45話 好きなタイプ(前編)
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「やあやあウルルン君、ちょっとお面を貸していただけないかい?」
登校してきた青八木雨竜は、校門前で腕を組みながら口角を上げる神代晴華に遭遇した。
「あっ、人違いです」
「えっ、ちょっ!?」
一瞬で嫌な予感を覚えた雨竜。軽く会釈してスルーしようかと思ったが、すぐさま回り込まれてしまった。
「間違ってないよ! なんで無視するの!?」
「いやあ、ウルルンって単語に馴染みがなくてですねえ。別人ではないですか?」
「またまたご冗談を〜、いつもそう呼んでるのに馴染みがないわけないじゃん!」
だからそれをやめてくれと言いかけたが、このお嬢さんが直してくれたことは一度もない。
雨竜はわざとらしく溜息をついてから観念して晴華の横に並んで歩く。
「ウルルンじゃないけど、朝から何の用?」
「ゴメンねー待ち伏せしちゃって。実はウルルンにお願いがあってさ」
「ウルルンじゃないけど、お願い?」
「そそ、ユッキーに好きな女の子のタイプを聞いてくれないかな?」
「ああ、そういう系か」
朝一番から待機していた晴華に警戒していたが、思ったより普通の相談で雨竜は少し安堵した。
「あたしが直接聞いてもいいんだけど、男子同士の方が本音が出るかと思って」
「成る程。ただ、俺が聞いても素直に話すか分からないよ?」
「大丈夫、聞けたらラッキーくらいに思ってるから」
「了解。俺も気になるしちょっとやってみるか」
「ホント!? ありがとうウルルン!」
「ウルルンじゃないが」
第一関門を突破し、テンションが上がる晴華。ただしこれで終わってはいけない。後日談となれば雨竜本人の情報が聞き取れないため、聞き取り方法をレクチャーする必要がある。
「じゃあ早速今日の昼休みお願いね!」
「おお、めっちゃ急だな」
「それともう一個お願いがあって。ユッキーに質問するとき、スマホであたしと繋げてもらっていい?」
「それはまたハードルが高いね。後で結果報告じゃダメなの?」
「ユッキーのリアルタイムの反応が見たいからさ、大変なのは分かってるけどこの通り!」
申し訳なさげに両手を合わせる晴華。
彼女が嘘をついているとは思わないが、雨竜は妙なきな臭さを感じてしまう。
「一応聞いとくんだけど、これって神代さん1人で聞くんだよね? スピーカーでみんなに共有するわけじゃないよね?」
「なな何を仰いますやらウルルン君は! そんなわけちゃいますって!」
「……」
淀みなく話していた晴華が分かりやすく狼狽えたため、雨竜の頭の中では電話越しの光景が鮮明に浮かんでしまっていた。
「ウルルンじゃないけど、まあいいか」
「さっすがウルルン! ウルルンならそう言ってくれると思ってたよ!」
「ウルルンじゃないが」
第二関門を突破し、晴華は雨竜の手を上下に振ってはしゃぎ回る。スマホの件を突っ込まれた時は流石に焦ってしまったが、雨竜が追撃してこなかったため命拾いできた。
対照的に雨竜は面倒事に巻き込まれて少し辟易としていたが、それ以上の好奇心によって昼休みが楽しみになっていた。
果たして、廣瀬雪矢という人間に好みのタイプが存在するのか。少なくとも雨竜にはまともな返答が想像できないでいた。
ー※ー
『着いてくるなと言われました』
「粘ってよ!? いつもそうしてるんだから食らいついて!?」
『……成る程』
空き教室で昼食を広げていた晴華は、雨竜の敗北宣言に芸人よろしく倒れそうになった。確かに雪矢の都合は聞いていなかったが、いくら何でもあっさり引き下がり過ぎである。
「ウルルンってば、最近あたしの扱い酷くなってないかなぁ」
電話を切ってぶつくさ呟く晴華だったが、(いつも通りでは……?)と周りの3人が思っているとは夢にも思わないだろう。
「心配無用よ神代、あんた昔から酷い扱いだから」
「何にも解消されてないんだけど!?」
残念ながら思っているだけで留まれなかったもう1人の存在により、晴華は現実を知るのだった。
「もういい、こうなったらやけ食いだ!」
晴華は購買で買ってきたらしい惣菜パンの袋を開けて、勢いよくかぶりついた。山のように盛られている袋に圧倒される4人だが、あえて誰も触れないでいた。
そのタイミングで、雨竜から晴華へ着信が入る。「きはー!」と頬を膨らませながら喋る晴華はすぐさま応答し、ミュートにしてからスピーカーにする。
スマホを机の中心に置くと、5人は机を取り囲むように座った。
『……僕は着いてくるなと言ったはずだが?』
『たまたまお前の後ろを歩いていたら目的地が一緒だったんだ』
『その理由で納得する馬鹿がいたらぜひお会いしたいもんだな』
早速2人の会話が耳に入ってくる。雪矢の声が少し遠いが、周りが静かなため聞き取るのに不自由はなかった。同じくどこかの空き教室で集ってるようだ。
『てかなんで生徒会室? そもそも鍵はどこから手に入れたんだよ』
『前生徒会長に言ったら普通にくれたが』
『何やってんだあの人』
『分かる。頼んだ僕が言うのもなんだが、あの人ヤバいな』
どんなところでもまともな扱いをされない藤宮姫子の存在に口角が上がる一同。ふと目を閉じれば、綺麗な笑みで空に浮かんでいる姿を想像できてしまう。
『その鍵は没収だ』
『別にいい。今日の目的さえ達成できればこの場所に用はない』
『そういやここに来た理由を聞いてなかったな』
『なんでそんなこと教えにゃならんのだ、何でも素直に答えると思うなよ若造が』
『いや若造、答える前に正解出てきてるぞ。それ、ミラーボールか?』
『ミュージカルやってた時に使ってたやつだ。選挙のスピーチ面白かったからあげるって』
『学校の備品ぇ……』
「ミラーボール?」
「ミュージカル?」
会話を聞いているだけでは状況が理解できない5人。どう学校生活を送ったらミラーボールとミュージカルに交わる生活を送れるのだろうか。
『というわけで僕はこのキラキラした球体に夢中なんだ。お前の相手などしている余裕はない』
『それでも会話くらいはできるだろ、作業しながらでいいから聞け』
『雨竜、ミラーボールって分解しても動くかな?』
『お前が話しかけるんかい』
「「ぶふっ!」」
雪矢と雨竜の会話に吹き出す晴華と出雲。終始行われる漫才のようなやり取りにとうとう耐えられなくなってしまった。
「いつ本題に入るのよ……」
呆れたような真宵のツッコミは、晴華と出雲の口角を再度刺激するのであった。
すみません、アホな会話続けてたら話が伸びたので前編と後編に分けます。




