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モテすぎる悪友が鬱陶しいので、彼女を作らせて黙らせたい  作者: 梨本 和広
3章上 期末試験と勉強合宿

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39話 夜のお誘い

なんとか梅雨を納得させて終えた茶番裁判。準備するよりも明らかに時間を掛けて片付けを済ませると、先程まで裁判長を務めていた御園出雲が両手を2度弾いて視線を集中させる。



「はい、それじゃあこれから1時間、勉強会始めるから」



それは、人によっては地獄とも言える宣告だろう。実際、勉強があまり得意ではない神代晴華と名取真宵はあからさまに苦い顔を見せた。


「ズーちん、何言ってるの? これからみんなで遊ぶに決まってるでしょ?」

「あなたこそ何言ってるのよ、勉強合宿なんだから勉強するに決まってるでしょ」

「冗談よね御園、日中そこそこ勉強してたと思うんだけど」

「私が冗談言うわけないでしょ。昼間はひたすら自分の勉強してたからね、夜はビシバシ指導してあげる」

「そ、そんなぁ……!」


神代晴華が今にも泣き出しそうな情けない声を上げるが、御園出雲が言うようにこれは勉強合宿。勉強してナンボである。ボードゲームは帰りのバスの中でやってくれ。


「そうはいっても私1人で教えるのにも限界があるから、青八木君も手伝ってくれると助かるんだけど」


御園出雲は、会話の流れでまったく不自然なく雨竜を勉強会に誘った。この言い方なら、雨竜も変に意識することなく了承するだろう。御園出雲め、なかなか巧いじゃないか。


「勿論、俺にできることなら言ってくれ」

「それじゃあ私たちも参加します! あいちゃんもいいよね?」

「うん、もともと夜は勉強しようと思ってたし」


だがしかし、雨竜が参加すると言えば当然蘭童殿も指を咥えて眺めているはずがない。あいちゃんに声を掛け、すかさず参加の意思を示した。


それよりも馬鹿2人はちゃんとあいちゃんの呟きを聞いていたのだろうか、試験前くらい遊ぶことばかり考えず勉強してほしいものだ。


「人数増えたわね。美晴、あなたも一緒に教えてちょうだい。質問対応がないときは自学で構わないから」

「うん、分かったよ。基本は2人に任せるね」


参加者が2人増えたことで指導面に不安を覚えたのか、月影美晴へ声を掛ける御園出雲。勉強会が主とはいえ敵に塩を送るとは随分フェアなことだが、それが仇とならなければいいがな。


「他も参加したかったらしてもいいから、いつでもロビーにいらっしゃい」


御園出雲は、まだ声を掛けられていない僕、堀本翔輝、桐田朱里、梅雨の4人に向けてそう言った。


「ちょっと待った! 任意参加ならあたしは参加しないわよ!?」

「あたしもあたしも! 勉強なんて1人でもできるし! きっと恐らく多分!」


全員参加じゃないことに気が付き、子どものように反論をする名取真宵と神代晴華。夜の勉強会から脱出するための必死さは伝わってくるのだが、



「ねえ、馬鹿に拒否権があると思う?」

「「ぐっ……!」」



辛辣すぎる御園出雲の言葉に、敢えなく撃沈してしまう。成績だけで言うなら神代晴華はそこまで馬鹿じゃないはずだが、御園出雲からダメージを受けている以上、勉強すべきとは思っているのだろう。運動で培ってきた集中力を勉強に活かせればもっと良い成績を収められそうだが、その辺りは指導側に期待だ。


「僕も参加しようかな、まだまだ不安なところあるし」


最初にそう言ったのは勉強も運動もイマイチパッとしない堀本翔輝。参加の表明をすると、筆箱や参考書を取りに行った連中の後を追っていった。神代晴華とのお近づきを考えてもその方がいいだろう。


「雪矢さんはどうします? 参加しますか?」


裁判長の判決を忘れたのか、自重することなく僕へ声を掛けてくる梅雨。まあ僕はまったく構わないが。


「参加するわけないだろ、やりたいことは昼間にだいたい終わったしな」


そもそも僕は望んでこの場所に来たわけじゃない。堀本翔輝から保健体育の教科書を借りて試験範囲はほぼ習得したのだ、わざわざ夜間まで勉強する必要はないだろう。


「ならわたしは参加しますね、どうせなら誰かに質問できる環境で勉強したいですし」


その返答を聞いて、梅雨が裁判長の判決を無視していたわけではないことに気が付いた。僕と関わらないために、僕の選択を聞いておきたかったということか。意外に律儀な奴だな。


「……それに、お兄ちゃんを慕う方々の観察もできますからね」


梅雨さん、怪しげなオーラが出ているのでしまってくださいね。これはあくまで勉強会、先輩方を見定める時間じゃないですよ?


梅雨が天然で恐ろしい行動をしないか不安になったが、そこのフォローは雨竜に任せることにする。妹の責任は兄の責任、当然と言えば当然だな。


となれば僕は晴れて自由の身。僕の持ち物で考えるなら、部屋でパソコンを弄るのが1番いいだろうな。さすがに勉強している人間がいるのに先に眠るわけにもいかないからな、それくらいの配慮はしてやらないと。


「あ、あの、廣瀬君!」


僕も時間潰しのために部屋に戻ろうとしたところ、同じくロビーに佇む桐田朱里に声を掛けられた。


そういえば、コイツもどうするか決めてないんだっけ。御園出雲なら声を掛けそうなものだが。


「どうした?」


振り返って彼女に聞き返すと、軽く深呼吸を始める桐田朱里。そして何か覚悟を決めたのか、強い意志を持った瞳で真っ直ぐ僕を貫いた。




「実は、相談したいことがあって……」



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