4話 生徒会役員決め
「ほら、青八木君忙しそうじゃない。あなたが手伝いなさい」
雨竜の世迷言を間に受けた出雲の矛先が再度僕に向けられる。こんなの恋愛フィルターとかの領域を超えてますやん。青八木キングダム建国後のこの洗脳能力、陽嶺高校は暴君の手によって没落の一途を辿ってしまうかもしれない。可哀想な今後の新入生達。
「あのな出雲、僕だってやる事が山積みで忙しいんだ。去年みたいな立ち回りをする気はないぞ」
出雲の洗脳を解くべく、僕も自分の主張をさせてもらう。今年の僕には学園祭準備に割くリソースはないのだ。
「何よやる事って?」
「自己研鑽、恋愛、いろいろさまざまだ」
「れ、恋愛って」
包み隠さず告げると、出雲は照れ臭そうにたじろいだ。おっ、これは押せばイケるやつか。
僕は出雲の手を握り、ギリギリまで目線を接近させた。
「頼む出雲、僕はこの時期が非常に大事なんだ。アドバイスくらいならするから見逃してくれ」
「分かった! 分かったから少しは距離考えなさい!」
出雲は紅潮させた顔を逸らしながら、どこか投げやりに言い放つ。どうやら僕の必死のお願いが功を奏したらしい。なんだかんだ義理堅い友人である。
「……まったく、朝からとんだ流れ弾じゃない」
頬の熱を冷ますように手で扇ぎながら愚痴を言う出雲。僕を暇人扱いした報いだと思うが、それを口にして状況が良くなるわけはないのでお口にチャック。良い男はさりげなく空気を読むものだ。
まあ出雲さん、今回の件も踏まえて君にはちょっとしたお礼を考えているから機嫌を直してくれたまえ。世の中ギブアンドテイクといこうじゃないか。
「お前あざといなあ」
雨竜から何か言われたような気がするが当然無視。僕の『誠意』にいちゃもんつけないでもらいたいね。
ー※ー
昼休みに念願のミラーボールを救出できた僕だが、雨竜に絡まれあまり弄ることができなかった。恋バナのような会話をさせられ時間の浪費をしてしまったのだ。貴重な昼休みが潰れてしまったのはいただけないが、生徒会室の鍵についてはサラッと流れたので良しとしよう。悪いのは全て藤宮先輩です。
「よし。それなら内容はこれから詰めていきましょう」
そして時刻は放課後。出雲指揮の元、クラス出し物は『展示』をベースに据えることとなった。
一見地味で面白みもなく感じるが、出雲が理論立てて説明した上でこの結論へ到っている。
最初に出雲は、部活動や有志の出し物を優先したい人がいるか確認を取った。その結果、クラスの半数近くが手を上げたため、準備も運営も大変な接客系は除外したのだ。
クラス出し物を重視できる面々に展示資料の作成をやってもらい、当日の説明等は部活や有志組をシフトに充てる形である。自分たちの出し物のパンチは低いかもしれないが、学園祭を楽しみやすいやり方の1つではある。自分たちの出し物に集中してたら、他クラスや部活動の出し物も回れないしな。
それに展示資料の作成がつまらないと決まったわけでもない。ここの工夫は出雲も考えているようで、僕も可能な範囲でフォローに入ろうと思う。せっかく予算がもらえるんだし、運営に支障がない範囲で何か考えるのが良さそうだ。
「おい雨竜、面貸せ」
クラス出し物の準備については今日の話し合いが終わったので、僕は雨竜に声を掛けた。
「生徒会室でいいか?」
「ああ」
雨竜も察しているようで、断ることなく一緒に生徒会室へと向かう。昼休みといい、雨竜に追い出されないうちは今後の拠点の1つになるかもしれない。
「で、お前の話は生徒会役員についてってことでいいのか?」
生徒会室に着く前に、雨竜がそう切り出してきた。不用心だが、秘匿にしたい話でもないし返すことにした。
「それだけじゃないが主題はそうだな。お前の推薦人として働いたんだ、メンバーは僕に決めさせろ」
「あのな、これから一緒にやっていく役員を他人に委ねるっておかしいだろ」
「お前以外ならな。誰と組もうがお前は結果を出す、だったら役員の素質なんて二の次でいいんだよ」
そこまで話したところで生徒会室に到着。雨竜は鍵を開けて中に入ると、軽く溜息をついた。
「条件が2つある」
「何だよ」
「1つ目は、役員が慣れるまでお前がフォローに入ること。お前の人選なんだから責任を持て」
成る程、絶妙に嫌なところを突いてきやがる。面倒事には僕を絡ませようとする雨竜らしい条件だ。
とはいえ、生徒会活動のフォローはともかく、最初から茶々は入れるつもりだった。この場所を拠点にできる理由にもなるし、僕にとっては悪くない話だ。
「2つ目は?」
「お前に選ばせるのは書記と会計の枠だけだ。副会長は俺が決める」
「何?」
予想外の条件が飛んできて、僕は少しばかり狼狽えた。
僕としては雨竜大好きメンバーで生徒会役員を構成し、サクッと距離を縮めさせる方針だった。ここを通せないとなると、選ぶメンバーに優先順位をつけなければいけない。
「誰を推薦する気だ?」
「楠木さんだ。彼女は去年の生徒会に所属しているし、今後の為にも役員にいてほしいんだよ」
「……成る程」
楠木さんこと楠木伊緒は、前生徒会の書記を務めた女生徒だ。あの個性的な面々がどういう活動をしてきたかは記録だけでは追いづらいだろうし、本人にやる気があれば適役だろう。
「分かった。楠木伊緒が断ったら僕の人選でいいか?」
「そうなったらな」
「オッケー、交渉成立だ」
とりあえず生徒会役員の枠はもらえたが、雨竜が本気で依頼するなら断られることはないだろう。そもそも楠木伊緒自身、押しに弱そうだし。
となれば2枠、こうなったら蘭童殿と真宵に話を持っていくしかないだろう。どちらかだけに偏る選択肢は僕にはない。
できれば美晴を捩じ込みたかったのだが、枠を絞られたのではしょうがない。彼女には後で謝罪をしておこう。
ちなみに出雲は勉強優先で選択肢から外している。彼女はクラスも一緒だし他の面々と違って絡む機会も多いしな、ここについては目を瞑ってもらおう。
「それで他は?」
「他?」
「主題以外の話だよ、まだあるんだろ?」
「ああ」
雨竜から話を振られ、僕は生徒会イベントを藤宮先輩に託した旨を伝えた。「何を勝手に」と呆れられたが、目的を伝えたらあっさり顔色が変わった。
「それ、本当に雪矢から提案したのか?」
「そうだよ。何か不服か?」
そう返すと、雨竜は圧のある不気味な笑みを浮かべた。
「……なわけあるか。こちとら体育祭の借りがあるんだ、早速リベンジできそうで何よりだ」
背景に炎が見えてきそうなほど、雨竜は燃えていた。
気持ちは分かったけど程々にね、君の全力を受け止められる人間なんて基本いないと思ってね。ちゃんと分かってる?




