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モテすぎる悪友が鬱陶しいので、彼女を作らせて黙らせたい  作者: 梨本 和広
3章下 期末試験と勉強合宿

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10話 いつも通りで

「……ありがとう父さん」


ひとしきり泣いた後、僕は父さんにお礼を述べた。


僕1人だったら、ずっと自分の中に溜め込んだまま後ろ向きに考え続けたかもしれない。父さんが居たから、僕は心の奥底にあった本心を引っ張り出せたんだと思う。


本当に、父さんにはお世話になりっぱなしだ。僕が甘えすぎというのもあるんだけど。


「お礼を言われることなんてしてないよ、ずっと頑張ってたのはゆーくんだし」


そう言って僕の頭を撫でてくれる父さん。何なのこのフォロー、神なの、神の使いなの? 惚れてまうやん絶対、もう惚れてるけど。


「でも、もうちょっと頑張らないとな」


僕は小さく、意気込みを述べる。


これから友達として仲良くなりたい相手に、今のままの振る舞いだといつ愛想を尽かされてもおかしくない。そのために意識改革を図る必要があると思っていたのだが、



「大丈夫。さっきも言ったけどゆーくんは頑張らなくていいんだよ」



僕の心の内を正確に読み取ったかのように父さんは笑みを浮かべた。


「えっ、でもそれだと」

「勿論遠ざけるようなことは言っちゃダメ、でも今のゆーくんを変える必要はないんだ」

「なんで?」

「だって、皆さんはきっと今のゆーくんが好きで一緒に居てくれるんだから」


そう言われるとそうなのかもしれないと思ってしまうから父さんの言葉はすごい。確かに、今一緒に居てくれるあいつらのことを考えると、僕が変わってしまうことの方がリスクが高い気がする。


……いやしかし、通常会話でもそれなりに綺麗とは言えない言葉を発してきたと思うんだが、あいつらはそれでいいんだろうか。冷静に考えるととんだドM集団じゃないか、まあそうじゃなきゃ僕の相手は務まらなかったとは思うけど。


いいや、一旦父さんの言う通りにしよう。今後の会話の中で修正が必要だと思ったら僕がそうすればいい、何でもかんでも父さんに頼るのは良くない。


ということは、感覚的にはいつも通りだな。後は僕が誘いを断ったり好意を否定したりしないようにする、今までのくせで反射的に言ってしまう可能性があるし。


そこまで考えて、僕は真っ先にやらなければいけないことを思い出す。



「……父さん僕、謝らなきゃいけない人がいる」



過去の事件で混乱していたとはいえ、僕は2人の人間を傷つけた。


1人の人間の好意を踏みにじり、1人の人間の行動を否定した。


我ながらよくそこまで言えたものだと思う、これが平気で言えていたのだから恐ろしい。


――――でも、それだって今日で終わり。僕は前に進む。


あれだけのことを言ったんだ、簡単に許してくれるとは思ってない。許されるとも思ってない。顔も合わせたくないと言われるかもしれない。


だからってそれで諦めるつもりはない。2人と改めて仲良くできる方法を模索する。


今までと何も変わらない、僕がやりたいことを全力でやるんだ。


「うん、それはちゃんと謝ろう。そうすれば相手だって歩み寄ってくれるから」

「……歩み寄ってくれるかな?」


いかん、どれだけ前を向こうと思ってもすぐに父さんに不安をぶつけてしまう。少しくらいは自立したいと思うんだけど、父さんが心を開かせるフェロモンを出してるのが悪いな。馬鹿野郎、父さんが悪いわけあるか出直してこい。



「時間は掛かるかもしれないけど、ゆーくんなら大丈夫。ちゃんと友達になれる」

「えっ?」



父さんにしては、根拠のない応援染みた言葉だった。


それが嫌なわけはないし嬉しいのは嬉しいけど、本当に大丈夫なんだろうかと疑問も沸いてくる。


だって父さんは桐田朱里のことも御園出雲のことも知らない。彼女たちが今、何にどれだけ腹を立てているか、それとも悲しんでいるのか、父さんは知らないのだ。


それなのに、父さんの言葉を鵜呑みに舞い上がっていいのか。自信を持っていいのか。


だがしかし、父さんはやっぱり父さんだった。僕が不安がることを想定した上で、しっかりと全てを吹き飛ばしてくれた。



「だってね、お母さんにだって友達が出来たんだよ?」

「ぶっ!」



それは、モノマネ芸人のネタ風に言うなら、『父さんが絶対に言わない一言』だった。


父さんが母さんを悪く言うことなんて基本ない。家事が出来ないなど事実を言うことはあれど、悪口を言うことは決してないのだ。


だから父さんは、大好きな母さんをネタにしてまで、僕に笑いを提供してくれた。僕の不安を吹き飛ばしてくれた。


そうだ、その通りだ。あんなに愛想もなく言葉数が少ない上に出不精で父さんが居なきゃまともに外を出歩かない人間でも、今は友人と一緒の時間を過ごしているのだ。母さんにさえ友人がいるのに、僕にできないはずがない。というか母さんより劣るってあり得ないから、母さんの友人が1人なら僕の友人は10人くらいできて当然だ。


はあ、我ながら単純な脳みそだ。母さんに負けるわけないって思えば、父さんが言うように大丈夫だって本気で思えてくる。そういうフォローができてしまう父さんがすごいってのもあるけど、それくらいできなきゃ母さんの相手は務まらないのだろう。あれ、何だかこの思考にデジャヴを感じる。父さんもまさかドMなんじゃ……


「ありがとう父さん、何だかやれそうな気がしてきたよ」

「どういたしまして。明日の学校で仲直りできるといいね」

「ちなみに父さん、さっきの発言母さんに伝えていい?」

「それはとってもまずいから止めて欲しいな」


冗談です。父さんの嫌がることを僕がするわけないからな。愛故のコミュニケーションだとお思いください。


「ゆ、ゆーくん、今日の夕ご飯ゆーくんの好きなもの作るよ。何でも言ってね?」


なのに焦って僕のご機嫌を取ろうとする父さん、最高に愛くるしい。ハンバーグとカレーでお願いします。


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