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とある女魔王の結婚4

側近の素性が一部明らかに…!


今回、一部下ネタを含む下劣な台詞が含まれております。

そういうのが苦手という方はご注意を!

 その光景を目にした瞬間、セネアイーディ様は叫んだ!


「――謀ったな貴様らぁぁぁああああああああっ!!」


 貴様()と言いつつ、麗しき女魔王様の目線は、がっちり側近を睨み上げていた。

 素知らぬ顔で明後日の方を向き、口笛など吹いている側近。

 この試合が終わったら、絶対に殴ろう。いや、今すぐにでも殴ろう。

 セネアイーディ様は、強く強くそう思った。


 試合場に入るなり、叫んだセネアイーディ様。

 彼女が目にしたものとは………


 試合場のど真ん中に、祭壇!

 その奥に佇む、笑顔が胡散臭い牧師!

 花を抱えた巫女に、頭を抱えた勇者。

 優雅に竪琴で結婚行進曲なんて奏でちゃってる吟遊詩人。

 そして妖しく微笑む、神官がひとり。

 

 それはどこからどう見ても、何かの儀式会場で。


 その全員が、それぞれの職業に規定された最上級の礼装を着ていた。

 勇者でさえ、聖鎧に銀糸刺繍の入った純白のマントと厳かな装いをしている。

 牧師は婚姻儀式を取り仕切る時にのみ着用する、特別な祭服だ。

 真っ白な神官の礼装を纏った神官と並べると、どちらが祭祀かわからない。

 しかし、その構図…

 白い花々、婚礼の曲。

 荘厳に場を作る祭壇、控える祭祀。

 そして微笑む青年…


 それはどこからどう見ても、結婚式場を模していた。

 

 セネアイーディ様が叫んだ理由も、それだけでわかろうというものだ。

 即席結婚式場を視認した女魔王は己の姿を見直し、置かれた状況を理解した。

 ノリのよい魔族の観衆も、どことなしか戸惑っているように見えた。

 しかしそれも、セネアイーディ様が入ってくるまでで。


 明らかな花嫁衣裳を身に纏った女魔王の姿に、観衆も何となく察した。


 今では、物凄い大音声で歓声と口笛と悲鳴が聞こえている。

 元来ノリの良い魔境の民達のこと、欠片の戸惑いも感じさせない熱狂である。

 本来なれば第一の当事者たる女魔王の感情はモロに置き去り状態。

 だがそこに、味方である筈の側近から更なる追撃(おいうち)が!

「陛下~! そのドレス、陛下の母君様が遺された形見のウエディングドレスなんでー…くれぐれも、汚したり破いたりしないようにお気をつけくださ~い?」

「よくお似合いですよ、陛下!」

「冥府の父君様も、さぞお喜びでしょう…!」

 しかも四天王まで側近に追従し始めた。

 そんな頭の痛い状況に、セネアイーディ様も憤慨MAXだ。

「おのれ、貴様ら…妾ではなく勇者どもに味方をするとは何たる不届き者じゃ!」

 当代の魔王陛下は、客観的な目で見て孤軍奮闘だった。

 何故か魔王陛下の部下たちが、こぞって勇者…

 否、神官の味方をしているのは気のせいではないはずだ。

「貴様ら、妾への忠誠はどこへ消えうせてしもうたのじゃ!」

「済みません! でも我らも我らの結婚がかかってるんです!」

「人生の重大事にて!」

「そんなもの、妾とて同じじゃぁぁああああああっ」

 進み出て進言したのは、四天王の二人。

 やたらとセネアイーディ様にドレス(ウエディング)を勧めていた二人だ。

 彼女たちはチラリとセネアイーディ様の対戦者サイドへ視線を流し…


「マリウス、がんばってぇ~!」

「牧師様、信じています…!」


 恋する乙女の目をしていた。


「きっ、貴様ら!? いつの間に…!」

「報告が遅れました………陛下、私、結婚すると思います!」

「私もです! きゃあっ言っちゃいましたー!」

「求婚か! 求婚の慣習狙いなのか! だったら自分で目指せばよかろうに…っ」

 四天王は、武力で選ばれる。

 代々の武闘会における実力者が就任する席である。

 勿論、現在の四天王も前大会の覇者達である。

 つまりは各部門優勝者に与えられる栄誉、魔王とのガチバトルに近しい者達。

 向けられた女魔王の疑問に、しかし二人はわかってないなぁという顔をした。

「「プロポーズは、するよりされる方が良いに決まってるじゃないですか…!!」」

 その顔には、何故か反論し難い迫力があった。

 そういえば、あの二人は結構ないい年である。

 魔族なので当然ながら寿命も結婚適齢期も長いのだが………

 吟遊詩人のお相手は、百四十八歳。

 牧師のお相手は百二十一歳である。

 ちなみに魔族の寿命は、個体の強さや魔力に比例する。

 四天王にまで上り詰める様な彼女らには、当分寿命は訪れそうにないが…

 どちらも、百歳を越えたあたりから焦っているようだと聞いている。

 今まで結婚を夢見て焦れに焦れていただけに、固執するものもあるのだろう。

 理想が妙に乙女チックに凝り固まっていても不思議ではない。

 何倍も年齢が上の二人から鬼気迫るモノを感じ、女魔王は顔を引き攣らせた。

 これには触れてはいけない―― 

 大陸最強の魔王様は、しかし己の危機察知本能が強く訴えるのを感じる。

 セネアイーディ様も結婚にかける情熱についてはわからないでもない。

 しかし結婚願望を抱えて百年熟成されてしまった美女二人の心情に関しては…


 大陸最強の女魔王様はそっと、飄々と微笑んでいる側近の方へ視線を移した。

 

「貴様は!? 貴様は何のつもりなのじゃ! 妾を結婚させようと画策しておるのは知っておったが…このような強攻策に出るとはどういうつもりじゃ!」

「いやー…私も陛下がここまで強情とは知りませんでしたから、焦ってつい」

「「つい」で貴様は主君を嵌めるのか!!」

「私も気付けばいい年ですから。知ってます? 五百歳突破しちゃったんですよ」

「知ってるも何も、盛大に祝ったじゃろうが! それがどうしたのじゃ!?」

「そろそろ私も寿命が気になりますし、お嫁さん探したいんですよねー…でも私が結婚するには、先に陛下に結婚していただかないといけないんですよ」

「主君よりも先に結婚するわけにはいかぬとでも申すつもりか、貴様が!? 貴様、そのような柄ではないじゃろうが! むしろ空気も読まず、気にもせず、さっさと式を決めて笑顔で招待状を手渡してくるようなタイプじゃろうがーっ!!」

「さすが陛下! 臣下の性格もよく把握しておいでです!」

「大体妾は、部下の婚姻についてとやかく言うほど狭量ではないわ! 六年前のマルエルの婚姻とて、笑顔で祝辞を述べておったじゃろうが…!」

「あ、私が結婚しないのは別に遠慮しているからじゃありませんよ? 魔王城の重臣…魔族の有力者達からの厳命でして」

「は? 爺どもが…?」

 思いがけない言葉に、怪訝な顔をするセネアイーディ様。

 そんな彼女に、側近は言葉の爆弾を投下した。

「実は私め、陛下の大叔父ではありますれど…陛下に釣り合いの取れる数少ない有力魔族として数えられておりまして」

「そんなことは知っておる。それがどうした」

「いえ、そのー…私には全くそんな気はないんですよ? ないんですけどね?


  魔族の古老方に、陛下の婿がね最有力候補として推されていまして  」


 その瞬間、世界が凍りついた。

 側近の性格を知る誰もが、正気を疑う目をしている。

 女魔王はその際たるもので、目の奥には恐怖すら窺えた。

 試合前のごたごたを傍観していた神官も顔が怖いことになっている。

 やがて胸がつかえそうになる中、唾を飲み下して女魔王がようよう口を開く。

「おいぃ!!? 初耳じゃぞ!?」

「そりゃお耳に入れないようにしてましたよ。気まずいじゃないですかー。私、ほんっとにそんな気全然ないんですから。なのに爺どもは陛下がご自分で婿を確保できなかった場合の保険として私の身柄を強制確保しようと働きかけてきますし。ほんっっっとうにそんな気、私には全然ないんですけどねー。だから陛下がご成婚なされるまで、私の結婚には強制ストップが…」

「妾とて貴様なぞ死んでも御免じゃーっ!! 婚姻五分後にして死にたくなるほど後悔する未来しか見えぬわっ!」

「ですよねー。私も陛下、全然好みじゃありませんし。私の理想とする女性は、もう少しむちっとしていて、太腿がもっと、こう………それで愛らしい獣耳が付いていたなら最高ですね! エルフの母君にボディラインの良く似た陛下は私のストライクゾーンを大きく逸脱してるんですよ」

「誰が貴様の性癖を語れと言うたのじゃ! 妾も貴様なぞ対象外じゃ、対象外!」

「でもこのまま陛下が婿を確保できなかったら、私を宛がわれる未来ですよ?」

「世界はなんて惨酷なんじゃ…っ」

「ちなみに(わたくし)、少々特殊な性癖を有していますし、それを相手にも付き合わせて特殊なプレイを楽しみたい派です。あ、あと新妻には裸エプロンを強要してにまにま笑いながら視姦して楽しむタイプですが」

「最悪じゃな貴様!! 子供の耳にも入る状況でなんてことを(のたま)うのじゃ!?」

「さて、陛下。


  ご自分で婚姻相手を確保しますか? それとも私と結婚したいですか?  」


「……………」

 セネアイーディ様の顔が、素晴らしく露骨に強張った。

 そのままくるりと、側近に背を向ける。

 それはつまり貴賓席の高段に背を向けることで…

 今の彼女の目の前には、試合場の中央。

 同じように強張った神官と、彼の率いる仲間たち(勇者含む)がそこにいる。


「………」

「………」


 暫し、誰も口を挟めない空気が漂う。

 女魔王と神官は、追い詰められたような…だが猶予を与えられたような、なんとも言えない気分を背後に感じながら暫し目を逸らすことなく見詰め合う。

 見詰め合っているだけでは結論は出ない。

 既に己の気持ちを言葉にし、要求を迫っていた神官の思うところは明らかで。

 後は、女魔王様が己の思うところ…答えを、返すのみなのだが。

 後はただただ、セネアイーディ様の言葉を誰もが待つだけなのだが。


「………さて、待たせたの審判。試合の開始を宣言するがよい!」

「え、良いんですか」

「二度とは言わぬ。始めさせよ!」

「……………はっ」


 セネアイーディ様は全部棚上げして、後回しにした。

 まるで混乱極まって、今は何も考えたくないと言わんばかりに。

 その無言の主張を受け取って、神官の顔が引き攣った。


「………ちょっとは猶予を与えて手加減して差し上げようとも思いましたが」

 この期に及んで往生際の悪さを見せる女魔王に、神官の顔が微笑む。

 その顔には空々しく感じる爽やかさが…作り物めいた強張りが見える。

「あのような話を聞かされては、此方も…遠慮する訳には、参りませんね」

「ちょ、おい? あ、アドニス? おい…?」

 戸惑い、若干腰が引けつつも付き合いの長い勇者が顔を覗き込むと…

  ガ…ッ

 神官に、顔を掴まれた。

「!?」

 慌てもがく勇者には目もくれず、神官は慈愛すら漂う微笑で仲間達に宣言する。


「プラン、『B』でいきます」

「「えっ!?」」

「それは、また…勝負を決めるつもりですね?」

「ええ、もう少し泳がせて差し上げようかとも思いましたが…うかうかとはしていられないようですからね。彼女を追い詰めることになってしまいますが、きっと神もお許し下さるでしょう」

「ふふ、私からも祝福を差し上げましょう。愛らしい婚約者を得る協力も沢山していただいたことですし、出来うる限り最高の助力をさせていただきますよ」

「…僕も、素晴らしい女性と出会えました。アドニスの親切は忘れていません。頑張ります」 

「わ、私も…アドニスはお兄様みたいな人だもの。手助けは惜しみません!」

「ありがとうございます、皆さん…」


 試合を、前にして。

 魔王に挑戦しようというパーティの間に決意と覚悟を確認するように言葉が交わされる。そこには、打算と恩義に裏打ちされた友情の絆が展開されていた。


 そしてパーティリーダーの、はずなのに…

 ただ一人、何故か疎外感を味わう勇者が、諦めの表情で遠い目をしていた。 





側近

 外見年齢はセネアイーディ様よりちょっと年上、くらい。

 獣耳も好きだけど、角も凄く好きなのでどちらも持たないセネセネ様は対象外。

 細身綺麗系よりむっちり可愛い系が好み。

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