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モテすぎる悪友が鬱陶しいので、彼女を作らせて黙らせたい  作者: 梨本 和広
5章 生徒会選挙と己が過去

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36話 したいこと

そこから少しだけ、僕は自分の過去について話をした。


中学1年生の初めは、普通の友人関係を築いていたこと。男女分け隔てなく、それなりに友人がいたこと。


そこから、クラスのリーダー格に目を付けられたこと。原因は恐らく、リーダー格が好きだった女子と仲が良かったこと。


最初は軽いイジりだったものが少しずつエスカレートしていったこと。教科書に落書きされたり黒板消しを落とされたりしたこと。


正直それほどダメージはなく、しょうもないガキのやることだと相手にしていなかったこと。それに乗じて、さらにイタズラがエスカレーターしたこと。自分の持ち物に手をかけられたせいでお金が掛かってしまい、父さんに心配させてしまうと危惧したこと。



そうした行いに少しずつストレスを溜めてきたタイミングで、標的が僕から友達に変わったこと。



筆箱を捨てられて泣いた友達を見て、堪忍袋の尾が切れたこと。二度とイタズラなんてしたくならないよう制裁を加えたこと。




ーーその一件で、友達含めた周りが僕と距離を置くようになったこと。




泣いている友人のフォローしたことを、誰からも評価されなかったこと。



その時になってようやく、自分がイジりの対象になってたとき、誰も助けてくれなかったことを思い出したこと。



友達なんて必要ないと思うようになったこと。



人との接触を徹底的に絶っていたこと。話しかけてくる人間には、罵倒と文句で距離を取ったこと。



それが中学を卒業するまで続いたこと。



「後はお前たちも知っての通りだな、ここ最近まで僕とまともにやり取りなんてできてないはずだ」



雨竜と付き合いたいと言った女子に対しては自分なりに親身になって対応していたが、それ以外の相手には塩対応しかしていない。豪林寺先輩くらいだろう、好んで僕から接していたのは。



「だからまあ、僕の対応がおかしいと思っていたとしたら、こういうバックボーンがあったんだと理解しといてくれ」



こうして僕の昔話を終えたわけだが、なかなか誰も口を開かず沈黙が流れた。



そりゃそうだ。同情するなとは言ったが、こんな良い奴らが今のエピソードを聞いて何も思わないわけがない。気の利いた言葉の一つでも投げたいのだろうが、僕に何が効くのか分からないというのが本音だろう。



周りの空気を緩めるために何か話そうかと思ったところで、




「ありがとう雪矢君、話してくれて」




いつも通りの変わらない笑顔で美晴がお礼を言った。



「なんだよありがとうって」

「隠すような話じゃないって言ってたけど、思い出したい話でもないでしょ? だからありがとう、わざわざ私たちのために話してくれて」



美晴の言うことも一理あるが、話すと決めたのは僕だし、やっぱりお礼を言われる筋合いはないと思う。それよりも、美晴が笑って良い空気を作ってくれたことに感謝したいくらいだ。



「それよりも雪矢君、既読スルーは酷くない?」

「えっ?」

「私まだ、ラインの返答もらってないんだけど」



穏やかで見分けづらい美晴の笑顔だが、少しだけ悪戯っ子成分を含んでいることに気が付く。



『雪矢君はどうしたいの?』



ここまでのやり取りを経たら、僕の答えなんて決まっている。それをわざわざこの場で追及するなんて、本当に良い性格してるよあんた。



質問の内容を知らない周りが不思議そうにしているが、僕は構わず話し出す。



「本当は、迷うことなんてなかったんだ」



口に出してみて改めて思う。コイツらが来なかったとしても、最終的な結論は1つ。



「誰に何をされようが僕のしたいことをする。それが僕で、今までもずっとそうだった。周りがどれだけ騒ぎ立てようと、僕にとっては日常の1ページに過ぎない。その程度のことだった」



中学の時からそうだった。誰に迷惑をかけようが傷つけようが知らない。人間関係が希薄であったからこそ、僕は誰よりも強く居られた。鮮やかな人間関係に塗れた世界でも、灰色でいることができた。



「でも、お前たちの顔が思い浮かんだ時、初めて自分の意見に抵抗を感じた」



いつものように真っ直ぐに進んで、当たり前の顔して進んだ先に、コイツらが着いていくことができなかったら? 僕と関わることでいろんな人から誹りを受け、前へ進む気力をなくしていたら?



「一人で歩くのと皆で歩くの、こんなにも違うって知らなかった。こんなにも重いことだなんて知らなかった」



誰が傷ついても構わないと思っていたのに、それが直近に及ぶと分かった瞬間、身体が凍った。



僕は迷った。散々迷った。



でも分かった。迷っている時点で、結論は出ていたんだ。




「僕はお前らが大切だから、僕のせいで傷ついて欲しくなかった。僕はお前らが大切だから、それでもお前らと一緒に居たかった」




過去を話すより覚悟を決めて自分の気持ちを曝け出した。結局僕は普通の人間で、仲が良い奴らと一緒に居たいだけだった。僕ってこんなに格好悪かったんだな、今更になって思うよ。



「居たかったじゃないよ! 居ようよ!」



ビックリするボリュームでそう言ったのは、その場で突如立ち上がった朱里だった。



「皆が居なくたって私は居るよ! 一生居るよ!」

「一生?」

「あっえっあ、一生……懸命いるよ!」



勢いで喋った後に我に返ったのか、口ごもった後に気合いの入った人となった朱里。彼女の気持ちを知っている出雲は一人でコントをする親友を見て笑いを堪えていた。気持ちは嬉しいのだが、出雲と同じ気持ちだった。



「へえ、廣瀬はあたしたちが大切なのね、そんな風に思ってくれるとはねえ」

「ユッキーは照れ屋さんだからねえ、本音はここにあったんだねえ」



ここぞとばかりに攻めてくる真宵と晴華。辛気くさそうにされるより100倍マシだが、これはこれで普通に鬱陶しい。しばらくネタにされるんじゃないかと思うと、本音を言ったことを後悔してしまう。今日の僕、さすがに喋り過ぎだろ。




「ふえええええええええええん!!」

「っ!!?」




震源以外の目が一瞬で見開く。



緩み出した空気を他所に、両目を覆いながら泣き出したのはあいちゃんだった。



「どうしたんだあいちゃん!? 怖い夢でも見たか!? そういうときは枕の下にネタ帳を仕込むんだ! なんでやねんって言ってる間に目が覚めるから!」

「廣瀬先輩落ち着いてください! どうしたのあいちゃん!?」

「だって、だってぇ……! 私、ホントに怖かったから……!」



手首で瞼を拭いながら、あいちゃんは震える声で言う。



「廣瀬先輩が、私たちと距離を置くかもって、青八木先輩が言ってたから……!」

「ふざけんじゃねえよ雨竜! そんな妄想よくあいちゃんに吐けたな!」

「いやいや当事者、割とそういう空気作ってただろ……」

「あいちゃんを泣かせるなんて最低です青八木先輩!」

「うお、蘭童さんに暴言吐かれるの初めてだな」



何なんだコイツ、あいちゃんを泣かせておいて反省の色がまったく見られないんだが。こういう奴を天才とか神とか崇めるから世界から犯罪が消えないんだよ、ガンジーを見習えガンジーを。



「堀本、俺って悪くないよな?」

「ううん。珍しく青八木君が悪いよ」

「嘘だろ……」



翔輝を仲間に入れようと悪知恵を働かせるが当然のように失敗する雨竜。皆さんは彼を反面教師に己の非を認められる人間になりましょう。

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― 新着の感想 ―
[一言] 当事者、割とそういう空気作ってたの草w
[一言] 本当あいちゃん癒される
[良い点] やはり美晴良き良き
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