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モテすぎる悪友が鬱陶しいので、彼女を作らせて黙らせたい  作者: 梨本 和広
3.5章 僕と夏休み

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44話 夏休み、青八木家6

「今回も正々堂々、晴れやかな対戦をしていくわよ」

「正々堂々?」


ちょっと何を言ってるか分からないので、繰り返し唱えてみることにした。妹に直接攻撃させることが正々堂々というなら間違っていないのかもしれない。


「何よ。今回はチーム戦じゃなくてバトルロイヤルなんだから問題ないでしょ?」

「あれ、兄弟の絆はいいんですか?」

「ユキ君ったら分かってないわね、チームを組まずとも連携できるのが絆っていうものよ」

「梅雨から残機を奪われたくないだけですよね?」

「そうなのお姉ちゃん?」

「…………そんなことないわ」


いや、分かりやすい間があったんですが。残機を譲りたくないって時点で絆もあったもんじゃない気がする。


まあいいや、チーム戦じゃなくなっただけで難易度は一気に下がる。どういう風に攻めてくるか知らないが、正直前よりは楽だろうな。


「ちなみにユキ君の使用キャラは風船だからね、ピンクじゃない方の」


そんな油断をしていたら、戦う前に対策された。まさかのキャラクター縛りである。


「ちょっと待ってください、僕は恐竜以外大して使用したことないんですよ?」


バトファミを初めてずっと、僕は赤の恐竜を愛しそれを持ちキャラとして戦ってきた。他のキャラは、母さんと戦う際にどういう動きができるか確認するためにしか使っていない。流石に堂々と勝利宣言できる余裕はないのだが、


「へえ。バトルロイヤルなのに持ちキャラじゃないから戦えない? まあ別にいいけど? ただ恐竜を使わないユキ君はこの中じゃ最下位ってことになるわね、悲しいけれどしょうがないわ」


カッチーンきた。稚拙な挑発と理解していながら、僕の口は反射的に動いてしまった。


「そこまで言うならいいでしょう! 風船でもなんでもやってやるわ!」

「さすがユキ君、そう言ってくれると思ってたわ」


晴れやかに微笑む氷雨さんを見て、ようやくハメられたことを認識する。くそ、なんでバトルロイヤルなのかと思ったが、僕を退路を塞ぐためだったんだな。


「ふふ、赤の悪魔を使わないユキ君なんて金棒を持ってない鬼みたいなものよ」


あれ、思ったより悪くない評価だな。鬼って強いイメージあるし。


「今日こそは鬼の首を刈るとき! やるわよ青八木ブラザーズ!」

「「おお!」」


楽しそうな掛け声とともに右腕を上げる青八木ブラザーズ。楽しそうで何よりだが、勝利を譲ってやる気はないぞ。こんな状況だろうと、負けたら絶対煽ってくるからな。そこまで楽しい思いはさせてなるものか。


僕は風船キャラに赤いリボンをつけて選択。青八木ブラザーズも各々得意キャラを選んで完了、戦いが始まった。


ステージはゴリラキャラのジャングル。あまり広くはないが、落下救済用のタルがあるなどそこまで悪くない場所だ。風船キャラのくせに復帰が弱いからな、まあそこまでいかせなきゃいいわけだけど。


開始と同時に梅雨が使用するネズミを強襲、スマッシュを連打し場外に出した後上からメテオを叩き込んだ。


「えっ? えっ?」


ウォーミングアップがてらにやられた梅雨は、倒された理由もよく分からないまま混乱していた。うん、思ったより動かせるな僕。


「雨竜挟むわよ!」

「了解!」

「梅雨はアイテム拾って準備しといて!」

「うん!」


氷雨さんから指示が飛ぶが、当然思い通りにはやらせない。氷雨さんと雨竜の攻撃を躱しながら、残機が1つの梅雨を狙う。左右は狭いが上下には動けるステージなので、隙を見て2人を引き離し、梅雨をリタイアさせた。


後は2人、左右から挟まれないよう基本逃げながら時折攻撃を挟み、ゲージが溜まったところで畳み掛ける。1機奪われたが、最後は余裕を持って雨竜を倒すことができた。


「雪矢さんすごい!」

「ギリギリだったけどな」


梅雨は自分の最下位などまったく気にする様子もなく手を合わせて褒めてくれる。対する氷雨さんは、状況を理解できていないかのように無言だった。


「ねえユキ君」

「なんでしょうか?」

「さっき恐竜以外は大して使ってないって言わなかった?」

「事実です。風船なんてここ半年は使ってないですし」


母さんは風船をあんまり使って来ないからな、自分で使って対策を練る必要もほとんどなかった。最近は恐竜を磨く方に注力してたし。


「ふふ、成る程。偶然ユキ君の2番手を引いてしまったというわけね」

「えっ、いや風船はむしろ慣れてな……」

「次よ。オレンジパワードスーツで来なさい」


さすがは氷雨さん。負けた原因を一切省みず、僕には要求を課す辺り、プライドというものをまるで感じない。この潔さこそ氷雨さんを氷雨さんたらしめる要因だろう、ある意味では清々しいな。


「となれば私はこれね」


僕の選択キャラを見て、キツネを選ぶ氷雨さん。得意技であるチャージショットを跳ね返してやろうという魂胆なのだろう、だったら使わずに制圧するだけだが。


「じゃあわたしはこれ!」


ネズミキャラばかり選ぶ梅雨だったが、今回は帽子を被った少年を選択。チャージショットの回復を狙いたいのかと思ったが、


「これで野球しましょう!」


という言葉でやりたいことがすぐに分かった。察した雨竜は梅雨と同じキャラを選択、ステージは剣士キャラの城になった。


「誰かが竜巻に呑まれるまで野球ね」


このステージでは、突然キャラクターを呑み込む竜巻が発生する。唐突にスピードを上げたりするので意外と面白いギミックだ。


「じゃあ雪矢さん、お願いします!」


梅雨の合図で、僕は光弾をチャージする。梅雨の後ろには氷雨さんが居て、キャッチャーのように待機している。雨竜は上空にある床で回復アクションを取っていた。うるさい。


「いくぞー」


そう言ってチャージショットを放つ。梅雨はそれに合わせて横スマッシュ、バッドを振る動作を見せたが、タイミングが合わずダメージを受けていた。上手くいけば光弾を打ち返せるので、梅雨は野球と呼んでいるのだろう。


「もう1回お願いします!」


ピッチャーというよりノッカーをやってる気分だが、再度チャージショットを梅雨に向けて放つ。今度はうまくいったようで、僕の方向へ光弾を打ち返すことができた。避けようと思えば避けられたが、せっかくのバッティングなので食らってやることにした。


「やった! やりました!」


それはもう嬉しそうに破顔する梅雨。本来の遊び方ではないが、だからこそあまり強くない梅雨でも楽しめているのだろう。恐るべきバトファミ、何度もリメイクされ続ける作品である。


「あっ」


うまくいったのでひたすら全キャラがアピール合戦をしていると、上空床にいた雨竜が突然現れた竜巻を回避できず、そのまま呑まれて吹き飛ばされた。


「いくわよ雨竜、梅雨! 今度こそ目にもの見せるから!」

「「おお!」」


先程まで仲良く野球をやってたとは思えないような切り替えの早さ。一斉に各キャラが僕に向かって駆け出してくる。不意を突かれたが、雨竜と梅雨は別に得意キャラではなかったようで、あっと言う間に倒すことができた。終盤多少氷雨さんに粘られるが、余裕の勝利。野球の楽しさは知ったが勝利の味までは知ることができなかったようだ。


「ねえユキ君、正直に言って? ホントはめっちゃ鍛えてるんでしょ? 特訓してないって言ったらカッコいいと思ってるんでしょ? そうだと言って!」


2回連続で敗北し、氷雨さんの表情から余裕が消え失せていた。縋るような視線が痛々しくなんだか見ていられない気持ちになる。



……うーん、そんなつもりはないんだけどな。

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― 新着の感想 ―
[一言] メテオ持ってる風船ってカービィか それはそれとしてこれはまさか、「あれ?僕なんかやっちゃいました?」…!!
[一言] 赤い恐竜…コンボマスター…うっ頭が
[良い点] ゲームはクソザコナメクジなのに挑んでくる氷雨さん、オモロい笑
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