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不思議の国のらいおっとくん(20)

突発的に、なんか変なネタが降ってわきまして。

思い付きで書いてしまいました……。



 頭上、空を飛び交う折り紙付きの危険性で知られる飛竜の群れ。

 周囲を取り囲む、暗紫色のどぎつく濃厚な瘴気……いや、魔力か? 計り知れない魔力を漂わせる、異様な動植物群………………なんなんだここは。


 目が覚めたら、俺は異常n……不思議な場所にいた。


 何故か、青いエプロンドレス姿で。


 なんだ……!? 寝ている間の俺に何があった!?

 眠る前の記憶を遡ろうとしても、何故かどうしても思い出せなかった。

 ただこの場に、見た覚えもない景色の中で眠っていたという事実だけが残る。

 なんで俺は、老婆の顔が生えた人面樹の根元でなんて眠っていたんだ。

 というかなんなんだ!? この木なんの木呪いの木!?

「ひぇっひぇっひぇ、お目覚めかえ?」

「喋った!?」

「そりゃあ喋るさね。こんな立派な口がついているんじゃからな」

「いや、口があれば喋って当然というのは一種の暴論のような……」

 珍妙な樹木(?)を前に、俺は困惑した。

 何よりも、驚きの程度が『困惑』で済んでいる自分に困惑した。

 何故だ、何故こんな異常植物に遭遇して俺は平常心でいられるんだ……!?

 自分の感情の薄さにびっくりだ。

「ひぇっけっけっけっけ、さてさて目覚めたんならコレを渡してやろうかねぇ。あんた宛にあずかりものだよ」

「預り物?」

 こんな珍妙植物に、いったい誰が何を託したというのか。

 しかも宛先が俺、とは……戸惑いながらも受け取ったのは、一枚の便箋で。

 そこにはでかでかと、こう書かれていた。


 『指令:【時計】を持った【白兎】を追いかけて下さい!』


「……ウサギ? いや、兎は時計を持ったりできないだろ」

 思わず、唸りながら考える。

 これは何かの符丁だろうか、暗号か。

 考える俺に、喋る木が枝をわさわさ彼方に向けながら呼びかけてきた。

「ああ、ほらアレだよ! あれがあんたの追いかけるべき【白兎】さね!」

「なに?」

 促されて、そちらに目をやると。

 そこには得体のしれない緑の物体がいた。


 より具体的に言うと、二足歩行の足が生えた巨大なアスパラガスがいた。


 見た瞬間、俺は思わず叫んでいた。

「どっからどう見ても兎じゃないだろオイぃぃいいいいいいいいっ!!」

 取ってつけたように生やした兎耳……いや、生えてないな。

 適当に固定された、兎耳のカチューシャが小憎たらしい。

 認めたくはないが、どうやらアレが【白兎】ということのようだ。

 白い要素ひとつもないけどな! 兎要素もカチューシャだけだけどな!!

 あれを白兎とは……思いたくない!

 というか追いかけたくない!

 この指令と書かれた紙が一体何で、何のつもりかは知らないが!

 あの【白兎】とかいう……よくわからない妖怪(?)を見た後では微塵も従う気が湧かない。


 だが、物事はどうやら優しく事を運んではくれないようだ。

 俺に、従わないという余地を残してはくれなかったんだから。


 ちなみにアレが時計だよ、と。

 しわがれた老婆のような声で木がのほほんと言う。

 ちっく、たっく、そんな音を刻みながら白兎(アスパラ)に抱えられているのは……嘘だろう。

 いや、本当に嘘だろう???

 なんでお前が、そんなところにいるんだ……アディオン!

「どうしてそんなことになったんだ、アディオン!?」

 指令に記されていた【時計】、とは。

 何がどうなってそうなったのかは謎だが……アスパラの小脇(?)に抱えられて運ばれる……アディオンだった。

 

 本当に、何がどうなってそうなったのかは考えたくもないが。

 この何もかもが意味不明でよくわからない状況下……そこにアディオンまでも巻き込まれていると、いうのなら。

 俺が助けない訳にはいかない。


 待っていてくれ、アディオン。

 一刻も早く、アスパラの小脇(そこ)から助け出してやるからな……!


 そうして俺は、走り始めた。

 予想外に綺麗なフォームで、俺の想定以上の速度で走る【白兎(アスパラ)】を、捕獲する為に。

 アスパラの足が速すぎて、脇目もふらずの全力疾走を強いられた。

 お前、野菜のくせに足早すぎないか!? そんな取ってつけたような足をしている癖に……!




   ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆




「なんかよくわからんが、勇者のヤツどうしたんだ? 反応がなんかいつもよりマイルドじゃね?」

「それが……実は、ギガントガーゴイルのポマトさんが夫婦喧嘩で投球したオリハルコンの女神像が、勇者様の頭部に命中して」

「……よく無事だったな? って勇者なら死なねぇか。見たとこ、怪我もしてねえし」

「それが、怪我はしたんですよ」

「はっ!? 怪我したのか!? 勇者が!?」

「ええ、見事なたんこぶが」

「たんこぶで済んだのか……やっぱ勇者だな」

「ですが当たり所が悪かったみたいで……」

「ん?」

「三年分くらいの記憶があやふやになっちゃったみたいなんですよね!」

「おいおい大丈夫か、それ」

「まだ記憶が混乱しまくってるみたいで、頑張って『勇者様の現在』を説明しても頭に入らないみたいで。だったらいっそのこと、魔境らしさ詰合せでいろんな物事にぶち当たって体で魔境のことを覚えてもらおうかな、と思いまして。あわよくばその最中に思い出さないかなぁと」

「いきなり慣らしもせずそんな目に遭わせて発狂しねーか?」

「勇者様のメンタルならきっと大丈夫です! それに記憶は曖昧になっても、今までの体験で鍛えられたあれこれが蓄積されているはずですから!」

「ああ、そうだな。勇者だしなぁ」

「という訳でまぁちゃんにも参加してもらって良いかな! 勇者様に思いっきり全力で『魔境らしさ』体験してもらいましょう♪」

「ほほう、色々衣装があるみてーだな」

「せっかくだから遊び心をどばどば追加して、私達も楽しみたいじゃないですか☆」

「ま、楽しいなら俺は異論ねえよ。勇者がんばれ」


 という訳で、脳天強打して記憶混乱中の勇者様に新たなる受難発生の模様。

 勇者様がんばれ。超がんばれ。






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