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プレイヤー達の非公式イベント③

 

 異変が起こったのは、鬼ごっこの鬼に俺が抜擢され、逃げ惑う男性プレイヤーの一人をタッチした瞬間だった。

 警報に似た音と共に目の前にメッセージが表示され、注意を促すかのように点滅し始める。


『緊急クエスト発生! 英雄ウェアレスによる結界に歪みが生まれ、リザード族が町へと攻め込んできます! 放牧動物達を守りながら、リザード族を退けてください!』


 既に100じゃ利かなくなってきている人数にまで膨らんだ広場のプレイヤー達は、突然視界に現れたゲームメッセージに少なからず動揺を見せていた。

 召喚獣達も、主人を含めたプレイヤー達が一斉に立ち止まったことに疑問を覚えたのか、各々の主人の元へと近寄っていくのが見える。


「花蓮さん、このクエスト発生は……」


 和やかなムードから一変、突如として平和な町が慌ただしくなっていくのが遠目でも分かる。町の治安維持の為に存在する兵士NPC達も皆武器を取り、二箇所存在する町の出入り口へと視線を向けていた。

 自然な流れで花蓮さん達とも合流となり、俺の足元には三姉妹が神妙な面持ちで見上げてきている。


「稀にある“緊急クエスト”に間違いない、です。時間帯、期間内、そして町の中に存在するプレイヤーの数や種類等条件は様々ですが、これだけのプレイヤーが“ごく普通の日に”一様に集まったため何らかの条件を満たしたのかもしれません」


 まるで過去に経験があるかのような口ぶりで、動揺する様子を見せないまま推測を口にする花蓮さん。

 ごく普通の日、という部分を強調したのは、以前あった公式イベントである《冒険の町に発生したインフィニティ・ラビリンス》や、《石の町で開催されたトーナメント》等の“特別な日以外”という事を指しているのだろう。イベントのある日にプレイヤーが多く集まり、それに反応して緊急クエストが発生したら皆が混乱する事は間違いないだろう。

 もっとも、俺たちにとっては普通の日であったとしても、今日が“ゲーム世界の設定的に”特別な日であった可能性も考えられるが。

 しかしながら推測は推測でしかない。一つ分かる事は、花蓮さんは緊急クエストの発生条件について知っているものの、今回のクエストは初の経験だという事だ。

 一度状況を把握した後、改めて送られてきたクエスト内容を確認していく。




【緊急クエスト:リザード族襲撃】推奨Lv.30


 英雄ウェアレスの力を継ぐ異人が多く集まった事により、結界のバランスが崩れ歪みが発生しました。歪みを感じ取ったリザード族が食料調達のため牧場の動物達を狙っています。民と共闘し、リザード族を追い払いましょう。


※進行度が100%になったらクエスト失敗となり、経験値のみの獲得となります。ランクがAになった時点でクエストは終了します。終了後、町は元に戻ります。


※死んだ際、蘇る町は複数選択できます。これによる報酬の減少はありません。


※プレイヤー及びNPC、施設への攻撃判定はありません。


あなたの討伐数[0]

全体の討伐数[0]

リザード族の進行度[0%]

制限時間[14分46秒 / 15分]


現在の経験値[0]

現在の獲得G[0]

現在の達成ボーナス[ランクF]


ボーナスアイテム一覧

ランクA:安らぎの指輪

ランクB:リザード族の置物

ランクC:リザード族のお面

ランクD:獲得G+15000

ランクE:獲得G+10000

ランクF:獲得G+5000




 ざっと見た限りでは、これの失敗による町の崩壊等の効力は無いようだ。少々メタ的な説明文ではあるが、心配性の人への配慮と考えれば優しい注意書きだ。

 リザード族の目的は人族への攻撃ではなく略奪、それも放牧された動物達に絞られているみたいだな。俺たちが今いる広場の横には牧場が広がっているため、極論、今いるこの場所に居ればリザード族との戦闘に参加できると考えられる。

 数時間もの防衛となれば話は変わってくるが15分間と良心的な設定がされており、周りのプレイヤー達もミニイベントに参加する気持ちでやる気を見せている。隣にいる花蓮さん達も例外なく防衛に加わる様子。


 もう一度読み返しながら、画面に並ぶ“英雄”の二文字を指で叩く。この、ウェアレスって名前もピンと来ない。

 所々で聞く英雄ってのはどんな存在なんだろうか……というか、これもまたストーリークエストを進行していかなければ分からない部分なんだろうな。


 どんな顔をしていたのか自分でも分からなかったが、俺の視線が止まっている部分を見て察してくれたのか、花蓮さんが武器を装備しながらポツリポツリと語りだす。


「ゲーム内容に関して説明しますとウェアレスは英雄伝説に登場する女性の名前、です。彼女は“神話星座”の中で《使役獣座(しえきじゅうざ)》の意味を持ち、ます」


「神話星座ですか……そういえば以前、マイヤさん達とダンジョンに潜った後に星座の説明を聞いたような気がします」


「そうですか」


 花蓮さんは姫の王の名前を聞き少しだけ表情を曇らせるも、即座に元の表情へと変える。姫の王と会話した中で彼女が言っていた“あの女”というのは、もしかしたら花蓮さんを指していたのかもしれない。

 過去に何があったかはあえて聞く必要がないだろうと話を掘り下げず、花蓮さんが言う英雄の話について聞いてみる。


「英雄一人一人が星座になっている上に、その中でも名前があるんですか? 星座には一体どんな意味が――」


「……はい。例えばトーナメントが開催された石の町の英雄ノクスは《重士座》という……星を線で繋ぐと彼の愛用とする“大剣”の形になる星座、です。ここから読み取れるのが、彼は所謂攻撃役(アタッカー)の大剣使い・大斧使い等の“両手持ち物理用武器”をメインウェポンとする職のキーマンである、という設定、です。ストーリークエストの知識ですが」


 そう言って、花蓮さんは視線を風の町の出入り口の方へと向け、手に持つ杖を撫でた。


 確かに――レイドボスである剣王ノクスが使っていた武器は、現在アルデのメインウェポンとなっている《大剣》だ。ともすれば、ボスドロップ狙いでダンジョンアタックする際、待ち構える英雄達の設定上の装備を事前に調べていけば、それに沿ったアイテムがドロップする仕組みになっているのだと考えられる。

 ストーリークエストを進めて知っていこうと考えていた要素だが、この際だからと更に踏み込んだ部分を聞いていく。


「もしかして、英雄には装備だけでなく“職業”等の要素も絡んだりしますか?」


「鋭いですね。確かに、職業だけでなく全ての属性・種族にも関連した英雄が過去に存在しています」


 俺の問いに花蓮さんは一呼吸置いた後、考えるような素振りを見せながら語りだす。


「私なりに少し考察してみたのですが、今回の緊急クエストは異人……つまり“プレイヤー”がトリガーとなっていますから、英雄ウェアレスの人物設定として存在する得意属性の《風》、彼女の職の派生職として《召喚士・魔獣使い》、彼女の武器として《両手持ち魔法用武器》、彼女の種族として《亜人族・エルフ》の四つの要素のいずれか、です」


「今日のイベントは召喚士の交流会……つまり、真っ先に考えられるトリガーは《召喚士が一定数集まった》という事でしょうか?」


「概ね正解だと思います」


 並べられた情報から行き着いた俺の推測に対し、花蓮さんはコクリと頷いてみせる。

 俺たちの雑談が終わったのを待っていたかの如く、出入り口の方から怒号と悲鳴が同時に沸いた。

 視線をそちらへと向けると、二足歩行の人型のトカゲが武器片手に町の中へと進軍してきているのが見える。


「リザード族だ! 戦える者は武器を取れ!」

「な、なんて数だ!?」

「異人様が封じ込め、ウェアレス様の結界に守られていたのに……どうして」

「北と南、両方から流れてくるぞ! 司令塔を叩けば周りの兵士も一網打尽にできる!」


 いち早く動いたのはNPC達。焦った様子は隠し切れていないものの、即座に対応にあたる兵士達は流石だが、逃げ惑う町民NPCは、まるで信じられないといった表情を見せて戦闘に加わる様子はない。

 運営からの通知もあり、誰が指揮をとるでもなくプレイヤー達も戦闘に加わり出し、町のいたるところで戦闘が勃発していた。リザード族のレベルは15から30の間と非常に幅があるが、倒すのに苦労する敵ではない。


「俺たちも参戦しましょう」


「わかりました。では、北の出入り口の方へ加勢に向かいましょう」


 俺たちも向かおうか――と、三姉妹へ素早く指示を飛ばしながら武器を装備し芝を蹴る。彼女達全員での戦闘は久しぶりだ。

 先行する花蓮さんの斜め後ろを、元の姿に戻ったヘルヴォルが黄金の剣を抜きながら同じ速度で駆けていく。ウルティマは背負っていた大盾を左手に構え、右手にメイスを装備した。コーラルに遅れ風神雷神も加わり、戦乙女パーティが即座に集結する。

 試合では遠くから、或いはモニター越しからしか見られなかった花蓮さんたちの戦闘が近場で見られるのは素直に勉強になるだろう。


 部長は定位置だが、珍しく自分の足で駆けているダリアとアルデ。二人の歩幅は小さいから花蓮さんたちとの距離はどんどん離れていくものの、気にせずダリアとアルデに速度を合わせて足を進めていく。


「ごめんな、今日は一日遊ばせてやるつもりだったのに」


 鬼ごっこに関しては中途半端に終わってしまったし、突然発生した緊急クエストを憎らしくも思う。


『こういうのも好きだぞ!』


 腕を大きく振りながら楽しそうに駆けるアルデは、前方で繰り広げられる戦闘に目を向けながら上機嫌に応えてみせた。

 俺としても彼女だけまだ俺たちとレベル差があるため、経験値が獲得できるのは嬉しさ半分、けれど憎らしさも半分だ。


『食後の運動だねー』


 寛大な言葉でアルデに続く部長ではあるが、現在、俺の頭の上でのんびりしている者の発言じゃ無いような気もする。けれども、戦闘になれば回復に支援に忙しくなる、彼女の働きにも大いに期待している。


『終わったら ご飯 連れてって』


「まかせとけ」


 お安い御用だと答えてやると、アルデと部長も便乗するように慌てて声をあげた。勿論、除け者にするはずがない。

 そんなこんなで、いつでもブレない三姉妹に苦笑しながら戦火の中へと飛び込む俺たち。



 ――風の町防衛クエストが、始まった。

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