46話 好きなタイプ(後編)
「2人ともいつも通りだね」
「そうなんだ。私、あんまり2人のやり取り見たことないから」
「たまによく分からないところでデットヒートしてるけど、まあいつも通りかしら」
「まだ分かんないわよ。青八木はスマホ繋がってるの分かってるわけだし、言葉選んでるだけかも」
「そうそう、油断は大敵だよ!」
「あなたたちねぇ……」
雪矢と雨竜のやり取りを聞いても、疑いの目を向けたままの真宵と晴華に呆れる出雲。やっていることが少なからず悪質なこともあり、そろそろやめるべきだと感じていた。
「だったら聞きたいんだけど、晴華と美晴。あなたたちお互いどう思ってるわけ?」
「何言ってんのズーちん、大好きに決まってるじゃん!」
「私も同じだよ」
「だったらお互い付き合いたいって思う?」
「えっ、ええ!? ミハちゃんを独り占めにしちゃっていいの!? それって独占禁止法に触れちゃうんじゃ……?」
「晴華ちゃんを応援するか否か、判断に困っちゃうね」
「……」
「御園はこの返答でどうあたしを説き伏せるつもりなわけ?」
出雲は2人の予想外な返答に固ってしまう。
『お互いは好き→でも付き合いたいとかではない→雪矢雨竜も一緒』という流れに持っていきたかったのに、お互いの満更でもない反応に計画が崩れ去った。
「あわ、あわわわ!」
朱里が顔を赤らめながら慌ててしまうのも無理はないだろう、陽嶺高校を誇る二大巨頭がわざとらしく明言を避けて意味深に思い合っているのだから。雪矢や雨竜と違いツッコミが不在なのもタチが悪い。
『だからいらねえんだよそのどこで使うか分からん雑学は!』
『お前から聞いといてそりゃねえだろ!』
『誰がミラーボールの発祥について聞いたんだよ!? てかなんで知ってんだよ!?』
『ストーリーとして記憶した方が頭に残りやすいだろうが!』
『そんな記憶生涯残しておくつもりねえよ!』
『お前ディスコを馬鹿にしてんじゃねえよ!』
『お前ディスコ行ったことねえだろ!?』
2人の会話のボリュームが上がり、再度スマホに集中する一同。途中のやり取りが抜けてしまっていたが、まともな会話をしていないことだけは理解できた。出雲風にいうなら、よく分からないデットヒートである。
『ったく、無駄に疲れた。そもそもなんで着いてきたんだよ』
どうやら一息ついたようで、雪矢が愚痴混じりに呟く。彼からすれば、雨竜が自分に着いてきた理由が分かっていなかった。
『ああ、お前の好きな女子のタイプを知りたくてな』
ど真ん中ストレートだった。特に順序立てて話すでもなく、真っ向から質疑をぶつける雨竜。
『なんだそれ?』
『いやいや、見た目とか性格とか、こういう女子に好感が持てる、みたいなのがあるだろ?』
『あのな、頭の固いお前のために教えてやるが、好ましい点を全て持ち合わせるからといってその人間を気にいるかどうかは別の話だ。こういった見た目の人間にこういった性格があるとか、ある性格の中に一部別の性格が見え隠れするとか、そういった対比の中に好感を見出すのであって、前提として語れるようなものじゃないんだよ』
『今の話だって前提はあるだろ』
『あったとしても意味なんてない。仮に僕が『活発な子』と『物静かな子』が好きだと言ったら、どっちなんだよってなるだろ?』
『まあそうだな』
『でも、『派手な見た目だけど物静かな子』とか『親しくなると活発になる子』って条件付すると納得できるようになる。しかし『派手な見た目な子』が好みというわけではない。こうなればシンプルに好みを定義する意味なんてなくなる、というのが僕の持論だ』
『条件付けしたタイプが好きってことじゃないのか?』
『そこまで突き詰めたらある程度特定の人間になるだろ、広義的な好みとは言えない』
『成る程』
『まあ絶対外せない条件なんかがあるならそれを定義としてもいいが、今言ったようにそれは好みというより条件に過ぎない。だから僕に話せることはない』
好きなタイプを聞いていたはずだが、唐突に雪矢から哲学染みた説明が入り、5人の乙女たちは混乱した。
『ざっくり要約すると、『みんな違ってみんな良い』ってことでいいか?』
『ホントにざっくりしやがったな、まあそれでいいが』
「見た目や性格の掛け算によって好みなんてたくさんあるから定義づけできないってことかな?」
「恋バナというよりは授業みたいな話ね」
チーム秀才が雪矢の話を整理する。好みの話からかけ離れているが、興味深い話ではあった。
『もう一声欲しいな』
『はあ?』
『お前の好きなタイプ、捻り出せ』
『……僕の話を聞いてなかったのか?』
一度落ち着いた話を掘り起こして、雪矢に怪訝な目を向けられる雨竜。
『話は聞いたが、梅雨に持っていける情報じゃない。こじつけでもいいから何かくれ』
『なあ雨竜、梅雨が絡むとアホになる癖直した方がいいぞ?』
『こじつけでもいいから何かくれ』
『手遅れだったか』
もはやNPCと化してしまった雨竜に腕を組みながら唸る雪矢。長々と持論を語ったにも関わらず、それらを0にされるとは思っていなかった。
「なんだかんだ付き合い良いんだよねユッキー」
「最近は牙も取れたし余計にね」
難航しながらも本題に入ろうとしている2人をスマホ越しに見守っていると、『ああ』と雪矢は何か閃いたようだった。
『思い付いた。ある程度答えられそうだ』
『よし、なら早速いくか。最初は無難に性格でどうだ?』
『そうだな、無愛想じゃない方がいいな。後無口じゃない方がいい。さらに言うなら非常識じゃない方が助かる』
『おお、結構出てくるな』
あれだけ言い渋っていたのが嘘のように、雪矢の口からは好みのタイプが出てきた。
「あたしって常識あるかな!?」
「「ないわね」」
「ぐはっ!?」
急に本題に入って女性陣も少なからず沸き立つ。容赦ないツッコミに1人沈んでいるが。
『一応見た目もいっとくか?』
『背は小さすぎない方がいい、髪は短すぎない方がいい、眼は大きすぎない方がいい、胸も大きすぎない方がいい』
「胸は大きすぎない方がいい……!?」
「……私の武器とは……?」
文章読み上げるかのごとく淡々と話す雪矢。それとは対照的に、痛恨の一撃をもらう2名。変えようのない自分の一部が好みでないと言われ、ショックが大きすぎたようだ。
『ちょっと待て雪矢』
澱みなく話す雪矢を制止させる雨竜。先程からの雪矢の物言いに引っ掛かりを覚えた。
『何だよ』
『お前の返答、なんで全部否定系なんだ?』
『ああ』
好みのタイプというからには前向きな答えを想定していたが、雪矢の返答は全て『〇〇ない方がいい』で統一されている。
その違和感を指摘すると、雪矢は特に感情を込めずに言った。
『嫌いな人間の見た目や性格を否定してただけだからな。マイナス×マイナス=プラス、一般常識だろ』
『……成る程』
名案だろと言わんばかりの雪矢の表情に、女性陣含めて何も言えなくなる。スムーズに言葉が出てくる理由がこれであるなら、そこまで間に受けなくて良いのかもしれない。
「参考にする必要は無さそうだね」
「よかったよぉミハちゃん!」
不安が取り除かれ、安堵したように美晴に抱きつく晴華。数秒の事とはいえ、好きな相手に否定をされて生きた心地はしなかったのである。
『おい雨竜、なんだその目は? 頑張って捻り出した僕を讃えるべきじゃないのか?』
『結局何の成果もないからな』
『だったらお前は言えるのかよ、さっきから人に聞くだけ聞いといて』
「おっ、きた!」
お花畑を作る2人は置いておいて、真宵は少し身を乗り出した。
ついにきた青八木雨竜のターンにワクワクを隠せない彼女だったが、
『そうだな。スマホで盗み聞きするような子は好みではないな』
『はあ? 何言ってんだお前?』
狙い撃ったかのような鋭い言葉が襲い掛かり、真宵は同じ姿勢のまま石化した。青八木雨竜、あまりに非情な男であった。
『てかほとんど昼休みないじゃねえか! 僕の可愛いミラーボールに謝れ!』
『お前はディスコに謝れ!』
『なんでディスコ擦ってくるんだよ!? てか急いで購買行くぞ!』
『へいへい』
それと同時に雨竜からの通話が切れる。
ある者は甘え、ある者は慰め、ある者は固まり、ある者は自分の胸を触る。そんな光景を見て、ある者は大きく溜息をつく。
「……何なのこれ?」
結局、当初の目的は何一つ達成されない昼休みの一幕であった。
これにて番外編含め、5章終了になります。
次回簡単なキャラ紹介を入れてから、6章に入ります。
ここまで読んでくださったみなさんありがとうございます、引き続きご贔屓のほどよろしくお願いします。




