表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/93

アルディーク家の捜査網

ちなみに時系列的にはセンさん来訪~アディオンさんが来る前。

 ――その日、村からは完全に誰も出られなくなった。

 視覚化する程の高密度で魔王の魔力が村の周辺に張り巡らされ、村の境界線に近づく者を高圧的に威嚇する。

 接触すれば、どうなるか……無謀な若者が手を伸べると、全身に銀色の光が突き刺さる。

 痛みはない。

 痛みはないが……そのまま光によって地面に縫い付けられ、誰がどうやっても動くことは叶わなくなった。

 魔王の魔法であれば、魔王にしか解除は出来ない。

 逃亡を図る者は問答無用で拘束後、尋問されることになる。

 確実にそうなるだろうと、説明されるよりも雄弁に明示されている。

 これはマジなヤツだ、と。

 結果を見て村人達は悟らずにはいられなかった。


 その日。

 魔境唯一の人間の村に、下着ドロという前代未聞の犯罪が発生した日。

 盗まれた者も、下着ドロが出たことを知らなかった者も。

 村にいた者は(すべから)く……取り物騒動に巻き込まれることとなる。


 下着ドロ追跡の作戦責任者は、アルディーク家の当主。

 村長さんだ。


 この騒動……アルディーク家が主導となり、窃盗犯の捕獲に全力を挙げることとなる。

 誰も関わらずに逃げることは叶わない。

 実際に行動方針や細かな役目の割り振りを、犯人確保という一つの目的に沿って彼らは一致団結して決めていく。

「それじゃあ、尋もn……聴取は父さんの担当で」

「ああ。村で盗難騒ぎとあっては、御先祖様に申し訳ないからな………………窃盗犯が誰か、しっかりと見極めることとしよう」

 拷問にかけるというのなら、兎も角。

 尋問……つまりは自白を促す為に怪しげな人に懇々と話をするとなれば、我が家で最も適任なのは間違いなく父さんです。

 普段から悪さをした子供や村の若い衆に反省を促したり話を聞いたりといった役目を負うことも多いので、きっと上手くやってくれることでしょう。

 父さんのお説教を前に、嘘をつき通せる人がいるとも思えません。

 我を張れば後で痛い目を見るだけですし!

「私は今から全力を挙げて強力な自白剤の調合に取りかかるから、進展があったら薬師房の方に呼びに来てね」

 犯人が素直に口を割ったとしても、全てを話すかどうかはわからない。

 黙りを決め込む可能性もなくはない。

 だから、私はすっきり素直になれるお薬を用意するとしましょう。

 ちょっと……効果が切れた後一年くらいは頭がふわふわしたり、不意打ちのように眠気を襲ってきたりすることもあるかもしれませんが、もしも下着ドロなら同情の余地はありません。

 知っている中で、一番強力な自白剤をご用意して見せます。

 この案件について、私の容赦はありません。

 ……あ、そうだ。むぅちゃんにも協力してもらわないと。

 魔法的な方向で口を噤む人もいるかもしれません。

 魔力を用いて作用を及ぼす……自白用の魔法薬を用意してもらいましょう。

 この件については、きっと村人ならみんな無条件で協力してくれると思います。……疑われる余地を作りたくはないでしょうし。

「おう。そんじゃ村の中の捜索は俺と勇者でやるわ」

「……わかった。盗難の被害も広いし、手分けして調査しよう」

 助っ人に来てくれた、現職魔王様が頼もしく胸を叩きます。

 下着を盗まれたとわかった瞬間に、私がまぁちゃんを呼びました。

 呼び方は簡単確実、我が家の背後にそびえ立つ魔王城へ向けて「まぁちゃん」と魔王様のお名前を呼ぶだけ。お手軽です。

 速攻で駆けつけてくれたまぁちゃんに、既に村を封鎖してもらった後。

 このタイミングなら……きっと犯人は、まだ村の中のどこかにいる筈。

 村の外に奇跡の偶然で逃れることが出来ていたとしても、りっちゃんがいます。

 下着ドロと聞いて、まぁちゃんがりっちゃんに頼みました。

 犯行の可能性があるヤツは、一人の例外なく捕獲しろ、と。

 りっちゃんは有能なので、村の外の捜索はお任せして問題ないと思います。 

 だから私達は村内の調査を中心に犯人探しです。

「疑わしい奴はとりあえずしょっ引くか。怪しいのは十中八九、村に来て間のない奴の誰かだろうけどな。村への滞在一年未満の奴を中心に、いつもと違う行動や不審な動きを見せる奴が狙い目だな」

「……まぁ殿、それだと俺も範囲に入るんだが」

「お前は違ぇよ」

「え」

「お前は違うだろ。下着ドロなんざしねぇ」

「まぁ殿、俺のことを信頼しt――……」

 はっきりと、まぁちゃんは勇者様の目を見て断言しました。

 一年未満の滞在となると、勇者様はしっかり範囲に入るけど。

 それでも勇者様を疑う余地はないと、まぁちゃんが眼差しで強く語ります。

 同時に口でも強く語りました。


「お前はむしろ盗む方じゃなくて盗まれる方だ」


 まぁちゃんのその言葉に、勇者様はしっかりと口元を引き結んで空虚な色に表情を染め抜きました。

 なんという、『無』……まるで悟りを開いた仙人のようです。

「………………」

「ん? 勇者からのツッコミがねぇな……。何か言うかと思ったってのに」

「まぁちゃん……勇者様も、下着盗まれたんだよ」

「え、マジで?」

 そう、まぁちゃんは見事に地雷を踏み抜いたのです……。


 こんな悲しくも悔しい思い、もう誰にも……勇者様にも、させない為に。

 下着ドロは、絶対に、捕まえます。


 ……我が家に盗人に入ることの意味、しっかりと知らしめた上で悔い改めさせましょう。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ