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暗黒の生じたる鍋の話

やっぱり冬は鍋だよね!ということで。

「リアンカ、鍋しないか?」

「あれ、リス君にもぉちゃん? 藪から棒にどうしたの」

 いきなり二人の青年に声をかけられたのは、私が修行中に崖から転落した勇者様の捻挫を手当てしている時でした。

 いきなりのお誘い…嬉しいし、お鍋は食べたいけれど。

 なんで私に声をかけるのでしょう?

「ちょっと孤児院(うち)のチビ共と山狩りをしたんだが…」

「待て、孤児院の子供に何をさせているんだ!?」

 それまで大人しく治療を受けながら、何ともなしに話へと耳を傾けていた勇者様が顔を引き攣らせます。

「まあそれで、チビ共が大量に茸を採ってきてな」

「まさかのスルー!?」

「せっかくだから茸鍋を食べたいという声に従い、鍋にした訳だ」

「ふんふん、それで?」

「ああ、それで鍋を作ってから気付いた訳だ。


  そういえば俺達も子供達も、それほど茸にくわしくないなぁと  」


「っておいぃぃっ! ストップ! スト-ップ!!」

「まあ聞け、勇者さん。丁度いいからお前も鍋に招いてやる」

「その前の言葉を聞いていたら、それがただの死刑宣告にしか聞こえない!」

「茸の残りを検分したら、俺でも確信を持って食えると判断できる茸()あった」

「待て!『も』ってなんだ、『も』って!!」

「だけど俺達の知らない茸も大量にあった」

「アウトだ! それはアウトだろ、なあ…!!」

「そこで一緒に鍋を囲みがてら、山の幸と毒物に詳しいリアンカに選別してもらおうかと」

「鍋にして一緒に煮込んでいる時点でお終いだよな!?」

「うーん…正直、毒茸の毒エキスが良い出汁になっちゃってる危険鍋の可能性もなくはないんだけどなー……チビ共が楽しみにしちゃっててさぁ。でもリアンカがいたら、いざという時も解毒してもらえるだろ?」

「わあ、私、信頼されてるー」

「なんでそこまで命がけの危険を冒して危険物と化した鍋をつつきたいんだ!?」

「「そこに鍋があるからだ!」」

「駄目だ! この人達、駄目な人だ…!」

「というわけで旅は道連れ、お前も来い。勇者さん」

「それ絶対に死出の旅路じゃないかーっ!!」

 そんなものの道連れにするな、と。

 叫ぶ勇者様は逃げようとしましたが…

「うぐ…っ ね、捻挫が!」

 足を痛めていた為に、あえなく捕獲されました。

「よっし行くぞ! 孤児院で鍋パーティだ♪」

「観念して一緒に来てもらおうか、勇者さん」

「こ、殺されるーっ! 地獄からの使者かお前達!」

 それは、薬物耐性Lv.高な勇者様が危機感を感じる、凄身を増した笑顔で。

 …まあでも、薬物耐性と毒物耐性は似て非なるものだし仕方ありませんが。

 魔王さんちの予備役軍人、バリカンの二人組は二人がかりで勇者様を担ぎ、運びだしてしまいました。

「あ、まだ手当て終わってないよー!」

「リアンカ、君はこの展開でそれしか言うことがないのか…っ?」

 そうして、私も。

 なんだか面白そうだったので、毒関係の応急処置セットを鞄につめて三人の後を追いかけました。

 本当に茸狩りをするんなら、毒茸が混ざってた時点で他の茸も一緒にしていた分は全部捨てないといけないんだけどなぁ…って。そんなことを思いながら。


 孤児院につくと何とも食欲を誘う美味しそうな匂い。

「………匂いだけは、まともなのに。俺の嗅覚は騙されている」

 そして煤けた背中の勇者様。

 台所を覗いてみると、そこでは虚ろな顔のセンさんがひたすら鍋の灰汁を掬っていました。

 なんだかとっても、目が死んでいます。

「掬っても、掬っても………一向に灰汁が減らないのはどうしてだろうな」

「さあ、どうしてだろうな? 根気入れて調理を続けろセンチェス」

「うぃーっす………」

 もう一度だけ言います。

 なんだかとっても、目が死んでいました。

 勇者様が遠くを見る眼差しで、「やばい…」と呟いています。

 うん、私も同感かな☆

「それでどうだ、リアンカ。お前毒に詳しいだろ」

「そんな毒にしか興味ないみたいな言い方されても…とにかく、見ても良いかな?」

 ぶっちゃけて言うと、私だけはどんな毒に中っても死ぬことなんてありませんが…むしろ平然と毒茸だろうと平らげる自信がありますが。(毒耐性Lv.カンスト)

 流石に他の面子は、魔境の毒茸に当たったら一溜りもないでしょう。

 ………ないと、思います。

 えっと、ないよね…?

 ああ、でも。

 孤児院の子供達も食べるんですから、やっぱりちゃんとチェックしないと。

 子供達は、人間なんですから。


「えーと…昇竜茸に、脚紅猪口、偽黒初に月夜茸………踊茸、黄金天狗茸、土被にー毒紅茸でしょ? あと雲母茸、雛日傘、臼茸ー。膠箒茸、黄金箒茸、大茶碗茸、赭熊編笠茸、うわ…『殺しの天使』毒鶴茸まである…蛇茸擬も、苦栗茸も。日陰痺茸、毒笹子、広襞茸、鼠占地…森枯葉茸…凄いなぁ」

「………リアンカ、ところどころ名前だけで危険そうな気配がするのは気のせいか?」


 恐る恐ると、検分を続ける私に勇者様が問いかけます。

 うん、その感想は正しいかな!

 私はもぉちゃんとリス君に、我ながら真顔になっているだろう顔を向けました。

「それで、誰を殺したいの」

「すげぇ真顔でダイレクト!」

「そうか、リアンカがそう言っちゃうレベルなのか…」

「これ食べたらはっきり言って死ぬよ」

「おぅ…」

 わかってた、予想してたと呟いて項垂れる勇者様。

 リス君はそっぽを向いて知らん顔。もぉちゃんは気まずそうに体を揺すっている。

 私はお玉で鍋を掻き混ぜながら、うふふと乾いた笑い。

「ふふふ…これ食べて、何人が生き残れるかなぁ。私は確実に生き残れると思うけど、流石にこんなに沢山のエキスが凝縮された鍋…一度に食べたら体調崩しそー……」

「そ、そんなにやばい?」

 上目遣いで尋ねてきたもぉちゃん。

 私は「ばっちり☆」としか告げようがありません。

「まぁちゃんでもお腹壊すんじゃない?ってくらいに毒物混入され済みだよ☆」

「おぉ…」

「とりあえず、憎くない人に食べさせるのはお勧めしないかなぁー」

「憎い相手だったら食わすのか!?」

「私はやりませんけどね。流石にこれ食べたら地獄でしょう」

「そ、そんなに…」

「茸は中ったら本気できついって聞くしね」

「きついどころじゃないよな! 死ぬよな!? なあ…!」

 慌て調子で、私の両肩を掴んで勇者様が揺さぶってきます。

 うん、中々動転してるね!

「ぶっちゃけこれを今晩のおかずにするのはお勧めしないよ?」

「あちゃー…どうすっかなぁ。ガキ共、楽しみにしてんだよ。ナベ」

「うーん…なんにしても、代わりのお夕飯急いで準備した方が良いんじゃない?」

「今日の夕飯の材料、(毒)茸鍋で使い切っちまったからなぁ」

 困ったように唸る、もぉちゃん。

 リス君も眉間に皺を寄せて、悩ましげ。

 そうだよね…お夕飯の材料もその辺から降って湧くわけじゃないし。

 でも孤児院の、育ち盛りの拾い子のみんなにご飯抜きは鬼でしょう。


 ………あ、そーだ。

 良いこと思いついちゃった。


「そうだ、お鍋にしよう!」

「「「「は?」」」」

 困惑と共に、何を言っているのかと。

 そう言いたげな、男衆の声がピタリと揃いました。



 それからの動きは、迅速の一言。

 関係各所、それから心当たりの方々に声を色々おかけしまして。

 皆で鍋パーティやるぞ、と。

 参加を希望する方々はそれぞれ鍋に使う食材を持ち寄りで、と。

 そう友人達に通達して回ったわけです。


 それから私は孤児院子供たちを率いて、安全で食べられる茸をレクチャーしつつ茸狩り。

「リアンカちゃん、これはー?」

「わあ、立派な毒茸だね!」

「でもこのあいだ食べた茸、こんなだったよー?」

「判別の難しい玄人向けの茸は、詳しい人がいる時じゃないと手を出しちゃ駄目よ?」

「えー…!」

 明らかに安全と分かる茸以外に手を出さないよう説得するのに、意外に時間を食いました。

 

 その間にも勇者様やセンさんは森へお肉狩りに向かって剣を存分にふるい。

 リス君ももぉちゃんも具材集めに余念がありません。

 私が誘った魔王城の面々…まぁちゃんやせっちゃんも各々で色々持ち寄ってくれて。

 りっちゃんは具材だけじゃなくって、調理まで手伝ってくれたし。

 画伯は信奉者(ファン)からもらったっていう珍しい食材を持ってきてくれて。


 

 そして。



 


 その夜、ハテノ村で最も大きな施設…孤児院の夕飯はたいそう盛況な賑わいを見せる。

 沢山のお客様が、それぞれがこれぞという食材を持ち寄り、大賑わい。


 当然の帰結として、闇鍋パーティと化した。





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