昆虫森林
港さんは俺とパーティを組んだ事により、俺の持つ技能である《統率者の心得》がステータスに反映されたのだ。
「……どうなってんだ?」
「あ、それ俺の技能の効果です」
驚いたような顔を浮かべステータスを見る港さんに、俺は迷宮イベントでの事を語る。
統率者の心得はブラック・ドラゴンを封印した報酬だ。もしかしたらレア度が高いのかもしれない。
「ステータスが1.2倍って相当ヤバいぞ」
「リスクとして、俺が死ぬと港さんを含むすべてのパーティメンバーが同時に死んでしまうんですけどね」
俺たちの場合、回復役である部長はもちろん死なせるわけにはいかないが、何よりも俺が死ぬ事を避けなければならない。
なにせ俺自身のステータスは上がっていないのだから。
「俺を除いたパーティの強化です。パーティメンバー1人につき効果は上がります」
その上、港さんの職業である《力の召喚士》はパーティの召喚獣全体に筋力10%アップのボーナスがつく。
つまりは、ダリア達召喚獣の筋力は素の値から30%上がっている事になる。
「こりゃあ、敵にしたくないな……」
港さんは顔を引きつらせながら、ステータス画面を閉じた。
あれこれ雑談を交わしながら昆虫森林に足を踏み入れた俺たちは、周囲に湧く昆虫型モンスター達のステータスを見る。
【セクト・スパイダー Lv.21】
【セクト・ソルジャーアント Lv.20】
【セクト・レディバグ Lv.22】
体長一メートル程の蜘蛛や蟻やてんとう虫が、獲物を探すかのようにフィールドを彷徨っている。
苦手な人にとっては、地獄絵図だろう。
召喚されたばかりの部長にとっては言うまでもなく格上だが、俺とダリアには適正値だ。
部長に関しては直接敵とやり合う役割、及び技能構成ではないから心配ないだろう。
パーティメンバーのレベルも見られるので、ついでに俺は港さん達のレベルも鑑定してみた。
【港 Lv.34】
【キング Lv.31】
【ケビン Lv.26】
――やはり強い。
俺たちよりもひと回りも上だな。これが最前線のレベル帯か……と、格上のステータスに気後れする自分がいた。
二体目の召喚獣であろうケビンも相当レベルを上げたのか、港さんやキングに追いつく勢いだ。
「あー、まずはダイキ達の戦い方ってのを観察させてくれ。俺はそれに合わせた立ち回りで動く事にする」
そう言いながら一歩引く港さん達。
とりあえずいつも通り、ダリアの火力に任せた一掃狩りだな。
ダリアがするすると地上に降り、部長がもぞもぞと俺の背中を登る。
……どうやら部長は戦闘でも自分の足で歩くのは嫌らしい。肥満へまっしぐらだな。
俺は鼓舞術での強化を掛け、ダリアに野生解放を使う。強化魔法の技能を持つ部長も何かしらのアクションを起こしてくれるかと思いきや、特に動きはない。
「『磁力盾』」
植物公園のモンスターより湧きは少ないものの、それでもかなりの数が跋扈している。
銀色の糸で盾と結ばれたモンスターの群れが、俺目掛けて押し寄せる。
俺を中心に巨大な炎の柱が天へと伸び、周囲のモンスター達が一瞬にして消し炭となり爆散する。
ダリアの魔力は強化やスキル効果、装備等で格段に上がっているため、このレベル帯では相手にならない。
火炎地獄が収まると、周囲には何も残っていなかった。
蟻一匹の生存も許さない圧倒的なまでの業火。
そして、ダリアの体が一瞬青色に光ったかと思えば、火炎地獄で減少したMPが即座に回復されているのが見えた。
視界横のパーティメンバーのゲージに目を移すと、部長のMPゲージが大きく減っているのが分かる。
……これがスキル《分配》の効果か。
ダリアと部長の総MP量の差はかなり大きいものの、部長も魔力の数値が高いため、後二回程度なら分配しても問題がないように思える。
「と、まあ、一撃で倒せる範囲で尚且つレベルの近いモンスターを俺が引き寄せてダリアが狩る。部長はサポートですが、この子はMPやSPの管理もできます」
港さんに向き直りながら、俺たちの狩り方を簡単に説明してみせる。
これがリザード達のように一体一体が強いモンスターになると、戦い方は変わってくるんだけど。
「……うん、予想以上だな。そして頭の上のでっかい鼠もかなり優秀じゃねえか」
俺たちの狩りを見守っていた港さんは、感心したような口ぶりで高い評価をくれた。
まあ、極限まで強化されたダリアの魔法は凶悪の一言に尽きるからな。火力面での心配は無いだろう。
今の戦闘だけで部長のレベルが六も上がり、MP等のパラメーターも順調に増えている。
回復魔法や支援魔法は使い続ければその分レベルが上がるだろうし、なんとしても蘇生の魔法は覚えてもらいたい。
その後、何度か同じ作業をした後、港さんの提案でもう一つ奥のエリアへと進む事になった。
ついでにそこにいるフィールドボスも倒すとの事だが……。
「適正はレベル30だが問題ないだろ。ここのボスは経験値が旨いからオススメなんだ」
一つエリアを移動しても港さんには余裕があるようだ。ともあれ、出てくるモンスターは形と名前は一緒だが、レベルが軒並み高い。
平均で28程度だろうか?
ちょっとハードだな。
「ここからは俺たちも参加する。見た所、でっかい鼠は回復役のようだし、回復は頼んだぞ」
港さんは俺たちの前に立つと、アイテムボックスから出した無骨な金属を腕と足に装着した。
彼の防具は殆どが布素材でできており、故に銀色の金属で作られたアームガードとレッグガードは非常に目立つ。
立ち込めるオーラは燃えるような赤。まるで野生解放の時のダリアのように、湯気とも煙ともとれないオーラに身を包んでいく。
猫のような大きさだったキングは元の体を取り戻し、機動力に特化したしなかやげ、引き締まった筋肉と大きな体躯を持つ獰猛な黒豹へと姿を変えた。
まるで蝶の鱗粉のように青と黒が混合する魔力を散らせ、異質な存在感を放つケビンがそれに並び、彼らの戦闘態勢が整う。
「『磁力盾』」
やる事は一緒だ。
港さん達が俺たちに動きを合わせてくれるのであれば、こちらはいつも通り、ダリアの火力でねじ伏せる。
集まってきた昆虫達はどれも皆格上。見える範囲で数は10匹程度。ダリアの周りにも赤と黒の魔力が散る。
――港さんが駆け、キングが続く。
俺が隼斬りを使ったレベルの速度でもって、寄ってきた蟻や蜂を粉砕していく。
体格のいい港さんの格闘術は迫力も然る事ながら、その一撃一撃が途方もない威力を孕んでいるのがわかる。
拳で打ち抜き、蹴りでへし折り。
キングの速度は更にそれを上回り、昆虫達はまるで反応できていない。発達した牙と爪で切り裂き砕く。
動くたびに迸る電撃が尾を引くように伸び、キングはそれを置き去りにするかの如く速度を上げていく。
ケビンとダリアは彼らが一撃で仕留め損なった昆虫達を的確に魔法で射抜いている。
「……」
俺はというと、定期的に磁力盾で敵釣りをしているものの前衛二人が速すぎてあまり効果を成していない。
時折、パーティメンバーの欄にある部長のMP・SPゲージを見ながら回復薬を与えているだけである。
できる事がないというのは、嬉しくもあり虚しくもあるな。
社内ニートならぬ、パーティニートと言うべきか。
ともあれ、港さん達が加わった事によりダリアの負担が減ったのは事実だし、討伐スピードも段違いだ。
これが、パーティプレイというものなのだろう。ソロよりも確実に効率がいい。
それから数十分、俺たちは徐々に奥へと進んでいきながら出現した敵を随時倒して回っている。
他のプレイヤーの敵まで取ってしまってないかと不安になる場面もあったが、流石は最前線と言った所か、港さんはネチケットもしっかり心得ているらしい。
経験値も着々と獲得できている。途中、部長のレベルが10を超えたのが見えたものの、姿を確認する暇なく戦闘が進んでいく。
「……っと、まあこんなもんだな。もう少し先に行くとフィールドボスがいる。これだけの火力があれば問題ないだろうな」
「俺、何もやれてないんですけど」
「たとえ直接的な貢献度は低くても、ダイキの強化技能と薬のサポートがあるからこその火力だろ? ていうか、そっちの召喚獣もかなりやるな」
港さんの顔に疲れの色は見えない。
走り回っていたキングも今は俺に体を擦り付けて甘えてくる余裕まである。
大きくなったら黒豹そのものなんだな、そりゃ町中で大きくできないよな。
そして瞬く間にレベルを上げ、現在レベル11となった部長だが、ほぼほぼ見た目上の変化が無い。
気持ち体が少しだけ大きくなったかどうか程度の変化だ。
けれども、進化は進化。
ステータスもかなり上がっている。
名前 部長
Lv 11
種族 魔鼠族
状態 野生解放
筋力__16[20]【36】
耐久__34[20]【54】
敏捷__16[20]【36】
器用__34[20]【54】
魔力__86[20]【106】
召喚者 ダイキ
親密度 13/100
※小数点第一位を切り上げ
野生解放の効果により、技を使うペースが速くなっていたものの、部長は俺の頭の上にいるから迅速に回復薬を与える事ができる。
仮にMP・SP切れを起こしても緊急睡眠が発動すれば問題はないが。
ともあれ、進化後の種族名は魔鼠族とあり、魔力が大幅に伸びているのがわかる。魔法職寄りの進化を遂げたのだろう。
ダリアもそうだったように、外見の変化はあまり大きくないらしい。
が、頭に掛かる重さが増えたのは気のせいではないと思う……。
技能
【回復魔法 Lv.2】【強化魔法 Lv.3】【弱体化魔法 Lv.2】【魔力強化 Lv.2】【魔力回復 Lv.3】【アイテム効果上昇 Lv.3】【分配 Lv.4】【回復魔法の心得 Lv.1】【支援魔法の心得 Lv.2】【緊急睡眠 Lv.1】
技能の方は、敵を倒して貰える経験値には関係しないためあまり育っていないような印象を受けるものの、ひっきりなしに使っていた分配のレベルが一番伸びているのがわかる。
ともあれ、こっちは部長に頑張って上げてもらう他はないな。




