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モテすぎる悪友が鬱陶しいので、彼女を作らせて黙らせたい  作者: 梨本 和広
3章下 期末試験と勉強合宿

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4話 美味しい朝食

風呂から上がった僕は、着替えを仕舞いに部屋へと戻る。外は既に明るくなっていて、誰かが起きていてもおかしくない時間だ。


ちなみに、御園出雲の姿はロビーにはなかった。照明が消えていたこともあり、彼女も部屋に戻ったものだと推察する。2時間しか寝ていないというのが本当なら、少しでも体力回復に努めてほしいものだ。


「おっす雪矢、おはようさん」


部屋の中に入ると、浴衣から普段着へ着替えを終えた雨竜が声を掛けてきた。部屋の灯りはついているが、堀本翔輝はまだ眠っている。嫌がらせだろうか。


「なんだ、風呂行ってたのか」

「どうだっていいだろそんなの」

「…………」

「何だよ?」


冷たくあしらうと、雨竜は何も言わずにこっちを凝視してきた。


「いや、廣瀬雪矢だなぁと思って」

「はっ? 意味分からないんだが?」

「分かるように言ってないからな、お前だって分かるつもりないだろ?」


雨竜は好き放題言った後に破顔すると、スタスタ扉の方へ向かっていく。


「さーて、わざわざ鳥谷さんが風呂の準備してくれたんだ。俺もちょっくら浸かってくるわ」


そう言って、雨竜は部屋から出て行った。会話は途絶え、堀本翔輝の寝息だけが部屋の中に響いている。


「……何が廣瀬雪矢だと思ってだ」


我が物顔で呟いていたのが妙に癪に障った。僕のことを1番知っているのは僕なのに、何を得意げに語っているのやら。


そんなしょうもない出来事に、僕は朝から怒りを覚えていた。



―*―



朝食の時間を迎えると、わらわらと食事室に人が集まってくる。おはよう等と挨拶を交わしている内に、人が少ないことに気付く面々。


「あれ? ズーちんとシュリリンは?」


神代晴華が疑問を投げると、それに対して月影美晴が返答する。てかシュリリンって桐田朱里のことか、ウルルンと方向性が一緒だな。


「さっき朱里ちゃんから連絡来てたけど、出雲ちゃんちょっと食欲がないみたい。風邪ではないみたいだけど、心配だから朱里ちゃんも付き添うって」

「えー、ズーちん大丈夫かな?」

「食欲がないだけでしょ、気にしててもしょうがないしご飯食べるわよ」

「わたし、お部屋にご飯届けてきます。桐田さんはお腹空いてるでしょうし」

「梅雨さん、それは私が対応しますから」

「いえいえ、これくらいはわたしに任せて鳥谷さんはこっちのお仕事してください」


梅雨はニッと軽く笑うと、自分の席の前にあった朝食をお盆に載せてすぐさま食事室を出て行った。相も変わらぬ行動力に嘆息してしまいそうになるが、僕が行くよりは100倍マシだろう。そもそも行ってやる気はさらさらないが。


「んん~! 朝食も変わらず美味しい!」


梅雨が戻ってきてから朝食を開始した僕らは、朝の献立に相応しいメニューに舌を唸らせていた。極端なことを言えば、この味噌汁と漬け物だけで白米を何度でもお代わりできそうなクオリティである。


「ご飯と味噌汁両方お代わりで!」


誰よりも素早く手を動かしていた神代晴華は、朝の日差しにも負けない満面の笑みで追加を要求した。


その様子を、蘭童殿がどこか悔しげに見つめている。


「神代先輩、そんなに食べててよく太らないですね……」


確かに、神代晴華の食欲は凄まじい。冬眠のために蓄えているのかと思わされるほど吸収に吸収を重ねている。これで太らないのだとするならば、女子からすれば羨望の対象になるのかもしれない。


「ほらあたし、運動もちゃんとしてるから! 摂取した分のカロリーはしっかり消費しないとね」


別に大きくならない力こぶを作って、蘭童殿にウインクをする神代晴華。スポーツ飲料水を持たせたらコマーシャルでも作れそうな一枚絵だった。



「まっ、神代の場合は乳に栄養がいってるからね。摂取量ほど太らないんでしょ」

「ぶぶっ!」



その後恥ずかしげもなく続けられた名取真宵の言葉に動揺したのか、神代晴華はお代わりしたばかりの味噌汁を吹き出した。


「ちょ!? あんた何してんのよ!?」

「大丈夫ですか!? 鳥谷さん、布巾ください!」

「だって、ゴホッ、男子の前なのにマヨねえが変なこと言うから!」


隣にいる月影美晴に背中を摩られながら、涙目で名取真宵を睨む神代晴華。その頬は、若干紅潮していた。


「変って、そこまで気にしてるのあんたくらいでしょ?」

「そんなことないもん! マヨねえの話のせいで、ホーリーの視線がこっち来てたもん!」

「ええっ!? 僕!?」


急な飛び火で分かりやすく狼狽える堀本翔輝。女子は男子の視線に敏感らしいので、あからさまに見るのは止めた方がいい。思春期の中学生でもあるまいし。


「そんなの男なんだからしょうがないでしょ、でかい乳見ようとして何が悪いんだか」

「ユッキーとウルルンはノーリアクションじゃん! 普通にご飯食べてるじゃん!」

「いやまあ、この2人の生態系は未知数過ぎて何が何だか……」


おい。人を未確認生物みたいに言うな。恥ずかしさで悶えている堀本翔輝(いっぱんじん)とは鍛え方が違うんだよ、何もかも反射や本能で動く生き物だと思うな。雨竜は未確認生物みたいなものだが。


食事中に随分下世話な話が進行していると思っていたが、普段それを止める人間が不在であることに気付く。


ああそうか、取り締まる奴が居ないと、こんなにも環境は荒れ果ててしまうんだな。大袈裟な表現をしたが、これが積もり積もるとそこまで大袈裟でもないのかもしれない。


落ち着く気配を見せない言い合いをぼんやりと聞き取りながら、味噌汁を口に運ぶ。出汁と味噌の味わいが絶妙にマッチして、それほど濃い味でもないのに口が止まらなくなる。


美味しい。間違いなく美味しい。鳥谷さんの料理は文句の付けようがないほど美味である。



それなのに、どうしてか昨日の昼食より味気なく感じてしまう自分がいた。

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