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モテすぎる悪友が鬱陶しいので、彼女を作らせて黙らせたい  作者: 梨本 和広
3章上 期末試験と勉強合宿

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9話 後輩と下校

「青八木先輩との勉強会ですか!? 是非参加させてください!」


月影美晴と桐田朱里と話をした後、僕は下校時間の10分前程で自習を切り上げた蘭童殿とあいちゃんに声を掛けた。


早速用件を説明しようとしたのだが、下校時間が近い学校に長く居座るわけにもいかないということで2人と一緒に帰ることになった。


生徒玄関を出てすぐさま勉強会の話をすると、蘭童殿は瞳を輝かせて参加を表明してくれた。



……そうだよな、普通こういう反応をするよな。なんで文系組はああも消極的なんだろうか。



「名取先輩も参加するんですよね、なら余計に参加しないわけにはいかないです!」


キラキラしていた蘭童殿の瞳が今度はメラメラ燃えている。こんな風にやる気を見せてくれると、僕も誘った甲斐があるというものだ。


「でも大丈夫? 周りは先輩だけなんだよね?」


楽しげに歩く蘭童殿とは対照的に、あいちゃんは勉強会の環境を気にしているようだ。確かに、学年だけを考えるなら、蘭童殿は居づらさを感じるかもしれない。


「あいちゃん、僕は君にも参加してほしいと思ってるんだが」

「えっ、私もですか!?」


最初からそのつもりで話していたのに、あいちゃんは今初めて聞いたように大層驚いていた。びっくりしているあいちゃんに蘭童殿もびっくりしている。


「あいちゃん、どう考えても誘ってくれてたでしょ?」

「だ、だって、青八木先輩の件だったから私は無関係かなと思って」

「そう難しく考えるな、雨竜はともかく御園出雲もいるんだ。部活の先輩に勉強を教えてもらうつもりで参加すればいい。その方が蘭童殿も嬉しいだろ?」

「勿論です! まさかお休みの日もあいちゃんと一緒にお勉強できるとは思わなかったよ!」

「空ちゃん……」


飾り気のない真っ直ぐな蘭童殿の言葉に、あいちゃんが目をウルウルとさせる。小動物と小動物の可愛らしい会話、生命の神秘を感じるな。


「じゃ、じゃあ、私も参加します」

「やったぜ蘭童殿!」

「やりましたね廣瀬先輩!」

「えっ、えっ!?」


あいちゃんの参加表明を聞き、思い切りハイタッチをする僕と蘭童殿。こういう大袈裟なリアクションを取ると慌てふためくあいちゃんが見られるので、僕も蘭童殿もほっこりである。


「……2人とも、私の扱いが酷くないですか?」

「何言ってるのあいちゃん、こんなの愛がなきゃできないんだよ? あいちゃんだけに!」

「いいこと言うな蘭童殿。これは僕と蘭童殿の愛の結晶、喜ぶことはあれど悲しく考えることはないぞ?」

「愛の結晶って、何だか意味が違うような……」


前向きな僕らの発言すら訝しんでしまうあいちゃん。からかい過ぎて耐性ができてしまったんだろうか、それだと非常にまずい。僕と蘭童殿で結成した『あいちゃんを楽しく愛でようの会』の解散の危機じゃないか。


僕はこちらを向いていた蘭童殿と目を合わせ、頷き合う。ポジティブがダメだというならネガティブで攻めるだけ、僕と蘭童殿は作戦を実行した。


「……蘭童殿、どうやら僕らの気持ちはただの一方通行だったらしい」

「……そうですね。あいちゃんも、全然嬉しそうじゃないですし……」

「……あ、あれ?」


明らかに暗いトーンになった僕らの声を聞き、あいちゃんが再度慌て始める。よし、どうやら導入は完璧のようだ。


「そうだよな、所詮僕らの気持ちの押しつけ。そんな身勝手があいちゃんに届くわけもないか……」

「それでもあいちゃんなら、私たちの想いを受け取ってくれるって信じていたんですが……」

「これ以上はもう、ダメかもしれない……」

「気持ちを隠して慎ましやかに、それがいいのかもしれません……」

「ちょ、ちょっと待ってください!」


孫が顔を見せてくれない老夫婦のような会話を繰り広げていると、あいちゃんは胸に手を当て真剣な表情で僕と蘭童殿を見た。


「そ、その、別にやめなくていいですよ……?」

「何故だ? あいちゃんは僕らの気持ちが迷惑だったんじゃないのか?」

「迷惑だなんてそんな! 2人がその、私のことを想ってくれるのは嬉しいですし……」

「あいちゃん、無理してない? いいんだよ、私たちに気を遣わなくても」

「遣ってないよ! 空ちゃんや廣瀬先輩の気持ちと同じくらい、私も、その、2人を慕ってると言いますか……」


少しずつ声のボリュームが小さくなるあいちゃんは、顔を少しずつ赤く染め、両手の人差し指をツンツンさせながら思いの丈を語ってくれた。


こんな可愛らしい姿を見せつけられて、僕らはいつまで我慢しろと言うのか。僕はともかく蘭童殿はいつもの3割増しでニコニコしていた。今すぐ抱きつきかねないほどにウキウキしていた。



「と、とにかく! いつも通りの2人でいいので! それが私は嬉しいので!」

「「あいちゃん!!」」



目を瞑って気持ちの入った言葉を僕らにぶつけるあいちゃん。

素晴らしき未成年の主張を受け、頭の中にイエスタデイワンスモアのサビを流しながら僕と蘭童殿はあいちゃんへ寄り添った。蘭童殿は寄り添うというよりダイブしていたが。


「そ、空ちゃん!?」

「いいんだねあいちゃん、いつも通りの私たちで?」

「うん、なんだかんだ私はそれが嬉しいんだと思う」

「ありがとうあいちゃん!」

「こちらこそ、いつも一緒にいてくれてありがとう!」


2人の会話を聞きながら、腕を組んでニコニコ頷いている僕。素敵な友情シーンまたは壮大な茶番シーンとも取れるこの状況に、僕は完全に思考を放棄していた。


何だかよく分からないが、笑ってお茶を濁すことにしよう。


全員の脳容積が収縮したような気がしつつも、あいちゃんはやっぱりチョロ可愛いと思うのであった。


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