17話 土曜日のゲシュタルト崩壊
「だから共通の話題を振れって言ってるだろが!」
「部活動は共通の話題だろう! 頭大丈夫か!?」
「じゃあなんで千利休の話になるんだよ!?」
「茶道部なんだから千利休は共通の話題だろ!」
「どんな偏見だよ! 千利休に憧れて茶道部入った知り合いでもいるのか!?」
「そんな奴いたら僕が会いたいわ! 茶の道を志して千利休知らないなんて茶道部じゃない、ただのお茶好きだ!」
「お前の質問はマニアック過ぎるんだよ! 秀吉から切腹を命じられた理由を聞かれてどう会話を広げるんだよ!? てかもはや茶道関係ないだろ!」
「関係あるわ! 茶室が他武士との密会に使われたとか、千利休が使ってた茶器の値段が高騰して気に入らなかったとか逸話があるだろ!?」
「そんな返答のできる茶道部員がいるかって言ってるんだよ! いい加減千利休から離れろよ!」
「はあ!? お前と千利休、どっちが偉いんだよ!?」
「千利休だよ!」
「なら千利休を否定するな! 僕は千利休が好きなんだよ!」
「いつ千利休を否定したよ! 俺だって千利休が好きだわ!」
「嘘つけ! 千利休が好きならどうしてこんなに文句言うんだ!?」
「もう過去の人なんだよ千利休は! 現代じゃ生きていけないんだよ!」
「ふざけるな! どうして諦めるんだよ! 僕たちが千利休を広めていけばいいじゃないか!?」
「それは今回の趣旨じゃないだろ!? 俺の真似して桐田さんと話すんじゃないのか!?」
「だから千利休を話題に出さないお前に文句言ってるじゃないか! 好きなら話せよ! 僕はいくらでも受け止めるぞ!?」
「お前と話が弾んでどうするんだよ!? 桐田さんと話が弾まなきゃ意味ないだろ!?」
「そこがお前の腕の見せ所じゃないのか!? 蘇らせてくれよ! 現代に千利休を!」
「無茶振りが過ぎるだろ! そんなに千利休に拘ってたら引かれるわ!」
「言ったな? お前とうとう千利休を馬鹿にしたな?」
「そんなつもりはないがそう聞こえたなら仕方ない。千利休は話題に不要だ!」
「この千利休にわかファンめ! いいだろう、僕から桐田朱里に話題は出さない。だがもし! もし桐田朱里から千利休という言葉が出てきたら雨竜、1週間僕に抹茶を奢れ」
「乗ったぜ、出てこなかったらお前が1週間抹茶奢れよ?」
「望むところだ、貴様には抹茶のように苦い敗北を味わわせてやる」
「言ってろ、お前に勝って飲む抹茶の味が楽しみだ」
翌日、桐田朱里は千利休のせの字も話題に出さなかった。




