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モテすぎる悪友が鬱陶しいので、彼女を作らせて黙らせたい  作者: 梨本 和広
1章 桐田朱里と蘭童殿

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32話 強かさ

フラれたことは名取真宵本人から聞いたわけではない。雨竜にそれとなく聞いたらぼかされたので、彼女を振ったのだと勝手に解釈しているだけだが間違ってはいないだろう。


フラれたらしい時期は分からなかったが、彼女の教室内の態度が変わっていたようには思えない。フラれたショックを引きずってもいなかったし雨竜とも挨拶程度は普通にしていた。あれで何事もなく装っているだけなら大した演技力である。


だが実際、そうではなかった。蘭童殿の話を聞いて、はらわたが煮えくりかえっている想いが存在するのだと理解した。でなければ、2回も蘭童殿に対して嫌がらせまがいのことはしないだろう。


それほどまでに蘭童殿の行動力は圧巻なのである。上級生のクラスに入るのは勇気がいることだし、同じ部活に入って応援するなんて他の人間にはなかなか真似できないことだ。雨竜を狙っている人間からすれば気が気ではないだろう。


そしてその行動が、生意気だと捉えられてもおかしくない。歪んだ人間の歪んだ解釈によって。


「――――大丈夫ですよ私は」


しかしながら彼女は挫けない。胸に手を当て芯の通った眼差しで僕を見る。


「青八木先輩の評判を聞いたときから、なんとなくこういうことは想定していました。名取先輩が青八木先輩を好きというなら余計に負けられません、私は私の意志を通したいと思います」

「……さすがですね」

「だいたいそれどころではないんですよ、青八木先輩の恋人になるのに手一杯なんですから」

「そりゃそうだ」


さすがは僕の尊敬すべき蘭童空である。どんな障害があろうとも、前を向くことを決して忘れない。彼女であれば、本当に雨竜の心を掴むことができるかもしれない。


ならば僕も、全力で蘭童殿をサポートしよう。彼女が不要だと言うなら陰で支えることにする。彼女がみなぎらせているエネルギーを全て放出できるように――――――



キーンコーンカーンコーン。



その音を聞いた3人は、決め顔をしたまま停止していた。8分前に食堂を出てギリギリ教室には戻れる計算。そう、それは勿論、廊下で話し込みさえしなければである。


「急げ2人とも!」

「「はい!」」


僕と2人の後輩は、急いで階段を駆け上がった。廊下を走るべからずと校則にあったら、ここは階段です廊下ではありませんと反論するほどに全力である。


「あいちゃんのせいだぞ、あそこで僕を引き留めなければ!」

「そうそう、何てことしてくれたのあいちゃん!」

「ええ!? 大切な話でしたよね!?」

「いかんぞ蘭童殿、あいちゃんに反省の色が見られない!」

「ごめんなさい! 後でしっかり言い聞かせときます!」

「私が悪いの!? 私が!?」


がむしゃらに目的地に向かう3人。とにかく今は各々の教室に向かって走り続ける。

だが僕は気付いてしまった。先程まで話していたのは1年と2年が分かれる階段前、それなのに3人が同じ方向に進み続けている。


「あれ、先輩ってこっちでしたっけ!?」

「間違えちゃった!」

「間違えちゃいましたか! ご愁傷さまでーす!」


どうして上る必要のない階段を進んでしまったのか、勢いって怖いね。

何だか急ぐのを馬鹿らしく思えてきた僕は、Uターンしてゆっくりと階段を下りることにした。

ふん、時間など気にする必要はない。遅刻なんて些細な問題さ、僕の巧みな会話術で先生をも掌握してみせる。

そんなことを思いながら、僕は堂々と10分遅れで教室に入った。


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