろう。


「なのに、母の一言が喜ぶでもなく褒めるでもなく『ホッとした』だけ。あたしよりお姉ちゃんの受験で気が気じゃなかったんでしょうね、結局受験という枠組みでも比較されて勝てなかった」


真宵は自虐気味に笑った。幼い頃に成果が出なかった彼女は母親から関心を持たれなくなっていた。


「あたし、もうそこからどうでも良くなって。比較されて悲しむのも馬鹿らしいから、だったらどう見たってあたしが『下』って分かる方がいいと思って髪を染めたの。そしたら母の説教がすごいすごい、こっちの方が興味引くんかいって思わず笑っちゃたわよ」


ここで真宵にいつもの笑みが戻る。彼女が金髪に染めた理由は、決して前向きな理由ではなかった。姉君と比較されないよう、見た目の段階で判断してもらうというものだった。


「元に戻そうとは思わなかったのか?」


話を聞くだけなら、金髪は負の遺産である。姉君と余計な比較をされないためとはいえ、母だけでなくいろんな人からも叱られたことだろう。なら元に戻すという選択肢があってもいいはずだが。


「……まあ、最初はそのつもりだったんだけどさ」


真宵はそう前置きすると、少し照れ臭そうに頬を掻いた。


「お姉ちゃんがさ、『おお! アウトローでカッコいいじゃん!』って言ってくれて。しかも自分も赤茶色に染め始めて、それがすっごく嬉しかったから、まあ……」


少しずつ語尾が弱くなる真宵は、相変わらず恥ずかしそうで、可愛らしかった。


成る程、金髪には大好きな姉君との思い出が詰まっているのか。そりゃ誰に何を言われようが元に戻すという発想にはならんわな。


「ってなんでここまで話してるんだあたしは」


ふと急に我に返った真宵。思ったより話し過ぎてしまったらしい。


「僕は聞けて良かったけどな、真宵がグレてた理由も分かったし」

「それね、母の愚痴なら無限に出てくるし」

「馬鹿め、母の愚痴なら僕の方が出せるね」

「何の対抗心なのよ……」


真宵に呆れられたような気もするがここは譲れない部分、我が母親に溜息ついた回数グランプリで優勝できる自信さえある。自分で言ってて悲しくなってきた。


「まあ、だからってちびっこをいじめていいわけじゃないけどね」


愚痴を肯定的に捉えたせいか、過去の過ちを口にする真宵。ここまで反省できているなら僕から言うことは何もない、2度と事を起こさなければいいだけだ。


「そういうわけだからこの髪色は変えない。これで生徒会に入れないって言うならそれまでってことね」


先程とは違い、真宵は明るい雰囲気で役員になれないかもしれない旨を伝えた。


「蘭童殿が入ってもか?」

「ちびっこには学年の差があるからね、ちょうどいいハンデよ」

「雨竜の上半身すらまともに見れない女が強がるな」

「うっ……!」


痛いところを容赦なくつくと、小さく呻く真宵。男を挑発する才能はピカイチなのに、筋肉にひれ伏すギャップがすごい。


「全く、なんでそんなにネガティブに考えるんだか。姉君のことを考えたら1択なんだが」

「お姉ちゃんのこと?」

「『金髪の生徒会役員』ってアウトロー突っ走ってるだろ、姉君だったら絶対喜ぶと思うぞ?」


真宵は虚をつかれたような表情を浮かべた。マイナス思考が先行して、こんな簡単なことに気付かなかったらしい。


「雨竜のことは置いといて、真っ当に頑張ってみようぜ。それで生徒も先生も黙らせたら、姉君にちょうどいい土産話になるだろ」


生徒会役員は蘭童殿と真宵の出来レースのつもりだったが、真宵にそんな背景があるなら素直に頑張ってほしい。案外そういう一面が雨竜の気を引くかもしれないしな。


「……」


真宵はスカートの裾を掴みながら下を向く。焚き付けたつもりだったがもう一歩足りなかっただろうか。


垂れた髪を避けながら表情を窺おうと首を下げると、


「いった!」


バチンという音ともに背中に痛みが走った。


いつのまにか真宵は顔を上げていて、少し上気した面持ちで僕の首元を掴む。


「生徒会なんてやる気なかったんだから、あんたがちゃんとフォローしなさいよ」

「まあ最初のうちは雨竜にも言われて……」

「最初だけじゃない! あたしが困ったらあんたは秒で助けに来んの! 自分だけ蚊帳の外とかあり得ないから!」

「あのな、僕が手伝い過ぎたらそれこそ意味が」

「あーあ、ボイスレコーダー再生したい気分だなぁ」

「……そこまでやるか」


真宵が言ったボイスレコーダーには、僕の情けない謝罪の言葉が入っている。僕が従わなかったらこれを流そうということか。今までこれで脅されたことはなかったが、まさかここで使われるとは。


「……お前、天国行けると思うなよ?」

「上等ね、閻魔大王にスマッシュぶち込んでやるから」


僕の降参を感じ取ったのか、真宵は楽しそうに自分らしさを発揮していた。



こうしてまた僕は奴隷生活か、いつになったら人間に戻れるのやら。

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― 新着の感想 ―
こーれは間違いなく人たらしですわ いいぞもっとやれ
また1人沼ったか、、笑
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