表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
92/304

参加申請

 

 冒険の町には未だ多くの露店が並んでいる。

 サービス開始日から露店を開いていたと思われる、オルさんのような第一陣の人達は自分の店を持ち始めているものの、生産職の数は新規プレイヤーの増加に伴い、比例して増えていっている。

 ブロンズ製の武器や防具を売る、駆け出しの新規生産職(クラフター)達の店を眺めていきながら、俺は目的の店にたどり着いた。


「あ、幼女神様!! それとお義父さん。待ってたお」


「こんにちはマーシーさん」


 あからさまにテンションを上下させるマーシーさんの店に着いた俺は、召喚獣達を露店の前に並ばせた。

 彼は未だ自分の店を持たず、フリフリ付きの骨組み露店で商売をしている。


 召喚獣や魔獣の防具制作という新しい分野を開拓した彼としては、やらしい話、相当儲かっていそうにも思えるが……他人のこだわりに口を挟むのも野暮と言えよう。


 ともあれ――以前作ってもらったダリアのポンチョも部長の透明防具も、現在のレベルから見たら性能が低い。

 アルデに新しい防具を与えるいい機会だし、多忙なのを承知の上で、まとめて頼むことにしたのだった。


 マーシーさんは、俺から掲示された彼女達のステータス画面とを見比べながら、装備を構想しているのか、独り言を呟いて電卓を叩いていく。


「僕の技能(スキル)も上がったから、ある程度のレベルになら、合う防具を見繕えるお!」


「それは助かります。お金は、多少はありますが、参考までにトータルでいくらになるかわかりますか?」


 トーナメントには間に合わないとはいえ、彼女達の戦力アップは優先的に行うべきだと考えられる。


 あらゆる場面でアルデが力を発揮できる、様々な用途の武器の新調だったり、ダリアの杖や部長の爪、アクセサリーなどなど、更に俺の装備も新調するとなればその額は七桁を超えてくる可能性もある。


 無駄な出費は抑えているとはいえ、現在の所持金でも流石に100万Gには届かない。効率的に金を稼ぐ方法でも見つけない限りは、強化する部分も選んでいかなければ、簡単に破産するな――


「幼女神様の全身装備は、ほぼ構想が終わっているお。他の二体の装備は推測になるけど、だいたい63万Gくらいになるお」


「そ、そうですか……」


 予想していたとはいえ、やはり俺の財布には大ダメージだ。


 俺の装備が頭、手、胴体、腰、足の五ヶ所に区切られているように、召喚獣にも部位毎に装備が用意されるのだろう。

 ダリアも部長も、現在は胴体装備しか付けていない状態であるから、大幅な戦力アップが期待できると考えられる。


 娘達三人分のフル防具ともなれば納得の値段だが……苦しいな。


「わかりました、それでお願いします。あと、既存の防具でいいので、この子の装備を見繕ってもらえませんか?」


「毎度ありがとうだお! じゃあ、この中から選んでほしいお」


 アルデ用に装備を選ぶも、殆どオーダーメイドで作っているのか、防具の数は少ない。

 とりあえず俺は、アルデの見た目に合わせた胴を包む鎧を購入する。

 耐久+25の品で、前衛攻撃職(アタッカー)には助かる品であるため、購入しておいて損はない。


 代金を支払うと共に、持ち物のアイテム群を買い取ってもらう事にした――が、ボスの素材等々を売ったものの、レベルの低さから大した値段にならずに終わる。


 金策をしようしようとは思っていたものの……ここにきてそのツケが回ってきたか。


 ともあれ、ストーリークエストや討伐クエスト、名声クエスト等があるとするならば、金稼ぎクエストも存在するかもしれないな。





 時刻は午後6時30分。


 フレンド欄の《港》という文字にログインを表す色が付く。

 結局今日は召喚獣達と魔石の製作だったり、町中をブラブラ歩く程度で終わってしまったものの……たまにはこういう日も悪くないか。と、のんびりした時間を思い出しつつ、集合場所へと足を進めた。


 冒険の町のポータル前で待っていると、港さんと召喚獣達が現れ、お互いに軽く手を上げ、挨拶を交わす。


「こんばんは。港さん、忘れない内にトーナメントの申請行きましょう」


「そうだな。言われて今思い出した」


 俺の足元にはいつも通り、キングが擦り寄ってきており、反応したダリアが、俺に握られた手にギリギリと力を込めた。

 キングはダリアと俺の間に割って入るような形で戯れてくるため、今日は特にダリアの機嫌が悪い。


 反対側にいるアルデは、いきなり現れた港さん一行を警戒しているのか、俺の後ろに半身を隠すようにして見つめているのが見える。

 部長は相変わらず、俺の頭の上で寝息を立てていた。


「おっ。新しい召喚獣か」


「はい。アルデって言います」


『アルデ、挨拶ね』


 気を利かせた港さんが、隠れるように様子を窺うアルデと視線を合わせるようにしゃがんでみせる。

 俺は強く結ばれたアルデの手を軽く握り返してやり、彼女から挨拶するように促した。


『……よろしく』


 頭に被った頭蓋骨をコテンとずらしながら、頭を下げたアルデはボソボソと挨拶を返す。

 俺の通訳も必要なかったのか、それを見た港さんが満足したように「よろしくな」と、挨拶を返した。


 アルデは人見知りなんだな。


「じゃあ俺も、新しい召喚獣を呼ぶとするかね」


 俺に新しい仲間が増えたのが羨ましかったのか、肩に乗るケビンを撫でながら、港さんは気合いを入れるように意気込んだ。

 港さんが召喚獣を呼ぶと、合計して八人パーティとなってしまうが――召喚士が、新たな仲間を呼ぶ機会を先延ばしできるはずもないか。その気持ちは痛いほどわかる。


「ちょっとトーナメントに向けた特訓が面倒くさくなるが……親密度は少しでも上げておきたいんだよな。そこは勘弁してくれ」


「止めるつもりは最初からありませんよ」


 そうか。と、既に心ここにあらずな様子でフィールドへと歩き出す港さん。

 キングを睨むダリアを引きずるようにして、俺たちもそれに続いた。




「ここは俺がキングとケビンと出会った思い出の場所なんだよ。召喚獣を新しく呼び出す際は、必ずここに来てるんだぜ」


「すっごい分かります、その気持ち」


 俺たちは北ナット林道の奥にある、一面の花が咲く場所へと来ていた。

 港さんが、このようなメルヘンな場所を召喚の場所としているのは面白いが、思い出の場所という部分は共感できる。

 

 召喚の準備を進める港さんに、呼び出す召喚獣の構想を聞いてみた。

 他の人の召喚に初めて立ち会うため、若干、自分の声のトーンが上がっていた事に気づく。


「そうだな。まあ、理想としては回復役(ヒーラー)だ。ダイキのように、頭に乗せた部長ちゃんと一体の状態で戦えるのは強い。人型の“妖精”辺りが狙い目だな。――鳥人族にも、大いに期待してるが」


 草の町で何度か見かけた“妖精族”。ダリアやアルデは小さいが、彼ら――または彼女らの“小さい”はそのレベルではない。

 体長はほんの20センチ程しかなく、また素早いためよく見る事ができていない。


 ともあれ、妖精族を回復役(ヒーラー)にできれば、その素早さと的の小ささは利点になるな。重大な役割を担う回復役(ヒーラー)には死なない事も仕事に入っている。


 ――理にかなったチョイスだと思う。が、本命は鳥人族だという事は、ヒシヒシと伝わってきた。


「じゃあ、召喚いくぞ」


 紫色の魔石を手にした港さんが、召喚術を発動する。離れて見ると分かるが、術者の体から淡い光が放たれていた。

 そして頭上には召喚獣の設定を決めるルーレットが出現している。



【人型:精霊族】



【種属値:3】



【タイプ:回復役(ヒーラー)



 何度も見た巨大な魔法陣が港さんの周りを囲むようにして出現し、白色の光を発していく。

 光は徐々に人型を形成していき――髪の長い、背の高い何かのシルエットが現れた。


 ――エメラルドの瞳が、主人を探すように右から左へと移動する。


 ――白色の髪が、風に靡くのがわかる。


 胸部にある二つの膨らみにより、彼でなく彼女であると認知する事ができた。


 これが“精霊族”か。


 長身の港さんと同等の丈を持つスレンダーな人型は、宙に浮きながら、港さんにゆっくりと近づいていく。


 一言で表すと“人間の形をした光の塊”……先程も考察したように、胸部と髪、そして女性特有の細さからしか性別は判断できなかった。

 彼女は港さんの周りをゆっくりと周った(のち)、納得したように腕を組んだ。


「俺の名前は港だ。よろしくな」


 仲間が増えて嬉しいのか、笑顔を見せながら手を挙げる港さんに、精霊族は、ふわりと一礼してみせる。


 以前見た精霊族の召喚獣は、風を纏った男性の姿であり、風属性魔法を使っていた。

 その法則でいけば、色合いからして彼女の属性は“光”辺りだと予想できる。実に回復役(ヒーラー)らしい属性とも言えるな。


「君の名前は《レイ》とする。俺の召喚獣達とも仲良くしてくれ」


 レイか……港さんなりの理由があるのかもしれないが、美しい風貌の彼女に似合う、綺麗な名前だな。

 レイと名付けられた精霊族は、すぅと何処かへ行ってしまった。


 参ったなあ。と、港さん。


『あれは 喜んでる ダリアの勘がいってる』


 ダリアの勘がどれ程のものかは不明だが、同じ召喚獣から見た彼女の反応には、何か思う所があるのかもしれない。


「ダリアが言うに、喜んでるみたいですよ」


「本当か!? 安心した――キングもケビンも男だから問題無かったんだが、女の子が気に入る様な名前が付けられたのか不安でなあ」


 照れる様な、喜び切れないような曖昧な表情を浮かべる港さんは、乱暴に頭を掻く。

 

「自分の主が付けてくれた名前なら、召喚獣は何でも嬉しいんじゃないですかね」


「そ、そうか。そうだよな」


 レイは勿論、キングやケビンや召喚獣の声を、港さんに聞かせてやりたいというもどかしさもあるが、時間が経つにつれ、自然と互いの事も分かってくるだろう。


 一面の花の上を滑るように移動するレイが何処か楽しそうに見えたのは、俺だけではないはず――





 石の町に着いた俺たちは、第一にトーナメント申請を済ませるべく、コロシアム前へと足を進めた。

 人数が増えた関係で、今は港さんとパーティは組まれていないものの、当然ながら共に行動している。


 右手にアルデ、左手にダリア、頭に部長を乗せた俺と、キングを抱え、肩にケビンを乗せた港さん。その少し後ろから、一定の距離を保つようにレイが付いてきている。

 ひょっとしないでも、仲良くなるのに時間は掛からないんじゃないか? と、陰ながら応援しつつ、俺たちはコロシアム前へとたどり着いた。


 コロシアム前の受け付けには想像以上のプレイヤーが集まっており、申請しに来たプレイヤーを見物しているのが見える。

 もしかしたら、未だパーティが組めていないプレイヤーが勧誘しているのかもしれないが……生憎と俺たちは間に合っている。早い所済ませてしまおう。


 入り口である、石造りの重厚な扉の前にズラリと並ぶ液晶パネル。

 どうやらギルドのような受付NPCは居ないみたいだ。


 掛けられる声に対応しつつ、すんなりと、受付である液晶パネル前にたどり着く。

 港さんパーティとは隣同士にてパネルの前に立ちながら、ダリアもアルデも部長も俺も、皆で体をくっ付けながらパネルを覗き込むように、俺の操作の元、申請を開始した。


 まず初めに、購入時に登録した六桁のIDと暗証番号を入力し、俺が“プレイヤーのダイキ”である事の認証を完了させる。

 一つの機械で一つのアバターしか登録ができないため、二重の登録や不正防止に役立つのだとざっくり理解しつつ、次の画面へと進んだ。



『試合形態を選択してください』


《個人戦[参加][不参加]》

《団体戦[参加][不参加]》

《混合戦[参加][不参加]》



 俺は個人戦から混合戦までの三つの[参加]のボタンをタップし、全てに参加するという意思を示した。

 当初の予定としては個人戦は出なくていいとも思っていたが、ケンヤや雨天さんみたく、折角の機会だからと記念出場する事に決めた。

 本命は団体戦と混合戦ではあるが、個人戦で得る事もあるだろう。そういう意味でも、登録して損はない。


 次の画面へ移ると、団体戦と混合戦に参加するメンバーの選出画面が表示される。

 団体戦の方は、俺の名前の横に五つの空欄があり、混合戦の方では一つの空欄があった。つまりはここに参加者を登録して、申請という流れになると予想できる。

 隣でパネルを操作する港さんに目線を送ると、同じ画面に到達したのか、港さんと目があった。


「フレンド欄から参加申請を飛ばし、相手が承諾すればパーティ結成完了……という事は、どちらかが送れば問題ないようですね。これは俺の方で港さんに参加申請を飛ばしておきます」


「おう。じゃあ俺はそれを承諾だな」


 空欄の中をタップすると俺のフレンド一覧がズラリと並び、名前の横に参加申請可能かどうかも、同時に表示された。

 俺の申請を待つ港さんをはじめ、興味無さそうだったトルダに、生産組であるオルさんや紅葉さん、マーシーさんは参加しないだろうから当然として……他の人は皆、申請不可になっている。


 ケンヤ、雨天さん、ライラさん、クリンさんは既に登録を済ませた様子だったし、銀灰さんも、恐らくギルドの誰かと申請を済ませている様子。マスターであるアリスさんも不可になっている所を見るに、彼女と一緒のパーティで参加してくるかもしれない。

 ブロードさんとマイさんも申請を済ませたらしく不可になっており、姫の王も登録を済ませてある様子。

 ハロー金肉さんは団体戦に参加してくるのだろうか――ともかく彼は謎だ。


「承諾完了だ」


 画面を操作する港さんの声と共に、俺のパネルの団体戦の欄に港さんの名前が出現し、その後、空欄の二つに“キング”と“ケビン”の名が並ぶ。

 連携の練習をしたメンバーを登録するのは当然か――


『団体戦の方はアルデだけ留守番な』


『残念……』


 今からメンバー変更すれば、長い時間特訓した試練の洞窟での戦闘パターンを見直す必要性が出てくるため、新入りのアルデには我慢して待っててもらう事になる。


 戦いたかったのか、アルデはがっくりと肩を落とした。


『団体戦は――だけどな』


『え?』


 俺は二つの空欄に“ダリア”と“部長”を選び、混合戦の空欄に“アルデ”の名前を選出した。

 ダリアも部長も、アルデがのけ者にならない配慮を察してくれたのか、特にコメントもしないでいる。


 状況が飲み込めないアルデは『え? え?』と、困惑するように、視線をパネルと俺とで行き来しているので、俺は自分の考えを彼女に言って聞かせていく。


『当初の予定はダリアだったけど、手数と火力の面でいけばアルデの方が可能性があると思う。それに、相手からの魔法の対処もし易いし、逆利用で火力の向上も狙える。俺がいれば武器交換も可能だし……いい線いけると俺は思うぞ?』


『アルデの魔法剣 つよい』


 俺の言葉とダリアの後押しもあり、アルデは『が、がんばる』と、小さな手にグッと力を入れた。

 もしもアルデの脳内処理が追いつかなければ、俺が干渉によって技能(スキル)を間接発動させる事もできる。うまく攻撃魔法を利用できれば強みになるし、攻撃手段が多いのは相手としてもやり辛いはずだ。

 

 ――本番までに、アルデをどこまで強くできるかが鍵となるな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ