冒険者ごっこ 2
さてさて、勇者様が持ち帰ってきた不思議な話題『冒険者』。
やけに悪魔のヤマダさんが拘りを見せていたという時点で、ネタ臭が漂っています。
その話をまぁちゃんに教えてみたところ、
「ほほう?」
なんだかとってもあくどいニヤリ顔で、興味深そうに首を傾げていました。
……うん、面白そうなことになりそうですね!
そして、翌日。
まぁちゃんは勇者様の腕を掴んで引っ張り込みました。
足元に広がる円陣……まぁちゃんの魔力でキラキラと怪し気に輝く、輪の中へと。
ちなみに私とせっちゃんは既に準備万端で円の中です。
「ちょ、まぁ殿!?」
「一名様ごあんなーい」
まぁちゃんが棒読み口調で指をパチンと鳴らした瞬間。
足元の円陣から、光が垂直に噴き出しました。
まるで光のカーテンですね。
世界と私達を隔てて囲うような輝く壁。
~五分後~
細かく何があったかは割愛しますが紆余曲折を経て、足元の円陣が掻き消えます。
目の前に広がる光景は、さっきまでとは違う景色。そう、別世界でした。
文字通りの意味で。
「ここは何処だ!?」
真っ青なお顔でぶつぶつ呟いていた勇者様も、景色が文字通り様変わりしていることに気付いたのでしょう。目を丸くして驚愕の声を上げています。
私達が立っていたのは、全く見知らぬ、異文化臭の漂う街の前でした。
たった五分でここまで景色が様変わりしたことに勇者様がパカンと口を開けています。
「な、何がどうして……って、まぁ殿の仕業か!」
「そうだな、俺だ」
まぁちゃんの力で、私達は遠いどこかに移動した訳です。
さてさて勇者様に問題です。
――ここはどこでしょう?
勇者様は考えてもわからなかったのか、困り果てたお顔で。
まぁちゃんの襟を掴んでがっくがっくと揺すりながら混乱に満ちた叫びを上げました。
「まぁ殿ぉぉおおおっ!! ここは一体どこなんだ!? 俺達をどこに連れてきたんだ!」
「は? 異世界だけど?」
「い、いせ……?」
「異なる世界。つまりは俺達の住んでた場所とは違う成り立ちの、俺達の知らない経緯で爆誕した別の世界ってやつな」
「えーと………………下界と天界、のようなものか?」
「違うぜ? 天界は、厳密にいえば俺達の世界と同じ世界の中に組み込まれていた、ちょっとズレた場所に存在するお隣さんみてーなもんだ。天界も魔境も人間の国々も、ついでに地獄も、全部ひっくるめて同じ大きな世界の中に存在してた。けどここはその世界の外にある、別の世界ってやつな」
「よくわからないんだが……俺には計り知れないほど、天界よりも遠くに存在する場所ということか?」
「まあ、そんな感じか?」
「それで、なんで俺達はそんな場所に連れて来られているんだ」
「あ? お前、俺の話聞ーてなかったのかよ。冒険者ごっこするぞ! っつったろ」
「それでなんで俺達はそんな場所に連れて来られているんだ!?」
「馬っ鹿、お前、俺達もう子供じゃねーんだぜ? ごっこ遊びやるんなら本格的にやんなきゃ面白くねえだろうが」
「子供じゃないんなら、そもそもごっこ遊びに興じるのはどうなんだろうか!」
「大人だってごっこ遊びは好きなヤツ多いだろ。ヨシュアンもこの前シチュエーション燃え?がどうのこうのっつってたし。何事も、やるなら本気だろ。だから本格的にやろうと思ってな!
ヤマダから聞き出した『冒険者ギルド』条件に合致する組織が存在する異世界を割り出してみた 」
「しれっとナニとんでもないことやってるんだぁぁああああっ!!」
それがここな、と地面を指差してみせるまぁちゃん。
爽やかに輝くその笑顔に、勇者様の渾身の叫びが大気を揺らした。
某月某日、晴れ。
冒険者ごっこを実践する為に、冒険者と冒険者ギルドの存在するどっかの世界にまぁちゃんの魔法でやって来ました。
特定の異世界を探し出すのは難しいって前に言っていた気がしますが、今回は条件付けをして検索するという方法を取ったのでなんとかなったそうです。
流石のまぁちゃんでも、世界間の移動は早々簡単に出来ない。
私だって異世界なんて初めてです。
こんなドキドキワクワクのごっこ遊びはいつ以来かな?
今日もなんだか楽しいことが起きそうです。
まずは早速だけど。
ヤマダさんが拘っていた『冒険者ギルド』とやらに行ってみましょうか。
何する場所なのか、イマイチよくわかりませんけれど!
私はせっちゃんと二人で歌いながら、仲良く手を繋いで『冒険者ギルド』に向かいました。
冒険者ギルドの場所、知りませんけれど!
異世界に解き放たれたリアンカちゃん&せっちゃん(放流)
強靭な外来種の乱入に、在来種の安否が気遣われます。
次回、冒険者ギルドでのお約束が……?




