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長い一日

 

 目覚めた先は、控え室。


 トーナメントでは初めての死に戻りを経験した俺は、負けたという実感がイマイチ湧かぬまま、ぼやける視界で辺りを見渡した。


 静まり返る部屋


 無造作に転がるおもちゃ


 俺が死ぬということは、彼女達も同時に死んでしまう事に繋がる。

 それは統率者の心得を控えに入れたとしても、召喚士と召喚獣の関係上、避けられない事だ。

 

 だとしても、やはり心が痛む。

 気持ちが落ち込む。


「……ウジウジするな。俺がすべき事は、一刻も早い再召喚だ」


 自分に言い聞かせるように魔石を取り出し、この場で再召喚を行う。

 部屋を包む魔法陣と共に全部で11個の魔石が消え、三つの光が現れる。

 それぞれが形を成し、ダリア、部長、アルデが何事もなかったかのように再召喚された。


『ダリアが 勝ちそうだった のに』


『拙者が勝ちそうだったのに!』


『折角、寝てたのにー』


 再召喚早々、不満を露わにする三姉妹。

 遊びや睡眠を邪魔され憤っている……と、解釈するのが適当かもしれない。が、そこに隠された彼女達の本当の心理が見えてしまうのは、付き合いの長さ故か。

 必死になる彼女達に云うのもヤボだと、謝りながら三姉妹の頭を撫でる。


 すまないな、気を使ってもらって。


 まるで俺が負けたことも、そして自分達が巻き添えで死んだことも、気にしていないかのように振る舞う彼女達。

 年相応の不器用で可愛らしい気の使い方に苦笑しつつ、三姉妹を連れて控え室を後にする。

 明日の混合戦まで自由時間ができたことだし、暇させてた彼女達と散歩するのも悪くないだろう。




 しばらく適当な露店や見せ物らしき店を見て回ったり、声をかけてくれた人に対応しつつ、召喚獣達と散歩を満喫していた。

 部長が付けていたお面が欲しいだのと騒いだダリアとアルデのワガママに付き合うため、自分を含めた分のお面を購入する。


『ダリアの かわいい げこ』


『拙者のはカッコイイ!』


 カエルのお面を被るダリアと、狼のお面を被るアルデ。

 自分用に買った猿のお面もそうだが、アルデの被っていた骨と同じように、これらも頭装備の扱いにはならない特殊なアイテムということがわかった。

 ステータスアップも何もない、普通のお面だから当然といえば当然だが、これを被れば俺たちの存在をある程度誤魔化せる可能性がある。


『ごしゅじんの可愛いねー』


 明らかに馬鹿にした口調で云う部長にダリアが賛同し、アルデはケラケラと笑っている。

 確かに、何でも良いかなと選んだデザインは、デフォルメしたような少し間の抜けた顔の猿のお面。


『だって猿以外は虫しかなかったんだから、仕方ないだろ』


『いもむし 良かったのに』


 芋虫なんか付けられるか。

 なんで虫シリーズだけデフォルメせずリアルな作りしてるんだ。


 店を出していたプレイヤーの趣味が強すぎて虫シリーズが凝ったデザインと化したのは推測できたが、大量に売れ残っては本末転倒だろう。

 

 お面の効果が出たのか、俺たちに話しかけてくるプレイヤーは減り、のんびりと露店巡りをする事ができていた。

 食べ物類はあらかた食べ尽くしていたからか、三姉妹がおやつをねだる事もなく、遊び的な露店を重点的に回っていく。


「お! 兄ちゃん? 姉ちゃん? 分からんが、コレやってみない?」


 調子の良いエルフ族のお兄さんに声を掛けられ視線を向ける。

 そこには《型抜き》と書かれた看板と、数名の男女が針のような物で何かを削っている姿があった。


 型抜きか、懐かしいな。

 昔よく一人で祭りに行った時に必ずやっていた記憶がある。


 一回50G。

 お面の1/10の値段か。


「やりたいか?」

 

『やる』


『やりたい!』


『やりたいー』


 三姉妹も乗り気なのでお兄さんに人数分の料金を支払い、店の奥にあるボックス席へと腰を掛ける。

 受け取った針と四枚の型が入った紙をそれぞれに渡し広げていくと、目の前に《ルール説明》と書かれたプレートが出現した。

 そこにはやり方はもちろん、絵柄に合わせた賞金と難易度が書かれており、四人共違う絵柄の型という事が見て取れる。


「部長のが一番簡単なやつだ……って、何食べてるんだ?」


『あまりおいしくなーい』


 もはやルールを無視して型を食べだした部長。

 お面を後ろに回し、カピバラの素顔を晒しながらもくもくと口を動かしている。


 渡す前にある程度話しておけばよかったか……


 ダリアとアルデは型抜きのなんたるかを理解しているらしく、小さい針でチクチクと丁寧に削っている姿が見える。

 ポリポリと最後の一欠片を食べきった部長は『どういうゲームなのー?』と、首を傾げていた。


「じゃあ俺と一緒に型抜きしようか」


 部長が食べてしまった最初の型より少し難易度は上がるものの、型抜きさせずに終わらせてしまうのは可哀想だ。

 部長を膝の上に移動させ、支給された針を持たせてやる。

 器用に手を使って遊ぶ型抜きは、そもそも部長には難易度が高いと言わざるをえないが、それでも頑張って針を握り、削っていく姿は微笑ましい。

 鼻をヒクヒクと動かしながら『うーんと、うーんと……』と、悪戦苦闘している。


『むむ』


 半分程削ったところで、ダリアの型がパキリと割れる。

 削ろうとした矢先に割れてしまったのか、針を持ったまま思考停止状態となるダリア。


『あっ』


 ほぼ同時に、アルデの型も割れてしまったらしい。対面するように座っていた狼とカエルが、揃って思考停止しているのが見える。


「ほら、もうちょっとだ。頑張って」


『えーっと、ここを……』


 残ったのは部長の型。

 ぎこちない動きだが、とても丁寧に削れている。


 ――そして


「お!」


『んー?』


 最後の部分を削った所で目の前に再びプレートが出現。

 部長の型に決められていた賞金がジャラジャラと俺の所持金へと収まっていく。


『うわ! すごい!!』


『やったね』


 途中からハラハラした様子で見守っていた狼とカエルが同時に万歳してみせ、部長は嬉しそうに『ふふーん』と鼻を動かしていた。

 こんなに器用だったとは、意外な一面を見たな。


 部長の活躍もあって型抜きは黒字で終了し、三姉妹を定位置に装備し店を出る。

 初めてやったお祭りのゲームに興奮したのか、ダリアとアルデの“あれやりたいこれやりたい”が始まった。

 先程の型抜きで全ての力を使い果たしたのか、部長は頭の上で寝息を立てている。


 続く二軒目は定番中の定番である《金魚掬い》。

 しかしどうやら、魚は金魚だけでなく特殊なものも入っているらしく、まさにゲーム世界ならではの差別化だと言えよう。


「いらっしゃい!」


 頭にタオルを巻いた恰幅の良いドワーフ族のプレイヤーが店主らしく、広い水槽のような所に数名のプレイヤーが金魚掬いをしている姿が見える。

 中には明らかに大きさの違う、金魚とも言えない形のものも泳いでいるが……魔物とかじゃないだろうな?


「こんばんは。入ってる魚って、金魚だけじゃないってありますが」


「おう。俺が水の町付近で捕まえてきた魚達だ! とりあえず稚魚を厳選して捕まえたんだが、何になるかは知らん!」


 いいのかそれは。


「どうやって飼えばいいんですかね?」


「それは心配いらない。別売りの特殊な水槽に入れておけば、十メートル以下の魚まで飼うことができる! 餌は何かしらの骨を砕いた物をやればいい!」


 ふむ。なかなか考えられているもんだな。

 そして別売りとは抜け目ない商売魂。


「どうする?」


『やる』


『やりたい!』


 寝ている部長はやらないとして、今回はダリアとアルデの二人が挑戦となった。

 金魚掬いの料金である500Gを二人分払い、材料不明のポイのような物を受け取った。

 型抜きの時同様に、目の前にプレートが出現。金魚掬いのやり方をざっくり流し見しつつ、水槽の前でしゃがみこむ二人にレクチャーする。


「この紙が破れたら終わりだぞ。破れない限りは、何匹でも取れる。取った魚は器に入れるんだ」


『これは 燃える』


『あの子ちっこくて可愛い!』


 ポイを片手に闘志を燃やすダリアと、魚に興味津々のアルデ。

 二人共お面をずらし、素顔を晒して水槽を見つめている。

 一緒になって水槽の中を覗いてみると、体長5センチ程の小さい魚が優雅に泳いでいるのが見えた。

 やはりゲーム世界というだけあって、種類も何も分からない。そして色もカラフルだ。


 それにしても、水の町……か。

 冒険、風、石、草、砂、火、そして王都と、なんだかんだで色々な町を開放してきてはいるが、どうやら行っていない町もまだ残っているようだ。

 心当たりといえば、冒険の町から行ける西側はまだ探索していないんだったな。

 物理攻撃が効かない幽霊型モンスターが出てきて退散した記憶がある。

 今のダリアなら、そして魔法付属武器が使えるアルデも居れば、普通に攻略できそうだ。

 今後の予定として西側にチェックを入れつつ、召喚獣達の調子を確認していく。


 さっそく金魚掬いを開始するダリアは尾ひれの長い黒の魚に狙いを絞り、頭の方からゆっくりとポイを近付けていく。

 

 スカッ


 ポイが破れるでもなく、素早い動きで回避する魚。

 もしかして、個体によってはプレイヤー同様にステータス等があるのかもしれない。

 まさか魔法を使ってくるような魚がいるとは思えないが、敏捷や筋力はあるかもしれないな。


『てごわい』


 一度ポイを水中から出し、気難しそうに呟くダリア。

 小さな手から水が滴り、ポイを伝って水槽に落ちる。


『まってー!』


 アルデは初めから狙いをつけていた青色の魚を追いながら、ポイを並走させている。

 アルデの動きに耐えきれなくなったポイが、端から徐々に破れてきていた。

 口を出すのもヤボだと見守りつつ、再びダリアの方へと視線を向ける。


『やられた』


「あらら」


 少し悔しそうに、ポッカリと穴が空いたポイを見つめるダリア。

 こうなってしまうと、もう魚は取れないだろう。


「嬢ちゃん、残念だったなあ。嬢ちゃんが狙ってた黒いやつ、俺がやっても速くて捕まらねんだわ」


「水槽の主ですね」


『負けて 悔いなし』


 申し訳なさそうに頭を掻く店主の言葉に、ダリアはどこか満足そうに呟いた。

 水槽で一番手強い奴に負けた――それに満足したのかもしれない。


「アルデは……ダメだったか」


『うぅ……』


 両手を水槽の中に入れ、悲しそうに肩を落とすアルデ。

 ガラスの奥に映るポイは破れ、器の中に魚は居なかった。


「あー。嬢ちゃんもダメだったか」


『うぅ……あおきちぃ……』


「名前ももう決めてたのか」


 アルデは恨めしそうに水槽を眺め、既に飼う気満々だった魚の名前をか細く呟いた。

 悲壮感漂うその姿があまりに気の毒だったのか、店主の人が腰に括り付けていた網を取り出し、アルデの近くに腰を下ろす。


「嬢ちゃん。目当ての魚はどの子だったんだ?」


『あの子……』


 今にも泣きそうな声で指をさす先に、優雅に泳ぐ青色の魚が見えた。

 店主にはアルデの声が聞こえないのだが、指差す所にいた魚を見て伝わったのか、網で丁寧に魚を掬ってみせる。

 その光景にアルデが『え? うわぁ!』と、歓喜の声をあげ、自分の器に収まった魚を愛おしそうに見つめていた。


 店主が俺に視線を向ける。


「水槽は別料金だぜ」


「商売上手ですね」


 アルデの様子から“この客は買ってくれる”と確信したのか、店主は店の端に設けてある販売スペースに並ぶ水槽の方を指差した。

 俺の一言を店主は褒め言葉と受け取ったらしく、「たりめぇだ!」と、胸を張る。

 水槽の料金を見て思わず硬直する俺を、アルデが足元から涙目で見上げていた。


 これは……断れん。


「水槽お願いします」


「まいどー!」


 もはや俺が決めるより先に水槽を手にしていた店主が、水槽について軽く説明を付け加えてくる。

 魚のサイズに合わせて水槽も大きくなるらしく、どうやらオルさんの店や紅葉さんの簡易露店にも施してあった拡張機能が付いているようだ。

 魚のためとしては豪華な家ではあるが、アルデが喜んでいるから……まあ、いいか。


 店主は購入した水槽に水晶のような物を入れ、器に入っていた青い魚を丁寧に落とした。

 青い魚は水槽の中をしばらくクルクル回った後、落ち着いたように泳ぎ始める。


「一応インテリアとしてホームに飾るのが一番だが、ホームが無ければアイテムボックスにでも入れておいてくれ。魚は餌をやっていれば死なない」


「わかりました」


 営業スマイルをみせる店主から水槽を受け取り、べそをかいていたアルデにそれを差し出す。

 アルデは中の魚が“あおきち”である事に気付き、嬉しそうに水槽を見つめている。


「ちゃんと餌あげるんだぞ」


『うん! わぁ……』


 宝物を見つけたかのように喜ぶアルデは、キラキラと光る水槽に歓喜の声をあげ、抱くようにしてそれを受け取った。


 店主の商売上手に脱帽しつつ、俺たちは金魚掬いを後にする。

 ダリアも欲しがるかと思いきや、彼女は金魚掬いというゲームそのものを堪能できた事に満足しているようで、アルデを羨ましがる事はなかった。

 俺の腕の中で魚に話しかけるアルデに顔を綻ばせながら、再び露店巡りを開始する。


 その隣にあった露店にダリアが反応し『あれ やりたい』と頬をつついてきた。

 見ると、こちらも定番の《射的》が開かれており、銃らしきおもちゃがズラリと並んでいる。


 射的か……俺も何度か遊んだ記憶はあるが、これはイカサマの代名詞な気がするなあ。と、過去の苦い思い出を浮かべつつ露店へと歩いていく。

 お祭り仕様なのか、獣人アバターの女性プレイヤーが胸をサラシで巻いたスタイルで立っていた。

 俺たちが客だと分かるや否や、可愛い営業スマイルを見せて近付いてくる。


「っしゃぁーせー!」


 料金は一回300G。

 商品は何が良いものなのか見当もつかない。


「やるか?」


『うん』


『やるー!』


 ダリアとアルデが素早く手を上げ、俺は二人分の料金を支払う。

 気を利かせてくれた女店主が台を二つ用意してくれたお陰で、背の低い彼女達も机に届くような状態だ。


 銃の使い方は一般的な物と一緒で弾は殺傷性のない物。5発だけ入っており、撃ち切った段階で終了となるらしい。

 銃というものを見た事のない召喚獣達に持ち方や遊び方を教えてやり、後は彼女達に委ねて見守る。アルデに渡された水槽を持ちつつ、二人の後ろに立つ。


 ポコン!


「あら、すごい! お姉ちゃん、上手だねえ!」


 第一射目にして景品を獲得したのはダリア。

 景品の詳細が目の前にプレートとして現れ、俺のアイテムボックスに収まる。


 中身は一時的に筋力が上がる棒付きの飴。

 味はイチゴ味らしい。


『むずかしい』


『当たらない……』


 あっという間に全弾終わらせてしまった二人が、しょんぼりした雰囲気で戻ってきた。

 ダリアに景品としてゲットした飴を渡しながら店主に礼を言い、射的屋を後にする。



 ――19時半か。結構遊んだな。



 視界の隅に表示された時計に目を向けながら、そろそろ帰るかとコロシアムの方へと足を向ける。

 型抜きで疲れて寝てしまった部長は分からないが、ダリアもアルデもかなり満足した様子。


「兄ちゃん兄ちゃん! ちょっとやってかない?」


 ――と、不意に声を掛けられそちらへ顔を向けると、笑みを浮かべた竜人族の男性プレイヤーが自身の店の看板を指差し、アピールしているのが見えた。

 視線を上へと移動すると、そこには《くじ引き》と書かれていた。


 最後にやっていくか


「これやったら帰るか」


『うん』


『わかったー!』


 俺の言葉に店主は反応し、上機嫌で店へと案内してみせる。

 そこにあったのは大きめのモニター。表示されているのは、何十個も並ぶ宝物のようなイラスト。


「一回300Gだよ! この中の宝物を一つ押して、出た数字に応じて景品が出る!」


 金色の眼を無邪気に細める店主の声と同時に、表示されたプレートには数字と景品がズラリと並んでいた。

 アイテムの価値がイマイチ分からないが、上から一等、三等、五等、六等などなど、結構良い景品が残っているようだ。

 とりあえず店主に二人分の料金を支払い、二人を店の前に降ろし、俺は景品へと視線を移した。


 一等 ヴァーミリオン・リング

 二等 マキシマム・ブレード[出ました]

 三等 スキル取得券

 四等 竜の鱗[出ました]

 五等 銀のインゴット×5

 六等 鉱石詰め合わせ


 まず、三等に見知った《スキル取得券》がある事に驚いた。

 この券の価値はなんとなく理解しているつもりだが、それだけにスキル取得券より価値のある位置に存在する一等と二等がかなり気になる。

 既に二等は当選してしまっているが、一等のヴァーミリオン・リングとやらは未だ当選者が居ない。

 姫の王のギルドメンバーなら、出るまでくじ引きし続けそうだな。


 カランカラン! カランカラン!


 あれこれ思考している間に、店主が驚いたような表情で何かを鳴らしているのが見えた。

 店の前では、口の中で飴をコロコロと転がすダリアが、宝物を押した状態で店主の顔を見上げている。

 黒髪をボリボリと掻きながら“やられた”と言わんばかりに苦笑いを浮かべる店主。


「いや……まさか一等が出るとは。流石は幼女神様だ!」


 側頭部にお面を付けていたからか、店主にダリアの正体がバレていた。

 途端に辺りにいたプレイヤーが騒ぎを聞きつけ、こちらに集まってきている。


『拙者は伸びる剣だった!』


「アルデも良いもの貰ったな」


 明らかにハズレである、安っぽい作りの剣を満足気に持っているアルデの頭を撫でながら、一等を当てたダリアへと視線を向ける。


「お前は本当に運が強いな。もしカジノでもあったら、大金持ちになれる才能があるぞ」


『お金 興味ない』


 心なしかドヤ顔気味に顔を向けてくるダリアも撫でてやっていると、店主が誇らしげに景品を渡してきた。

 ダリアがそれを受け取ると同時に、ヴァーミリオン・リングの詳細が表示される。




【ヴァーミリオン・リング】#初個体撃破報酬


竜の洞窟に住まう赤竜ヴァーミリオンの力が宿ったリング。かつての英雄ローランドは、この洞窟で見つけた赤竜の鱗を使って鎧を作り、強大なる魔物との最後の戦いに赴いたと言われている。


筋力+45

耐久+45

敏捷+45

器用+45

魔力+45

竜属性魔法効果アップ

竜属性耐性効果アップ


セットボーナス

[ヴァーミリオンシリーズ四つ以上で全能力+15]


分類:指装備




 ……これは、かなり強い。初個体撃破報酬なら納得の強さだが、それにしても強い。

 試練の洞窟に行く途中に港さんが言っていた推奨レベル70以上の《竜の渓谷》。

 もしかしたら、その付近で入手できる代物な可能性がある。


「い、いいんですか? こんな高価そうなもの」


「気にすんな! 一ヶ月記念の祭りなんだから! それに、幼女神様が一等を当てたとなれば俺の店にも箔がつく!」


 店主は当てられたショックなど微塵も見せず、寧ろ感謝するような表情でダリアを見て言った。

 当てた本人はリングの価値がよくわかっていないのか、食べ物じゃないと分かるや否や、残念そうな雰囲気を全面に醸し出している。


 ――剣王の墓でも見たが、恐ろしい強運だ。


「では有難く貰っておきます。ありがとうございます」


「おう、またよろしく!」


 こんな高級そうな装備をどこで手に入れたのか気になったものの、聞くだけヤボだと心に仕舞い、店主へ手を振り店を後にした。

 景品であるヴァーミリオン・リングは、くじ引きしたダリアへと装備してやる。


「今日は宿屋行って終わりだな」


『うん』


『青吉! 帰ったらご飯あげるからな!』


 その後、石の町の宿屋へと向かい一度ログアウトした俺は、家事を終わらせ再びログイン。

 キングサイズのベッドに三人娘を寝かしつけ、長い一日を終了したのだった。

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