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冒険者ごっこ 4

冒険者ギルドで冒険者(ごろつき)に絡まれる、ネタをやってみたらこうなりました。



 るんたったー♪ るんたったー♪

 のんびり歩いて辿り着きましたるは冒険者ギルド!

 何するところかよくわかりませんけど、一応は目的地!

 なのでちょっとだけ気持ちを改めて、立ち入る前に自分とせっちゃんの身嗜みを再確認です。

 冒険者ギルドとかいう建物自体は、万民welcomeみたいな立入自由っぽい雰囲気の建物だったけど。

 だからといって、こちらの気構えまで安くして良いとは限りませんから。


 私はいつもの村娘ドレスに、遠出には違いないので外套代わりに赤いフード付きロングケープ。

 そして腕には林g……バナナの詰まった(バスケット)

 せっちゃんは野遊び用の標準的な格好をしています。

 即ち、私の母が手直しした私のおさがりです。今日のせっちゃんは村娘風です。

 加えて私とお揃い色違いの、紺色のフード付きロングケープ。

 そしてやはり腕には、林g……バナナの詰まった(バスケット)

 うん、おかしいところは特にありませんね!

 身嗜みの確認は要らなかったかもしれません。どこも乱れてないし、特に汚れてもいません。

 

 特におかしいところがないことに満足して、私は深く頷きました。

 さあ、いざ突撃です。

 

「ごめんくっださーい!」

「くださいですのー!」


 まずはしっかりはっきりご挨拶!

 何事も最初の挨拶が肝心です。

 バーンっと開け放った扉の向こうに、顔面に種々様々な傷のある屈強なおじさん達がたむろしていて。

 一斉に、私達の方に目を向けました。

 わあ、場違い感半端ない。


  → ”妙齢の赤ずきん(リアンカ)”があらわれた!

    ”可憐な紺ずきん(せっちゃん)”があらわれた!

    冒険者ギルドの空気がかたまった!


 なんだかギルドの皆さんの反応がありません。これは滑りましたかね?

 でも滑ろうが外そうが、問題はないでしょう。

 取敢えず、目的を達成してみましょう。

 どこでどうすれば良いのかな、とちょっと悩みますが……

 室内を見回すと、受付窓口みたいな場所があるようです。

 それ以外の場所はおじさん達が好きに(たむろ)出来る空間のようですし。

 多分ギルド職員側とやり取りするのは窓口で、ということなのでしょう。

 私はせっちゃんと仲良くおててを繋いで、窓口へと進み出ます。

 ……あれ? なんででしょう。

 既に何人かの人の列ができていたのに、私とせっちゃんが近寄ると皆さんがすすすっと前を空けてくれました。列に並ばなくって良いんですか、私達???

 私達が前を譲るよう、強要した訳じゃありませんし。

 皆さん、自主的に順番を譲ってくれたんですから、後で難癖つけられることもありませんよね?

 誰からも文句が無さそうなことを目で確認して、私達は窓口のおばさんのところまで進みました。

「おはようございます」

「おはようですの!」

「おはようございます……きょ、今日はご依頼ですか? お嬢ちゃんたち……」

「あ、いえ。冒険者ってやつになりに来たんですけど」

「!!?」

 おや? 窓口のおばさんが目を剥きましたよ?

 ざわっと、ギルドで冬眠明けの熊みたいにうろうろしているおじさん達からも動揺が広がる気配がします。言葉にするなら『マジかよ!?』みたいな感じの気配です。

「ほ、本気ですか?」

 何故か窓口のおばさんが、私とせっちゃんの全身を上から下までまじまじと見回しながら、意思の確認を厳重に重ねてきます。何度も何度も「本当に?」という意味の言葉を重ねられ、それに私もまた「本当です」と重ねていきます。

 すると、何故か私達の後方から。

 げははははっ! と嘲笑交じりの笑い声が向けられてきました。


「おいおい嬢ちゃん達、冷やかしでももっとマシなこと言うだろ! 冒険者ギルドってのは女子供の遊び場じゃねーんだぜ? 遊んでほしいってぇんなら、俺と遊ぼうじゃねえか」


 後方、笑い声の主を確認します。

 そこにいたのはむくつけき大男ってやつですね。

 全身、体毛が濃ゆい濃ゆい。しかもあまり体を洗っていないのか、不潔なニオイが……

 しかもこのオジサン、処理の甘そうな熊の毛皮を着ています。

 獣臭が取れていませんね……うちの村の若い衆でも、もっとマシな処理しますよ。

 ちょっと私の周囲にはいなかった部類のおじさんです。

 村じゃ不潔にしているとお嫁さんに怒られて、強制的に頭から消臭剤ぶっかけられますからね。そんな憂き目に遭わないよう、おじさん達も最低限の身なりに気を遣うのが当然でしたから。

 この熊毛皮のおじさんは、頭から消臭剤をぶっかけてくれるお嫁さんがいないんでしょうね。

 私が観察の末、生ぬるい眼差しになった頃。

 おじさんの前には軽い足取りでとことことせっちゃんが近寄っていました。

「お? なんだぁ、嬢ちゃんから先に遊んでほしいのかよ。俺としちゃ、どうせなら肉付きの良いもう1人の方が……」

「遊んでくださいますの? 嬉しいですのー!」

「……お?」

 絶対におじさんの言う『遊び』の意味が分かっていない、せっちゃん。

 可憐な彼女は小さな両手で自分の頬を押さえ、本気で嬉しそうにしています。

 うんうん、最近、『お友達』が思いっきり遊びたがってるみたいだって言っていましたもんね。

「ぜひぜひ! 遊んで下さいですの。せっちゃんのお友達も喜んでいますのー」

「は……っうお゛わ゛ぁ゛!?」

 おっさんが、潰れた悲鳴を上げました。

 無理もありません。

 冒険者ギルドの床に落ちるせっちゃんの影が、一瞬大きく揺らめいたかと思うと……そこから、蠢くナニかが飛び出したのですから。飛び出したナニかは……って本当にアレ、なんでしょうね?

 私も初めて見ます。せっちゃんのお友達は、大体把握していると思っていたのに。

 影から飛び出たソレは触手ばかりで全容を明らかにしません。

 ですが触手だけでも見たことの無い異形だと断言できる、独特の姿をしていました。

 実体の不確かな、水に落とした墨の一滴みたいに朧に滲んだ不定形の触手。

 それはタコや烏賊の如何にも触手! という部類のモノではなく、まさに『影』が実体化したかのよう。

 しかもそこから吸盤の様に、いえ、アレは吸盤の代わりなのでしょうか?

 とにかく『影の触手』からは吸盤のように無数の『手』が生えていました。

 人間のモノのように見えるけれど、生きている人間にはありえない青白さの、てのひらが。

 びっしりと生えた『てのひら』にしがみ付かれ、掴まれて。

 更には『触手』を巻き付けられて、おっさんの脛は完全に触手で見えなくなっています。

「ひ、ひいいいいいいぃぃぃっ!!?」

 おっさん、大絶叫。

 浮気現場に嫁が突入してきたかのような動転顕わな悲鳴です。

「せっちゃん、せっちゃん」

「はいですの、リャン姉様!」

「あんな子、せっちゃんのお友達にいた? 初めて見ると思うんだけど」

「あの子ですの? あの子はレモンちゃんとシュクレちゃんの赤ちゃんですの! ふたりとも、気が合っちゃったとかでいつの間にか結婚していましたのー」

「赤ちゃん……? レモンちゃんと、シュクレちゃんの?」

 どっちも、せっちゃんの影で飼われているバケモノです。

 ええ、それはもう化物中の化物と呼んで差し支えないバケモノです。

 その二匹の子と言われると納得いくような、いかないような……そうですか、あの二匹が混ざるとあんなのが生まれるんですね……?

「すくすく育って、最近、シュクレちゃんがお外に出ても良いですのって」

「ほうほう」

 種類の違う異形同士の子供なので、どうやら存在が不安定だったとかで。

 ある程度育つまではせっちゃんの影の中で自粛させられていた存在のようです。

 それが最近になって、父親(シュクレ)が外に出ても大丈夫と許可したそうな。

 ずっとせっちゃんの影の中で育ち、お外に出たことの無い新種の化物は大喜び。

 外に出られる機会を今か今かと待ち望み、大張り切りだったそうな。

 それが、アレ。

「ちなみにお名前は?」

「シュクレちゃんがお名前を考え中ですの」

「あの海洋生物が付けるのか……」

「第一候補は『マリアン』、第二候補は『エリザベート』だそうですの」

「あれメスなんですね」

 私とせっちゃんが、『はじめてのお外』に大はしゃぎの異形を見守りながら呑気に世間話をしている間にも、冒険者ギルド内には野太い悲鳴が大合唱です。

 いつの間にかオッサンは宙吊りにされ、ギルド内の広い空間をぶんぶん振り回されています。

 お気に入りの噛む玩具をぶんぶん振り回す子犬みたいですね。

 その周囲を取り囲むのは、若干腰の引けているオッサンたち。

 手に手に武器を握っていますが、捕獲されているオッサンが縦横無尽に振り回されるので手を出しあぐねているようです。こうやって見ると無関係の相手には手を出していない分、あの触手は分別の有る良い子に育っているみたいですね。ただ限られた室内という空間で振り回し系のやんちゃは周囲の迷惑になるので、後でちょっと注意した方が良いかもしれません。

 そうこうする内に、何故か私達までちょっとへっぴり腰のおじさん達に囲まれています。

「どうしたんですか?」

「いやどうしたもこうしたもねえだろうが! 早くやめさせろ!」

「なんだよアレ! お前ら、悪魔の使いか!?」

「そんな……っ私はともかく、こんな可憐なせっちゃんを悪魔の使いだなんて! おじさん達の目は腐ってるんですか!? あのおじさんが遊んでくれるって言うから、遊んでもらっているだけなのに!」

「いやそっちの女の子があの化け物の宿主だろ!? 悪m……可愛いな」

「せっちゃん、何か悪いことをしてしまいましたの……? せっちゃん、悪い子ですの? せっちゃんのお友達も、悪い子ですの……?」

「そんな! せっちゃんは悪い子なんかじゃありませんよ! せっちゃん? せっちゃんは良い子よ?」

「うぅ……リャン姉様ぁ」

「……うっ胸が! 胸に激痛が!」

「なんだこの痛み……罪悪感!?」

「いやいや待てお前ら。悪魔に騙されるn……」

「お前もこの子をちゃんと見て、悪魔だって言えるのか!?」

「………………可愛いな」

「「「だろう!?」」」

「……ザクの奴は、アレだな。うん。前から困ったヤツではあったが」

「そうだな。うん。自分から遊んでやるって言ったんだもんな」

「そうだそうだ。うん、そうだ。そうに違いない」

「遊んでるっていうなら、アレも問題はないだろ。よし無害だ」

「よし、放っておこう」

 せっちゃんは可愛い!

 その可愛さはどうやら異世界でも共通のようです。

 私はおじさん達と分かり合えた喜びに握手を交わし、ザクと呼ばれた宙吊りのおじさんは怨嗟の叫びを上げました。





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