22話 宣戦布告
はい? あなた方今、なんと仰いました?
雨竜の恋人が僕? 笑えないどころか寒気がする冗談なのだが。ほらほら、鳥肌立ってる。
呆然と女子ABに目を向けると、『言ってやりましたよ相棒』と言わんばかりに決め顔で親指を挙げられる。ちょっとそれ止めて、僕が命令したみたいになるだろ。
「はあ……」
そして雨竜、あからさまな溜息は止めろ。気持ちは非常に分かるが、今そんな反応したら『バレちゃったかぁ』みたいに見えるから。もっと冷静になって。状況判断して。
「成る程、そういうことでしたか……」
やだ、いつも素敵な笑みを見せてくれている蘭童殿から鋭く突き刺すような眼光が飛んでくる。
お願い納得しないで、男と男が付き合ってるっていうところに少しで良いから疑問を持って。
「おかしいと思ったんですよ。青八木先輩、すごく素敵で格好いいのに今は誰とも付き合ってないどころか、去年もそういった関係がなかったなんて」
違うんです。それはこの男が精神年齢おじいちゃんだからです。女子と会話しても孫を愛する感覚しか沸かないからです。日本の少子化が促進したら全部コイツのせいです。
「だけどようやく謎が解けました。廣瀬先輩だったんですね、青八木先輩を誑し込んだのは!」
違います違います! 誑し込んでないです! というかこの場合、誑し込まれる方も悪いと思います!
てか雨竜、何ちょっと笑ってんだよ。笑っている暇があったら僕の弁護をしろ! ひどい冤罪事件だぞこれは!
「椅子を貸したり場所を譲ったり気の良い振りをして、ホントは腹の中で私を笑ってたんですね」
しかしながら反論する間もなく悲しそうに思いの丈を語る蘭童殿。ああ、その表情が胸にじんわりしみこんで痛いです。僕はまったく悪くないのに。
「青八木先輩の選んだ人ならと身を引くことも考えましたが、どうやらそういうわけにはいかないようです」
そう言いながら蘭童殿は立ち上がり、僕と向かい合ってからその人差し指をこちらへ向けた。
「――――――こんな心の汚い人に、青八木先輩を任せるわけにはいきません」
蘭童殿は、悲しげな雰囲気を一切取り払うと、強い意志を秘めた瞳で僕を見据える。
「宣戦布告です。絶対に私が、廣瀬先輩を倒して青八木先輩を魔の手から救い出してみせます!」
物語の主人公のように決め台詞を述べると、蘭童殿は雨竜に「失礼します」と頭を下げてから教室を出て行った。
静まり返る教室。それもまた一瞬で、各自勉学や会話へと戻っていく。
そんな中、僕は分かりやすく頭を抱えてしまう。
なんで、なんでこうなるの。僕は純粋な気持ちで蘭童殿を応援したかったのに。いや、純粋かって言われるとそうでもないけど、でも雨竜と付き合って欲しいと思ったのは本当だし。
それがどうして、ライバル認定されたあげく宣戦布告されなくてはいけないのだ。このままだと僕、よく分からないまま倒されちゃうんだけど。
「くくく……! 心の汚い人……魔の手……!」
だからテメエはいつまで笑ってんだ!! 説明をしろ説明を!!




