大戦争イベント④
開始と同時に怒号にも似た雄叫びと共に、プレイヤーとNPC兵士達が一斉に駆け出した。
帝国側からもはるか遠くに砂煙が舞っており、本当に戦争に紛れてしまったような臨場感と緊張感を覚える。
『俺も完全にシンクロの会話に切り替えようと思う。俺の声が届かなきゃ不便だし』
シンクロによる会話は脳内にダイレクトに伝わるため、外がどれほど騒がしくてもハッキリと聞き取ることができる。俺も必要以上に声を張り上げずに済む。
初期地点に留まる俺達。
辺りにもちらほらと、何をやったらいいのか分かっていないプレイヤーの姿があった。
匿名1:いえーい見てる?
匿名13:殲滅!戦争!殲滅!戦争!
匿名28:9ngajtwm.jdjh.pkn.mgja
匿名980:無事死亡(x.102 y.40 z.906)
匿名6607:蘇生よろ〜
匿名56:機能しねえよこれww
匿名8144:敵もう拠点作ってるやん!!
匿名33:すまんトイレ放置
特設的に作られた〝戦争チャット〟には王国軍のプレイヤー達から膨大な量の文章が流れており、何か指示を飛ばす人こそいるが一瞬で流れて消えてしまう。
フレンド以外は匿名設定にしてアリスさん達の指示が飛んでくるのを待ってみるが、書き込んだことすら分からない状態だ。
単騎は危険とは言われたがそうするしかないだろう、これは……。
『闇雲に走って出会った敵を攻撃となると、かなり非効率的かと思います。なので、短期的な目標と長期的な目標を決めましょう』
ベリルの声が響く。
皆はそれに黙って頷いた。
俺達は単騎だが一つのパーティという軍隊であるため、個々で動いてる敵に対しては人数の上で有利を取れるが、目標か――。
俺は《空間認識の目》で戦場を上から俯瞰して見下ろす。周囲の戦況を把握しつつ、目標を決める。
『とりあえず誰かから明確な指示があるまでは、石像を自軍の拠点に変えるのを長期的な目標にしようか。で、その石像付近の敵を倒すのが短期的な目標ってことにしよう』
『了解しました。確保後は維持しますか? それとも次の石像に行きますか?』
『次の石像かな。待機してもその石像が本当に重要なものなのかよく分からないし、女神像以外は取るだけ取って次に行くのでいいと思う』
『了解しました。なら最短で座標x.1025 y.12 z.885の位置で両軍の小競り合いが確認できました。そこに向かいましょう』
『OK』
ベリルというもう一つの頭脳がいるお陰で、やるべき事をしっかり決めてから動き出すことができる――これも相手に統率が取れてないうちは召喚士が有利だろう。
『花蓮様の意見を参考にして、アルデお姉様の〝魔王術〟と〝固有技〟は温存にしましょう。戦う場面で敵国の兵士が多い場合はあっくんを、それ以外の場合はダリアお姉様とアルデお姉様を軸に作戦を組み立てます。攻撃があまり通じない場合は、完全蜃気楼もやむを得ないと思います』
『了解』
『了解!』
『わかった』
ダリアから順に返事をして、俺を先頭にして戦場を駆け出す――最も出番が多そうな青吉が俺の横を走っており、最後尾にベリルと《追撃システム》が飛んでいる。
『オハヨウゴザイマス』
『はいおはよう』
『キョウハ、ナンダカ、ニギヤカデスネ』
『戦争だもん』
『センソウ? カエッテモイイデスカ?』
二人のやり取りを聞きながら、
俺は前方に機械兵士の集団を見つけた。
黒い軍服のようなものを着たその人型は、胸に黄色い光を放つ球体と、のっぺりとした顔を見れば帝国兵だと一瞬で分かる。
それが恐らく20体以上――。
周りに数名の帝国プレイヤーもいる。
『青吉、行けるか?』
『任せて』
ベリルと部長からの強化を一手に受けた青吉は、両手を合わせるように狙いを定めた。
『《海竜の咆哮》』
合わせた両手の先から青の閃光が駆け抜けた――それは前方の帝国兵を次々と打ち上げてゆき、敵国プレイヤー数名を巻き込む形で炸裂した。
視界左上の〝個人ポイント〟が増える。
プレイヤーも倒したからかなり増えた。
「やっぱ水属性魔法の使い手来たな!」
「この時用に木属性で固めてるんだよ」
二人の敵国プレイヤーが躍り出た。
俺からの指示を待つことなく、青吉とダリアが入れ替わる――今度はダリアの足元から煌々と光る火炎が漏れ出ると、二人の顔が驚愕の色に染まる。
『《紅蓮龍弾》』
ダリアの体にまとわりつくように昇ってゆく二本の火柱が、標的を定めたように勢いよく飛んでゆく。二人組は植物の壁を作り出すも相性は抜群――そのままその場に倒れ伏した。




