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美少女がイケメンに悪戯する話

勇者様の結婚とか考えると、なんとなくこんなネタが浮かびました。

前々から、物語終了後のそれぞれの末路について設定だけは考えていたんですけれど。

子供の性格や人数、名前の設定はすっごくぼんやりとしかなく。

今回初めて、人格をつけました。


 はじめましての時には、名前と身分と立場を明言しなくてはいけない。

 家庭教師はそう言いました。

「王女様にご挨拶する時は……いえ、王女殿下のご尊顔を間近に拝せる者に身元不確かな礼儀知らずがいるとは思えませぬが、その三点を明らかに出来ぬ者は不審者と思ってくだされ。決して近寄ったり、親し気に接してはなりませんぞ。護衛騎士を盾にしてお下がりくだされ」

 それが礼儀というものなら、私はそれに従いましょう。

 私が礼儀知らずじゃ、お父様やお母様に恥ずかしい思いをさせてしまいますもの!


 私の名前は、リナーリア・セルケトル。

 人類の盟主と呼ばれる王家の治める王国の、第二王女です。


 王女だからもちろん、お父様は王様なのよ。

 とってもお綺麗で、格好良くて優しくて。

 お父様は私の自慢のお父様、とっても凄いお人なの。

 お母様と結婚する前は、『勇者』として魔境にいたこともあるんですって。

 私はまだ『魔境』に一度も行ったことがないけれど……お父様が、子供には悪影響だからって連れて行ってくださらないの。でも、お話に聞くだけでもなんだか想像できないような、凄いところなのよ。私、行ったことないけれど。

 でも、凄いところなのは絶対なの。

 お父様はその凄いところで、何年も『勇者』として活動していらしたの。

 たくさんの人から勇者として尊敬されていたのよってお母様が言っていたんだもの。みんなに愛される勇者だったんですって。

 それで、えっと……そうそう、魔境にいる間に、記録もたくさん作ったんですって。

 確か……『魔獣・魔物の年間狩猟数史上最多記録』に、『武闘大会(魔法ナシの部)優勝』『漢のしぶとさ選手権(人間の部)・精神編/肉体編総合優勝』、『可哀想な人コンテスト最多部門優勝』『バレンタインの日/女性からの告白最多記録』『第3回Mr.女装コンテスト優勝』……

 なんだか色々あるけれど、魔境特有の言い回しなのかしら?

 私の周囲では聞かない言葉や、言い回しが多くてよくわからない記録もたくさん。

 わからないことは、家庭教師に聞くべきよね!

「じょそうってなんですの?」

「草むしりのことですよ」

 家庭教師の先生は、やっぱり物知りです!

 でも草むしりかぁ……造園家のコンテストでもあったのかしら?

 お父様にお庭を造る趣味があるとは知りませんでしたわ。


 私はお父様からそっくり受け継いだ容姿の女の子で、お父様をそのまま女の子にしたみたいだってよく言われるの。髪も目も、お父様と同じ色。顔だって、お父様にそっくり。

 お父様はとても綺麗な人だから、お城の人たちはみんな良かったねって言ってくれる。

 お父様の事は大好き。

 だけど私はお母様のことも大好き。

 だから、本当は、お顔はお母様に似た顔が良かったのに……そう思ってしまいますの。

 本当に私の顔も色も、お父様そっくりだから。お母様に似ている部分が見つからないんだもの。

 お父様に似ているのは嬉しいけれど、お母様にも似ている部分がほしいのに。

 私と同じく、髪の色も瞳の色もお父様から継いだ上のお兄様は、お母様によく似たお顔をされていますのに。他の兄弟もみんなお父様とお母様、両方に似た部分を持っていますのよ。なのに私だけ、完全にお父様似で。なんとなく、私だけお母様から何も貰っていないような気がしてしまいます。

 寂しくなってしまいます。

 そう言うと、上のお兄様は私の頭をぽんぽんと撫でて仰いますの。

「そんなことないよ、リナーリア。君は、お母様によく似ているよ。とても大きなものを受け継いでいる」

「それはなんですの、お兄様。私、お母様にどこが似ていますの?」

「日頃の行いというか……中身?」

「お兄様? 私とお母様、性格が全然違うと思うのですけど……」

「うん、性格じゃなくって……魔境気質っていうのかな…………悪戯っ子なところが似ているだろう?」

「まあ、悪戯っ子なんて!」

 悪戯っ子なのは、その通りですけれど。


 綺麗で格好良くって優しくて、とても温かいお父様。

 いつだって私のことをしっかり受け止めて可愛がってくれる。

 お父様の事が大好きなのは当然だけど、中でも特に好きなところがあります。

 それは驚き慌てふためているところだったり、驚き愕然としているところだったり、驚き困惑しているところだったり……とにかく、驚いた時のお父様が特に大好きです。

 常日頃から何かしら大変な時の多いお父様だから、私が悪戯するまでもなくよく何かに驚いたり慌てたりしていますけれど……お父様の驚く姿が好きだから、かしら。

 いつの間にか、私は人の驚かせることが好きになっていました。

 特に、お父様程とはいかないまでも、顔立ちの整った男の人が驚くところ。

 驚いて、整ったお顔の表情が崩れる瞬間がとっても大好きになってしまいました。

 

 だから、ついつい。


 私、悪戯してしまいますの。


 一番引っかかってくれるのはお父様ですけれど、お父様はお忙しい方ですもの。

 お父様に遊んでいただけない時は、他の人に遊んでもらうしかありませんわよね。

 今日も私は、誰かを驚かせたいなぁって気持ちで標的探しにてこてこと行く。

 後ろをついてくる護衛の騎士さん二人。

 数日前に新しくやってきた若い騎士さんは「微笑ましいなぁ」と呟き、前から私の護衛をしてくれている騎士さんに脇を肘で攻撃されていた。「確かに見た目は微笑ましいが、騙されるな」ってどういう意味ですの?

 特に騎士の人たちを騙したりした記憶はないんだけれど……

 首を傾げながら、悪戯相手を探して庭園にやって来ました。

 遠目に見てもとっても目立つ人を発見です!

「あ、お父様!」

 お父様です。大好きなお父様がいます!

 お仕事中なら邪魔はいけませんから、遊んでなんて言えないけれど。

 お仕事中じゃなければ、お父様は何時だって優しく受け止めてくれる。

 今は……この頃、跡取り教育? でお父様と一緒に行動することが増えた、上のお兄様が一緒です。

 一瞬、お仕事中かしらって思ったのですけれど。

 どうやらお仕事の合間の、休憩時間みたいです。息抜きでお散歩、かな?

 今なら近づいても問題はなさそうなので、私は遠慮なくお父様に近付くことにしました。

「お父様~」

「ん? 君か、リナーリア。おいで」

 私が行動を起こすより、早く。

 私に気付いたお父様が、両腕を差し伸べる様に広げてくれました。

 しまった! 先手を打たれてしまいましたわ!

 お父様にそんなことをされてしまったら……胸に飛び込むしかありませんもの!

 私は右手に隠し持っていたモノをドレスの隠しポケットに急いでしまい、両腕を広げるお父様に向かって走りました。

「お父様~!」

「休憩中か、リナーリア」

「お父様も、お兄様も休憩中ですのね」

 勢いをつけて跳び付くと、お父様はぎゅう!

 両手でしっかりと私を受け止め、抱き上げてくださいました。

 ……完全に、用意していたモノをお父様に使う道は封じられました。

 この至近距離で試したら、私まで被害に遭ってしまいますもの。

 だから、

「お兄様、あげる!」

「え?」

 お父様の代わりに、私はお父様の隣に立っていたお兄様にソレを投げ渡しました。


 私謹製、イタズラ御用達催涙弾を。


「わ、ひゃあ!」

 お兄様の手に当たった衝撃で弾けた、小さなビー玉くらいの大きさの薬剤。

 そこから間を置かずに噴き出してきた煙は、綺麗なピンク色でした。

「リナーリア、何を……っ大丈夫か!?」

「お、お父様…………目が! 目がぁ!」

「慌てるんじゃない、落ち着け、落ち着いて……目を閉じているんだ。水場に移動して、すぐに洗い流そう。その後で侍医の元に……」

「お兄様、大丈夫?」

「いや、やらかした張本人が言う事じゃないからな!? 僕、リナーリアに何かした!?」

「ううん、そうじゃありませんの。ただ……」

「「ただ?」」

「新しく作り方を教わった、子供向け催涙弾の実験してみたくって……」

「どこの誰にその作り方を教わったのか、お父様に詳しく話してみなさい」

「というかリナーリア、兄の僕だから笑って許すけど、出会い頭にこういう真似は止めた方が良い。間違っても家族以外、それも一般人なんかにやっちゃ駄目だからな?」

「作り方はね、ムルグセストおにーさまに教わったの。才能あるって言ってくださったのよ? 効果を試したいなら、お父様が最適だって。お父様が駄目なら、お兄様でも良いって」

「ムルグセスト……! 彼は、俺に一体何の怨みがあるんだ」

「お父様への私怨による犯行だった場合、僕、完全にとばっちりじゃ……あ、なんだか段々目の痛みが治まってきた」

「効果があるのは三分だけってムルグセストおにーさまは」

「完全に悪戯用の代物か……確信犯か、ムルグセストさん。でもリナーリア、例え効果があるのが三分だけでも、これは駄目だ。一時は目が溶け落ちるかってくらい痛かったんだからな!」

「そうだ、無暗に理由もなく、悪いところのない相手を傷つけるのは『いけないこと』だ。こんなことを繰り返していたら、リナーリアは悪い子になってしまうよ」

「はぁい……お兄様、本当にごめんなさい。あんなに痛そうだなんて思わなかったの。ムルグセストおにーさまは、ちょっと涙が出るくらいの効果しかないって言ってましたのに……お兄様、ぼろぼろ涙が出ていましたの」

「わかってくれたら良いんだよ、リナーリア。お父様も、良いですよね」

「まだリナーリアは小さいから、今のうちに言い聞かせるべき、なんだろうけど……まずは、今度会った時にムルグセストには重々注意をしておかないとな。リナーリアも、わかっているね? 人を傷つけちゃいけない」

「はい、ごめんなさい……もう薬品()使いませんわ」

 次に悪戯する時は、片足だけがハマる落とし穴とかにしておこうと思います。

 今回はほとんど思い付きで、何の配慮もしていませんでした。

 今度からは、安全面にだけは考慮しておこうと思います。




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