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ダンジョン『試練の洞窟』③


 一階のチュートリアルダンジョンは、さほど時間を掛けずに踏破することができた。敵のほぼ全てを無視したのと、罠に攻撃力が設定されていなかったのが主な理由だ。

 本来ならばミニマップで敵の位置を把握、戦うか否かの判断をした(のち)、進路の決定を行うものだし、罠は細心の注意を払って《解除》するものだと港さんは教えてくれた。

 ここではない、例えば最前線組が攻略しているダンジョン辺りともなれば、レイド内に罠の解除や敵の偵察の為に動く《盗賊職》が必要不可欠であるという。

 レイドの全滅理由の割合は、モンスター二割、ボス三割、罠五割なんだそうだ。


 石造りの階段を下りていくと、大きな一本道の先に開けた空間が見えてきた。

 先ほど休憩をとったセーフティエリアよりも更に広さのあるその部屋は、地面に無数の骸骨が散乱し、ホラーテイストな造りだなと、思わず苦笑いしていることに気付く。


「ここが地下二階層だ。構造は大部屋が一つと、ダンジョンにしてはボス部屋と同じの異質な造りとなっているが、これもチュートリアルの一環だからな。入れば色々と弄る(・・)事ができる」


 そう言いながら、何も警戒していないかのように、港さんは地下二階の部屋へと入っていく。

 イベントであるインフィニティ・ラビリンスを抜きにすれば、ダンジョン初挑戦な俺。

 全面的に港さんに従うことにしてあるため、足を止めることなく彼の後に続いた。


 パーティが部屋に入りきると、港さんと俺の目の前に半透明のプレートが現れた。

 それを港さんが素早く入力しているらしく、俺のプレートは入力された情報へと次々に変更されていく。


「設定レベルは32で六人パーティを想定、陣形は盾役(タンク)一人、前衛の攻撃役(アタッカー)二人、後衛の攻撃役(アタッカー)二人、回復役(ヒーラー)一人だな。使用技能(スキル)も細かく決められるんだが……とりあえずは一般的な構成にしておいたぜ」


 表示された[960/1920]が意味するのは、利用料1920Gを港さんが半額支払った後、という状態だ。利用料をパーティないしレイドで割り勘となれば良心的なのかもしれないが、俺たちの場合は召喚士と召喚獣のパーティ。

 普通のパーティより、一人あたりの支払い額が多いのは金銭的ダメージがでかいな。


 俺が残りの960Gを支払うと、地にばら撒かれていた骨がカタカタと音を立てて動き出すのが見えた。

 六つの頭蓋骨がふわりと浮き、それを基とするように細かい骨が体を形作る。


「うし、こっちも戦闘態勢だ。俺とキングが相手の回復役(ヒーラー)を狙って動いて、ケビンとダリアちゃんが後衛から援護射撃。ダイキは部長ちゃんを守りつつ、前衛の攻撃役(アタッカー)を相手してもらう。部長ちゃんはできる限りの支援と回復よろしく!」


 港さんの素早い指示に従い陣形を作ると、間髪入れず、体の形成が終わった骸骨軍団が襲い掛かってきた。


 余裕のあるうちに、部長が随時味方に強化(バフ)と敵に弱体化(デバフ)を掛け、俺も鼓舞術とダリアとケビンへの野生解放を発動する。


 キングに野生解放を使わない理由として、彼の動きが速すぎるという点が挙がる。パーティ全員の回復と強化(バフ)に専念しなければならない部長は、港さんとキングの動きに合わせるだけでも精一杯だ。

 俺たちの戦力低下に繋がるため、ゆくゆくは召喚獣全てに野生解放を使うのが理想ではあるが……。


 後衛陣による、赤や黒や青や緑と、カラフルな魔法の応酬が始まり、骨を集合させた巨大な盾を構える盾役(タンク)と、骨の大剣を持った攻撃役(アタッカー)がこちらへ向かってきているのが見えた。


 すかさず盾役(タンク)に炎を纏う灼熱の盾による盾投擲(シールドロブ)を発動し、被弾した頭蓋骨を後方へと吹き飛ばす。

 盾投擲(シールドロブ)は正しく円盤型のブーメラン。左手から射出された盾は炎の尾を引きながら真っ直ぐ骸骨盾役(タンク)へと炸裂し、弧を描きながら元の左手に収まった。


 空中の敵にも対応できそうだな。技術者の心得が発動しない所を見るに、器用とは関係なく必中する攻撃なのか?


 ともあれ、あまり思考も重ねていられない。既に目前までたどり着いた大剣使いが、得物を振りかざしている。

 迫る大剣と灼熱の盾が交差するその刹那、盾弾き(シールドパリィ)が発動。その大剣を難なく弾き飛ばした俺は追撃へと転じる。


 下段に構えた剣が眩い青の光を放ち、骸骨の体をバキバキと穿ちながら切り上げられた。続く黄色い光の剣が、頭蓋骨から下までを一刀両断する勢いで振り下ろされ、ちょうど真ん中付近で止めた剣は赤の光を蓄え始める。


「――『赤の閃光剣(レッド・ライトソード)』」


 引き抜き、突き刺し。


 腕ごと頭蓋骨を突き抜けるようにして放たれた(アーツ)によって吹き飛ばされた骸骨は、天井から降下するように発動した、全てを滅ぼす破壊の炎によって、その身を光のポリゴンへと姿を変えた。

 ダリアの大いなる火炎(コロナ)は、単体技にも拘らず範囲が広い。頭部を無くした骸骨盾役(タンク)の体を巻き添いにし、盾役(タンク)のLPが七割近く削れていく。


 不意に、骸骨盾役(タンク)の体が淡い緑色の光に包まれたかと思えば、削れたLPが五割近く回復した。

 後方にいるローブを着た骸骨が、盾役(タンク)に骨の杖を向けているのが見える。


 回復役(ヒーラー)か。キングを相手にしつつ仲間への回復も行うとは、なかなか賢いAIを積んでいるな。


 俺の頭上にいる部長からもひっきりなしに回復魔法と分配の光が飛び、回復役(ヒーラー)の忙しさを物語っている。

 彼女にMP回復薬とSP回復薬を飲ませつつ、シンクロで二画面になった視界に目を慣らしていく。


 回復の終わった骸骨盾役(タンク)が、俺目掛けて(つち)を振りかざす。

 干渉を使い、左画面で盾役(タンク)へ物理防御弱体化と魔法防御弱体化の弱体化(デバフ)魔法を使いつつ、右画面で写る槌を咄嗟に剣弾き(ソードパリィ)にて迎え撃つ。


「っ!」


 弱体化(デバフ)は成功した。が、そちらに集中力が偏ったせいで剣弾き(ソードパリィ)の精度が落ち、槌によって剣が弾き飛ばされる。

 続く槌の薙ぎ払いを盾で防ぐも盾ごと左へ吹き飛ばされ、骸骨魔法使いによる氷の矢が二本、体に突き刺さる。


 LPの六割が減少するも、部長によって四割が即座に回復する。――しかし、部長も共に吹き飛ばされたために港さんとキングへの支援が遅れ、二人のLPが徐々に減っていく。


 骸骨盾役(タンク)の追撃も止まらない。


 体制が崩れたままの俺を、叩き潰すかのように振り下ろされる槌は紺色の光を放ち、何かの(アーツ)が乗っているのが容易に想像できた。

 二画面を、俺の視界一画面へと切り替え、目前に迫る槌に向かって盾を振り上げる。

 技術者の心得により光の拡大縮小がはじまり、タイミングを合わせて盾を槌にぶつけた。


 金属同士がぶつかり合う、激しい音と共に、骸骨盾役(タンク)の持つ槌が宙を舞う。

 後方からケビンとダリアによる闇属性魔法が交差し骸骨盾役(タンク)に炸裂。弾き(パリィ)による確定Critical(クリティカル)が頭上に並び、骸骨盾役(タンク)は崩れ落ちるように体を光の粒子に変えた。


 視線を移すと、骸骨魔法使いがダリアの炎によって、骸骨回復役(ヒーラー)が港さんの拳によって破壊されたのが見える。

 そして、戦闘終了を告げるように、目の前に再び半透明のプレートが現れ、そこに書かれていた獲得経験値の総数を確認した。


「とまあ、こんな感じだな。モンスターに積まれたAIは比較的に、合理的な動きをする個体が多いから、盾役(タンク)のダイキと回復役(ヒーラー)の部長のセットを狙う役割のモンスターがいたわけだ」


 開始早々、二匹のモンスターに狙われたからなあ。盾役(タンク)の挑発による妨害を使われていたら、更に戦闘はやり辛くなっていたに違いない。


 まだまだ余裕とばかりに腕を回す港さんと、先ほどの戦いの反省点や改善すべき点を話し合い。次の戦闘に向けての作戦を練り直していった。




 その後、二、三度の戦闘を終わらせた俺たちは、骸骨が散らばる不気味な部屋に腰掛け、しばしの休憩をとっていた。

 数字的には全回復している部長も、連戦による疲れか、いつも以上にぐったりしている。


『大丈夫か?』


『眼が回るー』


 俺のあぐらの中心に陣取るダリアの頭の上に、辛うじて乗っているような状態のまま、力なく答える部長。

 俺も干渉による酔いで多少やられている部分もあって、普段の戦闘以上の疲れが出ていた。


 そんな俺たちを気にかけてか、港さんが提案するように言う。


回復役(ヒーラー)は一番脳みそが忙しいとされる職だと公式が言ってる上に、そこに支援役(サポーター)の仕事も加わってるんだ。疲れるに決まってる。ダイキも、慣れない二画面で部長ちゃんの補助をしながら盾役(タンク)をこなすのは難しい」


 港さんは一呼吸置き、更に続ける。


「――しかし、一度慣れてしまえば相当なアドバンテージになる。休憩の時間を伸ばすから、なんとか物にしてくれ」


「最善を尽くします」


 俺自身、自覚している。部長が補助技も使いこなせるようになれば、他の回復役(ヒーラー)以上の働きが期待できる。

 俺のシンクロも自在に操れるようになれば、部長やダリアに切り替えながら戦う事も可能になる。


 妥協するわけにはいかない。



 休憩時間がてら、港さんと雑談を交わす。ぐったりとした部長を頭に乗せるダリアは、俺の元へ来たがっているキングに無言の圧を掛けて威嚇し、キングはクゥーンと、港さんの傍で恨めしそうに鼻を鳴らした。

 小さな死神のようにデフォルメされたケビンを眺めながら、会話は技能(スキル)の派生進化についての内容へと移っていく。


「片っ端から進化させたのか……まあ、それがセオリー通りだから特に失敗も成功もないんだが、派生進化してしまうと(アーツ)を覚える機会が遠のくんだよな」


「――それって、普通に失敗に入るんじゃないですか?」


 やってしまった。と、がっくり項垂れる俺に港さんがフォローを入れる。


「いやいや、派生進化するとそれでしか覚えられない(アーツ)も手に入るし、次の派生進化に早くたどり着けるという理由で、掲示板でもかなり議論されてる話題だ。――例えば格闘術で言うと、レベル30で《格闘術Ⅱ Lv.1》になるわけだが、格闘術をレベル50まで育てると《◯◯格闘術 Lv.1》に派生すると言われている。この◯◯は今まで使ってきた(アーツ)等に応じて変わるらしいな」


「やりこみ要素的な部分ですね」


「そうだな。まあ、俺も我慢できずに、片っ端から派生進化した口だからよ」


「なんか、想像できます」


 一頻り笑った後、再び戦闘を開始する俺たち。変則的な編成のパーティとも何度か対戦しつつ、主に俺と部長の鍛錬を重ねていく。


 トーナメントまでに、なんとかこの形を完成させたい所だな。

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