2話 激熱な相談
「廣瀬君さ、お姉さんからかって楽しい? 楽しいんだよね、じゃなきゃこんな意地悪しないよね。あんな長セリフ吐かせた後に一言で終わらせたりしないよね」
藤宮先輩はボソボソと嫌味ったらしく僕を責めるが、どう考えても暴走した本人の自業自得である。しいて言うなら『物』でパッと思い付くものはないと言ったくらいだが、そこから物以外を連想して妄想を語ると誰が想像できたというのだろうか。よって僕は無罪放免、全ての言い分はスルーさせてもらう。
「まあいいや。あげて落とされて地面とごっつんこは生徒会で慣れてるし」
そう言っていつもの口調に戻る藤宮先輩。生徒会役員希望者が聞いたら無言で取りやめそうな発言は控えた方がいいのでは。
「じゃあホントに欲しいものはないのね?」
「まあ急に聞かれましたからね。そこまで言うなら提案してくださいよ、渡せそうなものはあるんですか?」
「うーん、私たちが廣瀬君にあげられそうなもの……」
あまりに食い下がるので逆にバトンを渡すと、藤宮先輩は腕を組みながら首を傾げる。ほら、いきなり振られても困るでしょ。仮にほしいものやあげられるものがあったとしても、パッと思いつかないのが人間なのです。
「それじゃあミラーボールいる? 生徒会室にあるんだけど」
「ミラーボール、ミュージカルのときに使ってたやつですか?」
「そうそう。あたしたちもう使わないしさ!」
先輩の提案に心が躍る僕。要らないものを押し付けられるのは困るが、ミラーボールなら全然アリだ。むしろアリである。
「これ生徒会室の鍵ね、好きに持ってって!」
そう言うと、藤宮先輩は懐にしまっていたらしい生徒会室の鍵を僕に渡してきた。
「えっ、いいんですかこれ?」
「私はもう使わないしね、廣瀬君にあげる」
「いやいや、学校で保管してるものですよね?」
「いやだなぁ、私の城なんだから私の管轄に決まってるじゃん!」
サラッと笑顔で恐ろしいことを宣ってるんだけどこの人。他の生徒会役員はどうしてこの人を野放しにしてしまったのか、地面と仲良くさせるだけが仕事じゃないですよ。
「って、じゃあこれ雨竜に渡さなきゃいけないやつでは?」
僕は生徒会役員ではないし、このまま持っていたんじゃ当人たちが出入りできなくなる。僕に渡せば雨竜に届けられると思ったのならそのように動くのだが。
「大丈夫大丈夫。これ私が作った合鍵でオリジナルは学校で保管してるから」
にこやかに犯罪まがいのことを仰る藤宮先輩に汗が止まらなくなる。もしかして、これ持ってたら僕もいろいろ疑われるのでは?
というかですね、この事を公にしたら先輩の推薦なくなるんじゃないだろうか。僕が生粋の善人であったことに感謝してもらいたい。
朝から無茶苦茶な先輩の無茶苦茶な振る舞いに四苦八苦させられるが、ミラーボールに免じて大目に見ることにした。
それに、先輩には実は頼みたいことがあった。
「藤宮先輩、1ついいですか?」
ミラーボールのやり取りを終えてそのまま別れるタイミングで僕は切り出した。
「ん? どうかした?」
「学園祭絡みで先輩に頼みたいことがありまして」
「ちょっとちょっと? ミラーボールあげるって決めてからがっつくなんてズルいんじゃない? しかも学園祭絡み、元生徒会長の授業料は安くないよ〜?」
藤宮先輩はあまり前向きではない感じで人差し指と親指で円を作る。学園祭という単語で釣れるかと思ったが、まさか経験値の方に重きを置いてきたか。意外と交渉なんかは得意なのかもしれない。
「でも先輩暇ですよね、受験勉強もしなくていいわけですし」
「そうなんだよね。だから話の内容次第では聞いてあげなくもないけど、問答無用で手伝うことはないって話。青八木君じゃなくて私を頼ったってことは生徒会イベント絡みなんでしょうけど、新生徒会初の大仕事であんまり口出ししたくないしね」
成程、新生徒会の結束を優先したいから積極的に手は貸さないってことか。相変わらず、勢いだけじゃないところが垣間見えてズルい人だ。
ただ先輩、どうして僕が頼みたいことがありながら『先輩何かくれるイベント』をあっさり消化したか理解していないようですね。
「先輩、1つ勘違いしてるようなのでお伝えしますけど、僕が雨竜を頼らなかった理由は別にあります」
「えっ、そうなの?」
「はい。正確に言うなら、雨竜には頼れない依頼なので先輩に頼んでるんです」
そう前置きして、僕は自分の頼み事を口にした。
「廣瀬雪矢と青八木雨竜が戦える学園祭イベントを考えてくれませんか?」
これは、自分をレベルアップさせると決心したときから考えていたことだった。
勉強を頑張ってテストの結果でレベルアップを感じるのも悪くないが、地道な道だけじゃ時間がかかり過ぎる。
こちらのレベルが低かろうと、最強クラスを狩って大金星を得るのこそ、自分の成長には必要なことだった。
例えそれが、普段敵うと思っていない相手との戦いであっても。
「……何それ、激アツじゃん……!」
藤宮先輩は、先程までの塩対応が嘘のように瞳を輝かせていた。生徒会選挙でも僕と雨竜の戦いを望んでいた人だ、この頼みを無碍にできないのは最初から分かっていた。だからミラーボールを遠慮なくいただいた次第である。
「うわー、どうしよ。アイデアはあるにはあるけど、どれが1番ハマりそうかなー」
「一応言っときますけど、勉強や運動が直接絡むのは無しですよ? 流石に勝てっこないので」
「分かってるってば。こんな面白いこと、くだらないところで台無しにしたくないしね」
どうやらスイッチを切り替えてくれたようで、ぶつぶつとイベント内容を整理始める藤宮先輩。普段の様子からは考えづらいくらい集中している。今までの実績を考えれば何かしら形にしてくれるだろう、そこは信用して良さそうだ。
後は雨竜にこの事を伝えなければいけない。生徒会役員でもないのにイベントについて出しゃばったからな、藤宮先輩と連携してもらうようにしなくては。
さて、僕は一体何で雨竜と競うことになるやら。惨敗だけは避けたいところだが。




