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モテすぎる悪友が鬱陶しいので、彼女を作らせて黙らせたい  作者: 梨本 和広
3章下 期末試験と勉強合宿

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21話 雪矢のメッセージ

「あーあ、みっともないところ見せちゃった」


ひとしきり声を上げて感情を吐き出した後、御園出雲は目元を拭いながら少し照れ臭そうにする。人前でああも号泣してしまったのが恥ずかしくなったのだろう、冷静になって後からくるやつだ。


「でも、気分は晴れただろ?」

「……そうね」


僕自身、昨日父さんに気持ちを伝えてかなり楽になったばかり。憑き物でも取れたかのように開放感を覚えるのだ。御園出雲も、クラスメートたちのメッセージを受けて気持ちが晴れてくれれば良いが。


「ありがとう、こんな素敵な贈り物をくれて。なんて言ったらいいのかしら、すごく感動してる」

「礼なら雨竜に言ってくれ、アイツがみんなのメッセージを集めてくれたんだから」


御園出雲から真っ直ぐ言葉が飛んできて、思わずヒラリと躱してしまう僕。


実際、これらのメッセージは雨竜じゃなきゃ集められなかった代物だ。僕が全力で動いていても、不審に思われて前に進めなかった。御園出雲復活の立役者は間違いなく雨竜である。


「そうかもしれないけど、これを思い付いて青八木君にお願いしたのはあなたでしょ?」


しかしながら、御園出雲は話を終わらせなかった。どこか確信を持った瞳で僕を捉えて放さない。


「違う?」

「まあ、考えたのは僕だが」

「ほらやっぱり。だったらあなたにお礼を言うのも間違ってないじゃない。提案がなきゃ何も生まれないもの」

「そうは言うが、提案があっても実行する人間がいなきゃ解決しないわけで」

「実行してたのは、青八木君だけじゃないでしょ?」


そう言って彼女が指差したのは、僕の手に残る2つのボイスレコーダー。不要かと思って差し出すのを止めようかと思ったが、御園出雲は少し楽しげに質問する。


「あなた、昔っから何かにかけて保険を打とうとするからね。万が一青八木君が失敗したときのために、自分も動いてたんじゃないの?」


全く以てその通りだった。前世が探偵だったのではと疑いたくなる推理力である。確かに僕は、ほぼ100%ないと思っていたが、雨竜がダメだった時のことも考えていた。


「というわけでそのボイスレコーダー、貸して?」

「……」


満面の笑みで手を向けられて、僕は観念した。先ほどのようにボイスレコーダーを放って御園出雲へ渡す。


彼女も心当たりがあるのだろう、今度は躊躇なく再生ボタンを押した。


『出雲ちゃん、風邪って聞いて心配してます。私にできることがあったら何でも言ってね、すぐ駆けつけるから!』


最初に出てきたのは桐田朱里の心配そうな声。「やっぱり」と呟いた御園出雲は、少しニヤニヤしながらこっちを見ていた。


『ズーちん風邪なの!? 大丈夫!? 少しでもあたしの元気が届くようにパワー送り続けるね! ほーわーちょー!!』


『風邪って大変だよね、私も季節の変わり目とかでよく引いちゃうから。睡眠も大事だけど食事はちゃんと摂ること、栄養付けなきゃ回復しづらいからね。とにかくお大事に、出雲ちゃんは働き過ぎだからたまにはいいかもね』


『うーん、特に言うこと思い付かないけど、だって何言っても白々しく聞こえそうだし、うーん。とにかくあんたが元気だろうが病気だろうが校則は守らないから、叱りたきゃ早く学校に来ることね』


『えっと、合宿ではお世話になりました! その、あんまり関わりなかった私に言われてもアレかもですが、早く元気になってください! あいちゃんがしょぼんとしてますので!』

『出雲先輩! 茶道部後輩一同絶賛悲しみ中です! もっと私たちに仕事振っていいので、ご自愛お願いします!』


『御園さんが風邪って聞いて驚きました。合宿の時、僕は自分のことでいっぱいいっぱいだったので、もっとフォローができればと反省してます。ちょっと頼りないかもですが、気軽に僕を頼ってくれればと思い――えっ硬い? てか暗い? そう言われてももう録音してるし!』


最初から最後まで音声を聞かれて、僕はとてつもなく居心地が悪くなった。あくまでこれは、僕が声を掛けられそうなメンバーに依頼しただけで、今回の本筋とは何も関与していない。クラスメートが御園出雲を嫌っているわけではない、ということの証明にはならないのだ。


自分のダメっぷりが露呈し、溜息をつきそうになる。こんなことなら、雨竜を信じて任せておけば良かった。


「まったく、ここまでしてくれてるんだから素直に誇ればいいじゃない」


さっきまでの沈んだ雰囲気はどこへやら、御園出雲はからかうように声を掛けてくる。


「うるさい、お題通りの仕事ができなくて誇れるわけないだろ」

「大事なのは伝えたい相手にどう届くかじゃないかしら? 聞いてたのがこれだけだったとしても、私は元気をもらえたけどね」

「……そうかい」


当人がそう言うなら、僕のやったことも無駄ではなかったのだろう。メッセージを残してくれた連中も報われることだし、とりあえずホッとする。僕も昼ご飯食べずに走り回った甲斐があったというわけだ。


「で、あなたのメッセージは?」

「はっ?」


このまま解散で終わるのかと思いきや、唐突に御園出雲がよく分からないことを言い出した。僕のメッセージって何だ?


「いや、あなたのメッセージが録音されてなかったじゃない。直接言ってくれるのかと思ったんだけど」

「それならさっき言っただろ、謝罪と一緒に」

「謝罪なんていらないわよ、別に怒ってるわけでもないのに」

「怒ってなかったかもしれないけど悲しんでただろ、それに対する謝罪だよ」

「……あのね。あなたは私を傷つけたと思って謝りに来たのかもしれないけど、そんなこと言ったらこの1年間、少なからずずっと傷つけられてるから。今更謝られても正直どうでもいいの」

「うっ……!」


それを言われると、僕は二の句を継げなくなってしまう。1年の頃から、僕を注意しようとする御園出雲としょっちゅう口論をしてきたのだ。その中で酷いことを言った回数は少なくないだろう。そんな彼女からすれば、謝られる方が不自然なのかもしれない。


「というか謝られると調子狂うから。やめてちょうだい」

「……お前も雨竜みたいなこと言うのか」


なんとなく、父さんが言ったことを実感する。どうやら僕は、酷いことをしても謝ってはいけないらしい。どうなってるんだ僕の周りの環境は、さすがにおかしくはないだろうか。


「で、さっきの続き。私へメッセージ」

「……」


振り出しに戻って困ってしまう僕。桐田朱里の時もそうだったが、もしかして僕は1人空回りをしているのだろうか。怒っているどころか、2人して感謝の気持ちを伝える始末。そんな褒められた人間じゃないのに、この扱いは何なのか。いや、けなしてくれと言っている訳じゃないが。


しかし御園出雲へのメッセージか。謝って許してもらえればいいと思っていたので、それ以外にパッと思い付くことがなかった。


強いて言えば勉強面のエールだが、風邪を引いている彼女に頑張れとは言いづらい。精神的な不安は消えてくれたとはいえ、ここで無理して頑張って明日の試験に参加できなければ何の意味もない。


他の皆と被るが、体調が良くなるよう言葉を添えるのがいいだろう。僕にできることがない以上、それが無難だと思われる。御園出雲の体調不良を僕が引き受けられればそれが1番だが……


そんな思考に陥って、僕は思わず声に出して言ってしまった。



「そうだ、僕に風邪を移すんだ」

「…………はっ?」



完璧すぎる僕のアイデアに、御園出雲の頭はついて行けてないようだ。僕としたことが、どうしてこんな簡単なことに気付かなかったのやら。



「できるだけ僕がここに居てやるから、風邪菌を僕へ移動させるんだ。そしたらお前は元気、僕は3日目の保健体育までに元気になればいいから問題なし! どうだろう!?」

「…………」



無言の時間が訪れた。心なしか、御園出雲の瞳がいつもより優しく向けられているような気がする。


「質問なんだけどさ」

「おう、何でも聞いてくれ」

「あなたに風邪を移したら、私の風邪って治るの?」

「治るだろ?」

「なんで?」

「なんで?」

「別に私の中にある風邪菌がなくなるわけじゃないわよね、ホントに私の風邪って治るわけ?」


寝耳に水である。


嘘でしょ、風邪って移したら治らないの? そういう表現を何度も見たことあるのに、都市伝説か何かってこと? そりゃ科学的な根拠を聞かれたら僕は答えられないが。


「えっ、ダメ?」

「ぶっ!」


真剣に首を捻ると、御園出雲が前のめりになって吹き出した。


「あはははは! 真面目な顔で何言うかと思えば『風邪を移せ』って、馬鹿じゃないの!?」

「ぐぬぬ……!」


一生懸命絞り出した僕のメッセージ(仮)は、不本意な形で御園出雲を笑顔にした。


「あはは、お腹痛い! さっきの顔思い出しただけで笑えてくる!」

「ああもう! お前がメッセージメッセージ言うからだろ!? なのになんだこの仕打ちは!?」

「だってねえ、名案みたいに風邪を移せって、あはははは!」

「笑うな!」


くう……いくら何でも酷すぎるだろ……

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― 新着の感想 ―
[一言] 登場人物がピュアすぎて消滅しそうです(瀕死 たぶん私が同じことされたら、なんだこいつら一日の欠席ぐらいで何やってんだ正気か……?と思いながら「ありがとう(ニコッ」と返しそう。そして録音内容…
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