クラスアップクエスト
職業案内所に着いた俺は、さっそく受付まで足を進める。召喚獣達も最年長ダリアを先頭にぞろぞろと付いてきている。
「こんにちは、本日はクラスチェンジですか? クラスアップですか?」
受付のお姉さんNPCがにこやかに言う。
視線はばっちり召喚獣達に向いていた。
今日は息抜きがてら、未消化だったクラスアップを行なってから、その後皆で遊びに行こうと考えていた。
行く場所はもう決めてある。
「はい、クラスアップで。どんなのがありますか?」
俺の言葉に受付嬢は「ダイキ様のクラスは……少々お待ちくださいませ」と、なにかの紙を取り出し、それを俺に渡してくる。
「これは?」
「紹介状です。これを持って風の町まで行ってください。そこで試験官が待っています」
試験官と聞き、自分の顔が強張るのを感じる。
最初のクラスアップとは違って、銀灰さんから言われたように、何かしらの試験をパスしなければならないようだ。
『食べ物?』
『ちがうぞ』
鼻息を荒くするダリアを宥めつつ、紙を受け取ったと同時に現れた半透明のプレートへと目を向ける。
【ジョブクエスト:存在愛たる召喚士へ】推奨Lv.60
英雄の墓前で紙をかざせ
報酬:???
恐ろしく簡素な内容だ。英雄の墓前に行かなければクエスト内容は分からないらしい。
『みられてる』
『おっと……』
青吉の目線の先へと視線を移すと、受付嬢が青吉の顔をじいっと見つめているのが見てとれた。
心なしか頬が赤いような……まさかな。
思い返せばラルフのいた孤児院でも、青吉は女の子にやたら人気があったように見えたが――この子、天性のモテ男なのかもしれない。
俺は足早に案内所を後にし、風の町へと向かった。
*****
「ダイキさん! わわわ、会うのが分かってればこんな服装で出かけなかったのに……」
「やあタリス。早々に知り合いに会えて嬉しいよ」
ポータルの光が弾けた直後、俺の存在に気付いた女性が駆け寄ってきた――風の町の期待の冒険者タリス、そして召喚獣のレヴィである。
体をすっぽり覆う薄汚れたマントのようなものを身につけ、その間から、しっかりと使い込まれた革製の鎧が見える。
たまたま会うにしては場所といいタイミングといい偶然過ぎるが、恐らくこれもジョブクエストのイベントの1つなのだろう。となれば話は早い、彼女を少しだけ頼るとしよう。
「ちょうどよかった。タリス、少し時間いいかな?」
「え? あ、何時間でも!」
「いやいや、ほんのちょっとで大丈夫だから」
不機嫌そうに俺たちを睨むダリアの視線をひしひしと感じながら、俺はタリスに英雄の墓の場所が知りたい旨を伝えた。
「えと、ウェアレス様の墓ですか? それならもちろん知っていますが……一体どんな要件で?」
「俺も詳しくは分かんないけど、そこへ行くことが俺の成長に繋がる気がするんだよ」
職業クエストで「墓の前に紙をかざせ」と言われた〜なんてタリスに通じるのか分からなかったので、適度に誤魔化しながら伝える。
タリスは一瞬、何かを考えるようなそぶりを見せたが、すぐに笑顔を見せ「こっちですよ」と案内を始めてくれた。俺はその後ろを召喚獣達の手を引きながらついて行く。
*****
英雄ウェアレスの墓はポータルから少し離れた場所に建ててあった。
祈るような形をした女性の像の下に、ウェアレスの名前と亡くなった日にちが刻まれており、周りには摘まれたばかりの花が沢山供えられている。
道中にベリルと青吉の紹介もしながら歩いてきたが、墓に着く頃にはすっかり打ち解けており、全員で仲良くレヴィの背中に乗って歌を歌っていた――レヴィ、流石に重かったろうに。
「お墓といっても、ここにウェアレス様のご遺体は無いそうです。英雄様のご遺体はすべて王都にあると言われています」
キャッキャとはしゃぐ召喚獣達をレヴィから下ろしながら、タリスが言う。
「王都か……」
「きっと手厚く埋葬されたんでしょうね。私が英雄になったら、埋葬はこの町がいいなぁ」
遠い目をしながら語るタリス。
冒険者という、死と隣り合わせの職業に就いている人たちは、彼女のような若さでも常に自分の死について考えているのだろうか……
少し寂しそうなタリスを見ていたら、自然とその頭に自分の手を乗せてしまっている事に気付く。
「そんな悲しい事言わないでくれよ。少なくとも、年上の俺より先に死なないでくれ」
頭を撫でたついでに励ましておこう。
完全に召喚獣達にやるノリが出てしまった。
タリスが動かなくなってしまっているので、俺はアイテムボックスから紹介状とやらを取り出し、クエスト内容にあったように墓の前でかざしてみた。
一陣の風が吹く――
『歓迎します、存在愛の召喚士様』




